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「キイトルーダ」4度目の薬価大幅引き下げ…「再算定見直しを」MSD 異例の訴え

更新日

前田雄樹

8月1日、MSDの免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」が、競合薬の類似品として市場拡大再算定の適用を受け、薬価が11.5%引き下げられました。同薬が再算定による大幅な薬価引き下げを受けるのは、2017年2月の発売以降4度目。この間、キイトルーダの薬価は収載時のおよそ半分まで下がっています。

 

こうした中、MSDは7月27日、「薬価制度改革における課題」と題する記者会見を開催。カイル・タトル社長らが再算定ルールの問題点を指摘し、「このような薬価引き下げが今後も続くなら、継続的な開発投資が難しくなる」などと見直しを訴えました。薬価制度に対する製薬企業の意見は、業界団体が集約した上で発信されるのが一般的。個別の企業がメディアを集めて主張を行うのは珍しく、まさに異例の訴えとなりました。

 

数量増も売り上げ伸びず

キイトルーダはMSDにとって最大の主力製品。IQVIAの医薬品市場統計によると、20年度の同薬の売上高は1183億円(薬価ベース)で、現在、日本で最も売れている医薬品となっています。

 

ただ、ここ2年ほどの売り上げは決して思わしくありません。発売時に2がん種2適応だった適応症は8がん種10適応まで広がり、それに伴って販売数量は増加している一方、四半期ごとの売上高は19年第3四半期(7~9月)の373億円をピークに減少。20年第2四半期(4~6月)には279億円まで減少し、その後は300億円前後で横ばいが続いていて、20年度は12.9%の売り上げ減となりました。

 

【「キイトルーダ」四半期ごとの売上高推移】(単位:億円): 18_2Q/192.48※用法用量変化再算定 |18_3Q/202.76 |18_4Q/230.8 |19_1Q/249.07 |19_2Q/315.78 |19_3Q/372.99 |19_4Q/346.2 |20_1Q/323.09※特例拡大再算定 |20_2Q/278.88※特例拡大再算定 |20_3Q/287.38 |20_4Q/311.3 |21_1Q/305.13 |※売上高は薬価ベース。IQVIAの医薬品市場統計などをもとに作成

 

その原因となっているのが、度重なる再算定ルールの適用による薬価の引き下げです。

 

キイトルーダは17年2月の発売以降、これまでに4度、10%を超える大幅な薬価引き下げを受けています。18年4月の薬価改定では、競合薬「オプジーボ」(小野薬品工業)の類似品として用法用量変化再算定が適用され、11.2%の薬価引き下げ。20年の2月と4月には特例拡大再算定によってそれぞれ17.5%と20.9%の引き下げを受け、今年8月1日には市場拡大再算定を受けた「テセントリク」(中外製薬)の類似品として11.5%引き下げられました。現在の薬価は1バイアル21万4498円で、発売時(41万541円)から48%下がっています。

 

【「キイトルーダ点滴静注100mg」薬価の推移】(時期/適用された再算定ルール/薬価/引き下げ幅/累計引き下げ幅): 17年2月薬価収載/―/41万541円/―/― / |18年4月薬価改定/用法用量変化再算定(オプジーボの類似品)/36万4600円/▲11.2%/▲11.2% |19年10月消費増税に伴う薬価改定/―/37万1352円/1.9%/▲9.5% |20年2月四半期再算定/特例拡大再算定(年間販売額1000億円超に該当)/30万6231円/▲17.5%/▲25.4% |20年4月薬価改定/特例拡大再算定(年間販売額1500億円超に該当)/24万2355円/▲20.9%/▲41.0% |21年8月四半期再算定/市場拡大再算定(テセントリクの類似品)/21万4498円/▲11.5%/▲47.8% |※MSDの会見資料をもとに作成

 

米メルクの20年12月期決算によると、キイトルーダの世界売上高は143億8000万ドル(約1兆5674億円)で前年から30%増加。世界的に売り上げ拡大のフェーズにある中、日本だけが唯一、減少に転じているといい、薬価引き下げの厳しさを物語っています。

 

再算定 4つの問題点

市場拡大再算定は、薬価収載時の予想を超えて大きく市場が拡大した(=売り上げが大きくなった)医薬品の薬価を引き下げる仕組み。通常の市場拡大再算定は「年間販売額150億円超かつ予想の2倍以上」または「年間販売額100億円超かつ予想の10倍以上」で最大25%引き下げ、特例拡大再算定は「年間販売額1000億円超かつ予想の1.5倍以上」なら最大25%、「年間販売額1500億円超かつ予想の1.3倍以上」なら最大50%の引き下げとなります。再算定による引き下げは、従来は2年1回の薬価改定のタイミングで行われていましたが、18年度からは四半期ごとに年4回行われるようになりました。

 

MSDの笹林幹生執行役員(マーケット・アクセス部門統括兼流通担当)は会見で、市場拡大再算定の問題点として、

▽適応拡大が再算定を引き起こすリスクとなり得るため、適応拡大への投資判断を困難にしている

▽販売額が予想をどれだけ上回ったかで薬価の引き下げ率が決まる仕組みとなっており、適応拡大の医療上の価値は考慮されない

▽類似品も連座的に薬価が引き下げられる

▽売り上げの大きい主力製品が標的になりやすく、引き下げ率も大きいため、経営に甚大な影響がある

――の4点を挙げました。キイトルーダは発売後も幅広いがん種で適応拡大に向けた開発を続けており、日本では現時点で48の臨床試験が進行中ですが、笹林氏は「キイトルーダの薬価は経済水準が同程度の先進国と比べて安く、日本では適応拡大への投資に対する追加的なリターンが得られていないのが現状」と指摘。タトル社長は「新しい適応症を日本に持ち込むためにやっていきたいが、(米国本社に)日本市場に優先的に投資して欲しいと言うことが難しくなってきている」と話しました。

 

「道連れ」に不服

中でも特に同社が強い不満を示したのが、再算定の「道連れルール」です。市場拡大再算定や特例拡大再算定には、公平な市場競争を確保する観点から、薬理作用が類似するほかの製品も一緒に薬価を引き下げるルールがあります。8月1日の薬価引き下げも、テセントリクの類似品として行われたものです。

 

ただ、キイトルーダの薬価は再算定の適用前からテセントリクより安くなっており、MSDは「テセントリクの市場拡大につながった適応をキイトルーダは持っていない」としています。同社は「道連れルール」の適用にあたって不服を申し立てましたが、受け入れられませんでした。

 

今回の再算定では、キイトルーダのほかに「オプジーボ」(小野薬品工業)と「イミフィンジ」(アストラゼネカ)も道連れで薬価引き下げを受けています。両社とも不服意見を出しましたが、キイトルーダと同様に訴えは認められませんでした。

 

道連れルールをめぐっては、同社も加盟する米国研究製薬工業協会(PhRMA)が5月12日の中央社会保険医療協議会(中医協)薬価専門部会で、「競合関係にある類似品であっても、効能効果の重なりが小さい場合や、過去の再算定の影響により対象品よりも薬価が低い場合、短期間に繰り返し再算定の対象となる場合など、連座的に再算定を適用することが不合理と考えられる場合は対象から除外できるよう、要件を見直すべき」との意見を表明しており、MSDは「業界団体と協力して改善策を提案していく」としています。

 

説得力欠いた面も

近年、製薬業界にとって厳しい見直しが続く薬価制度について、一番の当事者である製薬企業がその問題点を指摘し、危機感を表明した点で、今回のMSDの会見は意義があったと言えます。一方で、記者とのやり取りでは噛み合わない場面も多く見られました。

 

登壇者3名の写真

記者会見で再算定の見直しを訴えた(右から)MSDのカイル・タトル社長、笹林幹夫執行役員、白沢満博副社長

 

質疑応答では、
「どれくらい薬価が下がると開発投資が難しくなるのか」
「適応拡大にかかったコストはどれくらいで、本来得られるべき利益がどれくらい失われたのか」
「キイトルーダの適正価格はどれくらいなのか」
「課題が改善されない場合、日本ではこれ以上、適応拡大のための開発は行わないということになるのか」
「薬価の引き下げによって、投資をしないという経営判断をしたことは実際にあるのか」
といった質問が出ました。

 

これに対してMSD側は、定量的な回答は示さず、開発投資への影響についても「一つ一つの小さな意思決定の積み重ねで、どういう時にそうなるか(開発投資ができなくなるか)は、なかなか一概には言えない」(白沢博満副社長)、「研究開発の意思決定をした結果が出てくるのは、今日明日や来年ではなく、5年後、10年後」(同)などとの答えにとどまりました。コストや利益を明かせないのも理解できますし、白沢副社長の言うことも最もですが、説得力を欠いた面があったことは否めません。

 

「ドラッグ・ラグになれば不利益を被るのは日本国民。そうした状況が近づいているという危機感があるので、一企業ではあるがこうして発言をし始めた。そういう会社が増え、きちんと言っていくことが第一のステップではないか」。業界の主張がなかなか聞き入れられない状況について、白沢副社長はこう話しました。来年4月に行われる次期薬価制度改革に向けては、近く個別論点に関する検討が始まり、議論が本格化していきます。可能な限りデータや実例を示し、主張に説得力を持たせることが重要です。

 

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