2021年に起こった製薬業界のできごとを2回にわけて振り返ります。
相次いだ行政処分
2021年、製薬業界は不祥事に揺れた1年となりました。後発医薬品メーカーを中心に承認書から逸脱した不正製造が相次いで発覚。代替需要の急増で玉突き的に供給不足が起こり、市場は大混乱しました。
昨年末、抗真菌薬に臨床用量を超える睡眠薬が混入していることが発覚した小林化工は、承認書と異なる方法で不正に医薬品を製造したとして、2月に過去最長となる116日間の業務停止命令を受けました。その後も、3月には日医工に32日間、10月には長生堂製薬に31日間の業務停止命令が下され、後発品に対する信頼は大きく傷つきました。小林化工は、後発品の承認申請資料に虚偽の記載を行っていたことも発覚し、共同開発先のMeijiSeikaファルマ、エルメッド、第一三共エスファとともに業務改善命令を受けました。
不祥事の影響は業界全体に波及し、沢井製薬や東和薬品など代替需要が集中したメーカーも出荷調整を余儀なくされました。日本ジェネリック製薬協会のまとめによると、加盟38社が出荷調整を行っている品目は12月14日時点で2508品目に上っています。供給不安の解消には2〜3年かかるとの厳しい見立てもあり、混乱は当面続きそうです。
小林化工は廃業へ
業務停止期間終了後も製造再開の見通しが立たずにいた小林化工は12月、サワイグループホールディングスに生産拠点と関連部門の人員を譲渡すると発表しました。小林化工は、医療上不可欠な一部製品は他社に承継した上で、それ以外の製品はすべて自主回収し、承認整理を行う予定。睡眠薬混入の被害者に対する補償業務は続けるものの、医薬品の製造販売からは撤退し、事実上の廃業となります。
一方、19年に摘発された地域医療機能推進機構(JCHO)発注の医薬品入札をめぐる談合事件では、医薬品卸3社とその社員7人が有罪判決を受けました。さらに11月には、国立病院機構発注の医薬品入札でも談合疑惑が浮上し、公正取引委員会が卸6社に立ち入り検査を実施。JCHOを舞台とした談合事件の公判では、医薬品流通の闇が次々と明かされ、医薬品流通をめぐる構造的な問題もあらためてクローズアップされました。
初の中間年改定 1万2000品目が対象に
製薬業界にとって今年、大きなトピックとなったのが、4月に行われた初の中間年改定です。薬価収載されている全品目の69%に相当する1万2180品目が対象となり、特許期間中の新薬の59%(新薬創出・適応外薬解消等促進加算品は40%)、長期収載品の88%、後発品の83%で薬価の見直しが行われました。
毎年改定のスタートによって、日本市場の停滞は鮮明になっています。米IQVIAが今月発表した最新の世界市場予測によると、2021年の日本の医薬品市場は854億ドルで、17年からの5年間の成長率は年平均0.5%減と主要国で唯一のマイナス成長。向こう5年間も年平均でマイナス2%~プラス1%の低成長が見込まれており、市場規模は26年にドイツに抜かれて世界4位に後退すると予測されています。
魅力失う日本市場
9月に公表された8年ぶりの改訂となる「医薬品産業ビジョン2021」では、中長期的に目指す医薬品産業の方向性として「革新的創薬」と「品質確保・安定供給」を掲げ、その実現には「投資に見合った適切な対価の回収の見込みが重要」と踏み込みました。
一方、海外の製薬業界団体からは「日本の医薬品市場は魅力的とは言い難い。イノベーション評価と薬価の引き下げのバランスが取れておらず、ドラッグラグの再燃も危惧される」(米国研究製薬工業協会のジェームス・フェリシアーノ在日執行委員会委員長)との声も上がっています。7月には、免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」が4度目の大幅な薬価引き下げを受けることになったMSDが「このような薬価引き下げが今後も続くなら、継続的な開発投資が難しくなる」などと見直しを訴える異例の記者会見を行ったことも話題となりました。
コロナワクチン「国産」なお時間
2年目に入ったコロナ禍は、今年も社会に大きな影を落としました。国内では夏場の「第5波」以降、感染拡大は落ち着いていますが、世界の感染者数は10月下旬から再び拡大。足元では、11月に初めて報告された新たな変異株「オミクロン」が急速に広がっており、まだまだ予断を許さない状況が続きます。
国内では2月に米ファイザー/独ビオンテックのmRNAワクチン「コミナティ」が承認され、医療従事者を皮切りに接種がスタート。5月には米モデルナの同「スパイクバックス」と英アストラゼネカのウイルスベクターワクチン「バキスゼブリア」が承認されました。政府のまとめによると、12月23日時点の2回接種率は77.7%で、先行していた米国や英国を上回っています。
感染の再拡大を食い止めようと、先進国を中心に追加接種を急ぐ動きが広がっており、日本でも12月から3回目の接種がスタート。一方、低所得国ではワクチン接種が進んでおらず、新たな変異株が生まれるリスクは存在し続けています。コロナ収束に向けては、世界規模で流行を抑える必要があり、「ワクチン格差」の解消が大きな課題となっています。
一方、この1年で治療薬が充実したことは明るい話題です。国内では今年、▽JAK阻害薬「オルミエント」(重症向け)▽抗体カクテル製剤「ロナプリーブ」(軽症から中等症向け)▽中和抗体製剤「ゼビュディ」(同)▽経口抗ウイルス薬「ラゲブリオ」(同)――が承認されました。特に、経口抗ウイルス薬に対する期待は高く、日本政府はラゲブリオを160万人分、ファイザーが開発したパクスロビドを200万人分確保しています。
試される国の本気度
国内メーカーによる開発も進展しましたが、いまだ実用化には至っていません。ワクチンでは、塩野義製薬(組換えタンパクワクチン)とKMバイオロジクス(不活化ワクチン)が臨床第2/3相(P2/3)試験に進み、第一三共(mRNAワクチン)もP2試験をスタート。実用化は早くても来年春以降となる見通しです。
コロナワクチンの開発が遅れた反省を踏まえ、政府は6月に国産ワクチンの開発・生産体制の強化に向けた新戦略を閣議決定。先端研究拠点の整備や製造設備への支援などを盛り込みました。ワクチンの研究開発をめぐる課題は、10年前の新型インフルエンザ流行時にも指摘されていたことであり、「周回遅れ」を挽回できるか、国の本気度が試されます。