米国で先月、新たな免疫チェックポイント分子「LAG-3」に対する抗体医薬レラトリマブが承認されました。LAG-3に対しては、米メルクや同リジェネロンなどが抗体医薬を開発しているほか、TIGITやCSF-1/CSF-1Rといった別の免疫チェックポイント分子を標的とした薬剤の開発も活発に行われています。免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の市場は今後も右肩上がりの成長が見込まれますが、当分は抗PD-1抗体「キイトルーダ」を擁するメルクの一人勝ちが続きそうです。
抗LAG-3抗体レラトリマブ オプジーボとの配合剤承認
米FDA(食品医薬品局)は3月18日、米ブリストル・マイヤーズスクイブが開発した抗LAG-3抗体relatlimabと抗PD-1抗体ニボルマブ(製品名・オプジーボ)の固定用量配合剤「Opdualag」を承認しました。適応は「切除不能または転移性悪性黒色腫(成人または12歳以上の小児)」。抗LAG-3抗体の承認は世界初です。
LAG-3(リンパ球活性化遺伝子3)は、PD-1と同じようにT細胞を抑制する免疫チェックポイント分子。両者は腫瘍が浸潤したリンパ球上に同時に発現することが多く、抗LAG-3抗体と抗PD-1抗体の併用は、いずれかを単剤で投与した場合よりもT細胞の活性化を促進するとされています。Opdualagとニボルマブ単剤を比較した臨床第2/3相(P2/3)試験では、Opdualag群はニボルマブ群に比べて無増悪生存期間の中央値を2倍以上に延長しました(Opdualag群10.1カ月、ニボルマブ群4.6カ月)。
Opdualagは欧州でも申請中。米FDAが主導する「Project Orbis」(複数の国の規制当局が抗がん剤の承認申請を同時審査する枠組み)のもと、オーストラリア、ブラジル、スイスでも審査が行われています。日本ではブリストルと小野薬品工業がP1/2試験を実施中です。
追うメルク、ロシュは抗TIGIT抗体が申請間近
LAG-3を標的とした薬剤は、米メルクや米リジェネロン・ファーマシューティカルズなども開発を行っています。メルクの抗体医薬「MK-4280」(一般名・favezelimab)は大腸がんを対象に抗PD-1抗体「キイトルーダ」(ペムブロリズマブ)との併用療法がP3試験の段階にあり、非小細胞肺がんや腎細胞がんなどでもP2試験を実施中。リジェネロンは抗体医薬の「REGN3767」(fianlimab)を固形がんと進行血液がんを対象に開発中で、現在P1試験を行っています。
LAG-3は、CTLA-4とPD-1/PD-L1に続いて薬剤が実用化された3つ目の免疫チェックポイント分子となりましたが、ほかにも「TIGIT」「CSF-1/CSF-1R」「TIM-3」といった免疫チェックポイント分子に対する薬剤の開発が活発に行われています。
抗TIGIT抗体では、ロシュの「RG6058」(tiragolumab)が非小細胞肺がんを対象に抗PD-L1抗体「テセントリク」(アテゾリズマブ)との併用で年内の申請を予定。メルクの「MK-7684」(vibostolimab)もP3試験に進んでおり、ブリストル/小野薬品の「BMS-986207 /ONO-4686」はP1/2試験を実施中です。
向こう5年で市場は倍増 メルク一人勝ち続く
2011年にブリストルの抗CTLA-4抗体「ヤーボイ」(イピリムマブ)が世界初の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)として米国で承認されて以来、複数の抗PD-1/PD-L1抗体が相次いで登場し、ICI市場は短期間で急成長してきました。今後も、既存のICIが適応がん種を広げるとともに、ほかの免疫チェックポイント分子をターゲットとした薬剤が次々と承認される見通しで、市場は右肩上がりの成長が見込まれています。
英調査会社エバリュエートによると、15年に約28億ドル(約3528億円)だったICIの世界市場は、21年に約367億ドル(約4兆6242億円)まで拡大。26年の市場規模は21年比1.9倍の約712億ドル(約8兆9712億円)と予測されています。
現在、世界で最も売れているICIは米メルクのキイトルーダで、21年の売上高は約172億ドル(約2兆1672億円)。ブリストル/小野薬品のオプジーボ(約75億ドル=約9450億円、これとは別に小野薬品が21年度売上高として1100億円を予想)や、ロシュのテセントリク(約33億スイスフラン=約4422億円)、英アストラゼネカの抗PD-L1抗体「イミフィンジ」(デュルバルマブ、約24億ドル=約3024億円)などが追いかけますが、市場はキイトルーダの独走状態となっています。
中国勢が存在感
エバリュエートによると、26年のICI市場の企業別売上高は、メルクが約279億ドルで引き続きトップに位置し、ブリストルが約148億ドル、ロシュが約84億ドル、アストラゼネカが約44億ドルで続くと予測。5年後もメルクの一人勝ちが続きそうです。
メルクは抗LAG-3抗体MK-4280や抗TIGIT抗体MK-7684のほか、抗CTLA-4抗体「MK-1308」(quavonlimab、P3試験)などを開発中。ブリストルは、抗TIM-3抗体「BMS-986258」(P2試験)や抗CSF-1R抗体「BMS-986227」(同)などがパイプラインに控えています。
この分野では中国勢の動きも活発で、26年には江蘇恒瑞医薬(ハンルイ医薬)が約24億ドル、ベイジーンが約13億ドルの売り上げを予測。ハンルイは抗PD-1抗体camrelizumabを、ベイジーンは同tislelizumabを、いずれも19年に中国で実用化しました。ベイジーンは昨年、tislelizumabの北米、欧州、日本での開発・販売権をスイス・ノバルティスに導出するなど、存在感を示しています。