2021年12月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大をまとめました。
【新薬】全身型重症筋無力症治療薬「Vyvgart」や核酸医薬「Leqvio」など
「PreHevbrio」米VBIワクチン
「PreHevbrio」はB型肝炎ワクチン。三つの抗原を含む組換えタンパクワクチンで、欧州でも申請中です。米国や欧州、カナダでは米サイオネス・ヘルスと共同で商業化します。
「Xaciato」米デア・バイオサイエンス
リンコサミド系抗菌薬の「Xaciato」(一般名・clindamycin phosphate)は、12歳以上の細菌性膣症患者に使用される膣用ゲル。現在、デアは販売面での戦略的提携に向けた協議を進めており、米国で年内の発売を見込んでいます。
「Entadfi」米ベル
前立腺肥大症治療薬の「Entadfi」は、5α-還元酵素II型阻害薬finasterideとPDE5阻害薬tadalafilを配合したカプセル剤。2剤の併用療法は、finasteride単剤療法と比べて症状の改善に効果的で、副作用の可能性が少ないことが確認されています。ベルは自社の遠隔診療サービスや米GoodRXのプラットフォームを活用し、テレファーマシーで同薬を販売する予定です。
「Tarpeyo」スウェーデン・カリディタスセラピューティクス
副腎皮質ホルモンbudesonideの遅延放出カプセル「Tarpeyo」は、原発性IgA腎症治療薬として迅速承認を取得しました。尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)が1.5g/g以上の成人患者のタンパク尿の改善に使用されます。同薬にIgA腎症に伴う腎機能低下を遅らせる効果があるかどうかはまだ確立しておらず、今後、確認試験でeGFR値の評価が行われる見通しです。
「Dartisla ODT」米エデンブリッジ
抗コリン薬glycopyrrolateの口腔内崩壊錠「Dartisla ODT」は、消化性潰瘍治療の補助として症状を緩和するのに使用されます。同薬は、米キャタレットの口腔内崩壊錠送達技術を活用しており、エデンブリッジにとっては初めてのブランド薬となります。
「Vyvgart」ベルギー・アルジェニクス
米国初の抗FcRn抗体である「Vyvgart」(efgartigimod alfa)は、全身型重症筋無力症治療薬。抗アセチルコリン受容体抗体陽性の成人が対象で、全身型重症筋無力症の根本原因である血液中の免疫グロブリンG(IgG)抗体を減少させる作用を持ちます。日本でも近く同適応で承認される見通しです。
「Tezspire」英アストラゼネカ
抗TSLP(胸腺間質性リンパ球新生因子)抗体「Tezspire」(tezepelumab)は、12歳以上の重症喘息に対する治療薬。維持療法の標準治療に追加して使用されます。同薬は米アムジェンが創製したもので、北米では両社が共同で商業化。米国以外ではアストラゼネカが売り上げを計上する予定で、日本と欧州でも申請中です。
「Apretude」英ヴィーブヘルスケア
cabotegravirの長期作用型注射剤「Apretude」は、HIV感染予防(PrEP療法)の適応で承認を取得。臨床試験では、年6回の投与で1日1回投与のエムトリシタビン/テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩錠を上回る予防効果が示されました。忍容性を確認するためにリードインとして経口薬の「Vocabria」を投与し、その後切り替えることもできます。米国以外でも今後、ヴィーブが申請を行う予定です。
「Leqvio」スイス・ノバルティス
「Leqvio」(inclisiran)は、LDLコレステロールを低下させる作用を持つsiRNA核酸医薬。同適応に対する核酸医薬は米国初で、維持期には年に2回の投与で済むのが特徴です。臨床第3相(P3)試験では、プラセボと比べて動脈硬化性心血管疾患またはヘテロ接合性家族性高コレステロール血症の患者のLDLコレステロールを52%減少させました。ノバルティスは2020年の米メディシンズ・カンパニーの買収で同薬を獲得。欧州では同年に承認されており、日本ではP2試験を実施しています。
「Adbry」デンマーク・レオファーマ
抗IL-13抗体「Adbry」(tralokinumab)は、中等症から重症のアトピー性皮膚炎治療薬。局所治療でコントロール不十分な成人患者が対象で、ステロイド剤との併用も可能です。IL-13を標的とするアトピー性皮膚炎治療薬は米国初。欧州や英国では「Adtralza」の製品名ですでに販売されており、日本でも開発が行われています。
「Recorlev」米ゼリス・バイオファーマ
「Recorlev」(levoketoconazole)は、成人のクッシング症候群患者の内因性高コルチゾール血症治療薬として承認されました。同薬はコルチゾール合成阻害薬で、米ゼリスは昨年10月に同薬を開発したアイルランドのストロングブリッジ・バイオファーマを買収。臨床試験では尿中のコルチゾール濃度を正常化することが確認されました。
【適応拡大】「Orencia」の移植片対宿主病予防、「Rexulti」の小児の統合失調症など
「Rituxan」米ジェネンテック
抗CD20抗体「Rituxan」(rituximab)は、生後6カ月以上の小児の成熟B細胞腫瘍に適応拡大。対象は未治療・進行期のCD20陽性がんで、具体的には▽びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫▽バーキットリンパ腫▽バーキット様リンパ腫▽B細胞性急性リンパ腫――。化学療法と併用します。
「Keytruda」米メルク
免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体「Keytruda」(pembrolizumab)は、悪性黒色腫に対する術後補助療法で、新たに完全切除後のステージIIB・IICの12歳以上の患者に使用できるようになりました。これまではリンパ転移したステージIIIの成人患者が対象でしたが、同ステージでも12歳以上の小児に適応を拡大。悪性黒色腫の術後の再発率は、ステージIIB・IICでは32~46%、ステージIIIでは39~74%と推定されています。
「Siklos」仏addmedica
鎌状赤血球症治療薬の代謝拮抗薬「Siklos」(hydroxyurea)は、対象を成人に拡大。これにより、中等度から重度の疼痛発作が再発した2歳以上の患者に使用できるようになりました。発作の頻度や輸血の必要性を減らします。
「Zynrelef」米ヘロン・セラピューティクス
徐放性二重作用型局所麻酔薬の「Zynrelef」(bupivacaine/meloxicam)は、足と足首の手術や小・中型開腹手術、下肢関節全置換術の術後鎮痛に適応を拡大。最大72時間まで痛みを管理できます。同薬は、局所麻酔薬bupivacaineと同薬の効果を増強する低用量の非ステロイド性抗炎症薬meloxicamの配合剤で、昨年5月に人工膝関節置換術などの術後鎮痛を対象に最初の承認を取得しました。
「Kisqali」スイス・ノバルティス
CDK4/6阻害薬「Kisqali」(ribociclib)は、ホルモン受容体陽性(HR+)またはHER2陰性(HER2-)の進行・転移性乳がんの適応で対象を男性にも拡大しました。アロマターゼ阻害薬またはfulvestrantと併用します。同作用機序ではイーライリリーの「Verzenio」も昨年10月に男性乳がん患者に対象を拡大しました。
「Xeljanz」米ファイザー
JAK阻害薬「Xeljanz」(tofacitinib)は、活動性強直性脊椎炎に適応拡大。一つ以上のTNF阻害薬で治療不十分または不耐容の成人患者が対象です。269人を対象に行った臨床試験では、プラセボと比べて有意な改善を示しました。
「Rinvoq」米アッヴィ
JAK阻害薬「Rinvoq」(upadacitinib)は、新たに活動性乾癬性関節炎の適応で承認を取得。一つ以上のTNF阻害薬で十分に反応しないか不耐容の成人患者に使用され、関節の痛みや腫れ、疲労などを改善し、さらなる関節損傷を防ぎます。同薬としては19年に承認された関節リウマチに続くニつ目の適応です。
「Orencia」米ブリストル・マイヤーズスクイブ
T細胞選択的共刺激調節剤「Orencia」(abatacept)は、急性移植片対宿主病の予防に適応拡大。造血幹細胞移植を受ける2歳以上の患者が対象で、カルシニューリン阻害薬およびmethotrexateと併用します。同適応に対する薬は米国初で、承認には臨床試験結果とリアルワールドエビデンスが活用されました。カナダやスイス、イスラエルでも申請中です。
「Caplyta」米イントラ・セルラー
抗精神病薬「Caplyta」(lumateperone tosylate)は、I型またはII型の双極性障害の抑うつエピソードに適応拡大しました。承認されたのは単剤療法のほか、リチウムまたはvalproateとの併用による補助療法。同薬は19年に統合失調症治療薬として承認されています。
【適応取り下げ】「Copiktra」米Secura Bio
PI3K阻害薬「Copiktra」(duvelisib)は、「二つ以上の全身療法を受けた再発・難治性の濾胞性リンパ腫」の適応が取り下げられました。米Secura Bioは同適応で18年に迅速承認を取得。確認試験を行う予定でしたが、最近の治療状況やコストなどの観点で実施を断念し、自主的に適応を取り下げました。代わりに、有望な初期データの得られたT細胞リンパ腫の適応拡大に向けた試験に力を入れる予定です。既承認の再発・難治性の慢性リンパ性白血病と少リンパ球性リンパ腫の適応に変更はありません。
「Oxbryta」米グローバル・ブラッド・セラピューティクス
鎌状赤血球症治療薬「Oxbryta」(voxelotor)は、4~11歳の小児への適応拡大で迅速承認を取得しました。同薬は19年に成人対象で承認されたヘモグロビン(Hb)S重合阻害薬。口腔懸濁液も新たに承認されました。
「Otezla」米アムジェン
PDE4阻害薬「Otezla」(apremilast)は、尋常性乾癬の適応で軽症から中等症に対象を拡大。これにより同薬は重症度に関わらず、光線療法や全身療法の対象となる尋常性乾癬患者の治療に使用できるようになりました。軽症から中等症の患者であっても、頭皮の治療などでは既存の局所治療薬で不十分なケースがあるといい、こうした患者に対しても経口薬による全身治療が可能になると期待されています。
「Cosentyx」スイス・ノバルティス
抗IL-17A抗体「Cosentyx」(secukinumab)は、4歳以上の付着部関連関節炎および2歳以上の若年性乾癬性関節炎に適応拡大。付着部関連関節炎に対するバイオ医薬品は米国初で、同適応では欧州でも申請中です。小児の乾癬性関節炎の適応では、昨年9月に日本でも承認を取得しています。
「Rexulti」大塚製薬
抗精神病薬「Rexulti」(brexpiprazole)は、統合失調症の適応で13~17歳の小児に対象を拡大しました。統合失調症患者の最大33%は青年期に発病するとされ、こうした患者の治療選択肢になると期待されています。
「Xarelto」米ヤンセン
経口抗凝固薬「Xarelto」(rivaroxaban)は、新たに二つの小児適応で承認を取得しました。承認されたのは、▽少なくとも5日間非経口の治療を行った小児の静脈血栓塞栓症の治療・再発予防▽Fontan手術を受けた2歳以上の小児先天性心疾患患者の血栓予防――。あわせて、従来の錠剤に加えて小児に使用できる経口懸濁液も承認。日本や欧州ではすでに創製元のバイエルを通じて小児適応が承認済みです。
【バイオシミラー】イーライリリーのinsulin glargineとコヒラスのadalimumab
「Rezvoglar」米イーライリリー
「Rezvoglar」は、仏サノフィの長時間作用型インスリン製剤「Lantus」(insulin glargine)のバイオシミラー。適応は、小児・成人の1型糖尿病と成人の2型糖尿病。Lantusのバイオシミラーとしては、米ヴィアトリスの「Semglee」に続いて米国では2剤目となります。
「Yusimry」米コヒラス・バイオサイエンシズ
「Yusimry」は、米国で7剤目となる米アッヴィの抗TNF-α抗体「Humira」(adalimumab)のバイオシミラー。尋常性乾癬、乾癬性関節炎、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、強直性脊椎炎、クローン病、潰瘍性大腸炎に使用されます。米国ではアッヴィとのライセンス契約に基づき、23年7月以降に販売を開始する予定です。