2022年度薬価制度改革では、適応拡大時に新薬創出加算の対象となる品目を広げるなど、イノベーション評価で一定の改善が図られる一方、原価の開示度が50%未満の新薬には実質的に加算を適用しないといった厳しいルール変更も行われます。昨年12月に中央社会保険医療協議会(中医協)がまとめた骨子をもとに制度改革のポイントを整理しました。
INDEX
【新薬創出加算】適応拡大時の適用対象を拡大
4月に行われる2022年度薬価制度改革は、▽革新的な適応拡大を行った新薬の評価▽市場拡大再算定の対象品目の類似品の取り扱いの見直し▽安定確保の優先度が高い医薬品の改定ルールの見直し▽原価計算方式で薬価算定される新薬の製造原価の開示度向上に向けた加算適用ルールの見直し▽基礎的医薬品の改定ルールの見直し――などが柱。薬剤流通の安定のために設けられている調整幅(現在は改定前薬価の2%)の見直しも俎上に載りましたが、中医協が昨年12月にまとめた改革の骨子では「引き続き検討する」とされました。
製薬業界が強く求めていた革新的医薬品のイノベーション評価では、適応拡大時に新薬創出・適応外薬解消等加算の対象となる品目を拡大。適応拡大に対する新薬創出加算の適用は従来、追加された適応で新規作用機序となる医薬品だけが対象でしたが、今回の改革では、新規収載時なら有用性加算などに相当する適応拡大が行われた品目のうち、対象領域や市場規模の条件を満たす品目が対象に加わります(既存の適応と類似性が高いと判断される適応拡大などは除く)。
特定用途医薬品 各種加算の対象に
イノベーションの評価では、医薬品医療機器等法(薬機法)改正で創設された「特定用途医薬品」を、同じく薬機法改正で先駆け審査指定制度から衣替えした「先駆的医薬品」とともに各種加算の対象とし、指定数を新薬創出加算の企業指標に追加。新薬創出加算の企業指標には、新型コロナウイルス感染症のワクチン・治療薬の承認数も加えられます。
一方、企業指標によるポイント数に応じた企業区分では、加算率が最も低い「区分III」の範囲を従来の「最低点数」から「2ポイント以下」に変更。現在、区分IIIに属する企業の点数は0ポイントとなっており、基準の変更によって区分IIIの企業は増加します。
【再算定】類似品「4年・1回」に限り除外
今回の薬価制度改革では市場拡大再算定のルールも一部見直され、市場拡大再算定の特例の対象品目やその類似品として薬価の引き下げを受けた医薬品は、引き下げから4年間、1回に限って、ほかの品目の市場拡大再算定の類似品から除外することになりました。
再算定の類似品の取り扱いをめぐっては、米国研究製薬工業協会(PhRMA)が「類似品として連座的に再算定を適用することが不合理と判断される場合(効能・効果の重なりが小さい場合、対象品より薬価が低い場合、短期間に繰り返し再算定の対象となる場合、など)は対象から除外すべき」と要望。昨年夏には、主力の免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」が類似品として再算定を受けたMSDが記者会見を開き、「道連れ」を含む再算定ルールの見直しを訴えました。
今回の見直しは、こうした業界側の主張を踏まえたものですが、PhRMAが求めていたような明確な除外基準の設定には至りませんでした。日本製薬工業協会(製薬協)は「類似品の除外基準に関する根本的な課題の解決には至っておらず、再算定のあり方を含め、本質的な議論が引き続き必要だ」と指摘しています。
【基礎的医薬品】安定確保医薬品の一部が薬価維持の対象に
医療上必要性の高い医薬品の薬価を維持する基礎的医薬品の改定ルールでは、医療上必要不可欠で安定的な確保が求められる医薬品として厚生労働省がリスト化している「安定確保医薬品」の一部を対象に加え、薬価を維持します。
基礎的医薬品は現在、▽過去に不採算品再算定が適用された品目▽病原生物に対する医薬品▽医療用麻薬▽生薬▽軟膏基剤▽歯科用局所麻酔剤――のいずれかの区分に該当する医薬品が対象。今回の改革では、基礎的医薬品の区分として安定確保医薬品のうち優先度が高い品目(カテゴリAに分類されている品目)を追加。このうち、▽収載から25年以上たっている▽乖離率が平均を下回っている▽一般的なガイドラインに記載されている――といった要件を満たした品目を基礎的医薬品として扱います。
基礎的医薬品では、以下の2つのケースに対応するためのルール変更も行われます。
(1)「平均乖離率以下で取り引きされている」の要件を満たさず、基礎的医薬品から外れた医薬品が、次の改定で同要件を満たせば再び基礎的医薬品として薬価が引き上げられる。
(2)基礎的医薬品から外れた品目は、外れたものを加重平均して薬価を算定しているが、基礎的医薬品として薬価が維持されてきた品目が改定時に基礎的医薬品から外れることで、それまで基礎的医薬品から外れていたものの価格が引き上げられる。
(1)のケースに対しては、再び基礎的医薬品として扱う際、ほかの基礎的医薬品まで薬価を戻さず、戻し幅を50%分にとどめます。(2)のケースでは、基礎的医薬品から外れた品目はそれ以外の品目と加重平均で集約した薬価とし、従来からの基礎的医薬品外れ品目は改定前薬価とする運用に改めます。
【原価計算方式】原価開示度50%未満は加算係数ゼロ
新薬の薬価算定では、原価計算方式の透明性向上に向けて主に2つのルール見直しが行われます。
原価計算方式をめぐっては、「ブラックボックス」との批判もある製造原価の開示度を高めるため、2018年度から開示度に応じて補正加算の額を減額するルールが導入されました。しかし、海外からの輸入製品を中心に原価計算方式で薬価算定される品目の約半数が開示度50%未満にとどまっており、その多くが原価を移転価格として示しているのが現状です。
そこで今回の改革では、海外からの移転価格については、原則として日本以外の国への移転価格の最低価格を上限とする運用を明確化。さらに、開示度が50%未満の品目については、加算係数を現在の0.2から0に引き下げ、実質的に加算を適用しないこととします。
22年度の薬価制度改革に対して製薬業界は「イノベーションを評価する方向で一部改善が図られた」(日本製薬団体連合会)と評価する一方、開示度50%未満の加算係数を0に引き下げる見直しについては「革新的な新薬の開発や国内導入等に対して与える影響が懸念される」(欧州製薬団体連合会)との指摘が上がっています。
今回の改革では、調整幅のほか中間年改定のあり方についても「引き続き検討する」とされました。来年4月には次の中間年改定が控えており、薬価制度をめぐる議論は息つく間もなく続きます。