[北京/上海 ロイター]厳格な「ゼロコロナ政策」をとる中国が、新型コロナウイルス感染症に対するmRNAワクチンの開発を進めている。実用化されれば規制緩和の追い風になると期待されるが、新型コロナワクチンをめぐる市場環境は変化しており、オミクロン株の出現もあって見通しは不確実だ。
海外製のmRNAワクチンを承認し、それから自国製ワクチンを開発する国もあるが、中国はそうした動きはとらないだろうと専門家は指摘している。ただ、世界的にワクチン接種は鈍化しているほか、承認済みのワクチンの供給力も向上しており、商業的な成功には疑問符がつく状況になっている。
「国家のプライドの問題であり、ワクチン外交の問題でもある」
カーティス・スクール・オブ・ポピュレーション・ヘルス(オーストラリア)のジャヤ・ダンタス教授(国際保健学)は「中国がmRNAワクチンを使うとすれば、海外から持ってくるのではなく、自分たちで作るだろう。これは国家のプライドの問題であり、ワクチン外交の問題でもある」と指摘する。
中国では14億人という人口の87%がワクチン接種を完了しており、ブースター接種を受けた人も40%近くに上る。地域的な流行はすべて徹底的に封じ込める方針で、ウイルスの大流行を防いできた。
オミクロン株が出現する以前の臨床試験では、米ファイザー/独ビオンテックと米モデルナのmRNAワクチンが、中国で最も使用されている非mRNAワクチンよりも効果が高いことが示されている。中国はこれらのワクチンやほかの海外製ワクチンを承認しておらず、自国製ワクチンに頼っている。
ユーラシア・グループのシニア中国アナリスト、マイケル・ハーソン氏は「政治的な理由を背景に中国当局は自国で開発されたワクチンの使用を推し進めており、それが厳格な行動規制に重点を置いたアプローチに傾くことを要求してきた」と指摘。「ワクチンに対するオープンなアプローチが中国に柔軟性を提供し、経済に対する破壊的な影響を抑えることができるのではないか」と話す。
ロイターは中国の国家衛生委員会に海外製mRNAワクチンの承認について問い合わせたが、回答は得られなかった。
「開発を経験しておくことが重要」
専門家は、中国が独自にmRNA技術の開発に成功すれば、国内で使えるワクチンの幅が広がるだけでなく、より革新的なワクチンの開発にも道を開くとみている。
中国は2020年6月にmRNAワクチンの臨床試験を許可しており、さまざまな開発段階に複数の候補品がある。このうち、軍医科学院と蘇州アポジェン・バイオサイエンス、ウォルバック・バイオテクノロジーが共同開発した「ARCoV」が臨床第3相試験に入っている。実験室での研究によると、オミクロン株はARCoV(2回接種)の中和活性を著しく弱めることがわかっている一方、動物実験ではブースター接種によって抗体の産生が誘導されることが示された。
オミクロン株はワクチン開発を複雑化させる可能性があり、高い接種率とブースター接種によって中国国内のコロナワクチン市場は競争が激化している。すでにブースター接種を受けた人に対してさらなる接種を当局が認めるかどうかは不明だ。
中国ルネッサンス証券のアナリストZhao Bing氏は、「国内市場は縮小しており、中国のすべての新型コロナワクチンメーカーは輸出を通じて事業を拡大する必要がある」と指摘。Zhao氏によると、中国で開発されているmRNAワクチン候補の中には、海外製ほど保存温度が厳しくないものもあるが、非mRNAワクチンと比べると製造コストや保存条件で大きな優位性を示すには至っていないという。
他方、mRNAの技術はほかの感染症やがんなどの疾患を予防または治療する新しい医薬品の開発を加速させる可能性がある。専門家は、新型コロナクチンとして承認を得られるかどうかに関わらず、開発を経験しておくことが中国の医薬品業界にとって重要だとの見方を示す。
野村証券のアナリストであるZhang Jialin氏は「mRNAベースの技術プラットフォームそのものは、ロケットを打ち上げるプロセスのようなものだ」とし、「新型コロナワクチンはロケットで運ばれる衛星であり、システムを構築すれば将来的にはほかの衛星も(運ぶことが)可能になる」と話している。
(Roxanne Liu/David Stanway、翻訳:AnswersNews)