今年3月にジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)を連結子会社化し、再生医療事業に参入した帝人。「2030年度に売上高200億円超」を目標に掲げ、CDMOや製品の海外展開を通じて事業規模の拡大を図ります。
CDMO事業 25年までに新拠点で受託開始へ
帝人は今年3月、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)にTOB(株式公開買い付け)を行い、約192億円を投じて同社を連結子会社化しました。11月には「2030年度に再生医療事業で売上高200億円超」という目標を明らかにし、グループの戦略分野の一つとして収益源の柱に育てることを目指しています。
12月に開いた再生医療事業の説明会で、帝人の鈴木純CEOは「J-TECと一緒になると決めた1年以上前の時点で、自家細胞による再生医療という究極のテーラーメイド医療と、帝人のヘルスケア、マテリアル、エンジニアリングといった力を掛け合わせて事業を大きく飛躍させられると思っていたが、両社でしっかりと協議し、事業計画を説明できるところまで来た」と振り返りました。
両社が再生医療の分野で取り組むのは、CDMO事業とJ-TEC製品の海外展開など。説明会では、20年度にJ-TECとして22億6000万円だった再生医療事業の売上高を、35年度にその約15倍の350億円超に拡大させるとのビジョンを示しました。20年度のJ-TECの売り上げの7割近くは製品販売によるものですが、35年度にはCDMOで売り上げの半分以上を稼ぎ出す計画です。
CDMO事業では、すでに新たな受託製造拠点の建設に動き出しており、J-TECの既存施設に加える形で25年までに新拠点での受託事業を開始する予定。その後、製法開発・治験薬製造から商用生産までシームレスに対応できる体制を作るとしています。
市場シェア25%が目標
帝人がCDMO事業で取り組むのは、CAR-T細胞療法などのex vivo遺伝子治療や、細胞移植、組織移植の領域で、国内発の自家/他家細胞製品と海外発の自家細胞製品がターゲット。再生医療分野は大学や研究機関が開発を主導する製品も多く、製法開発や治験薬製造のニーズは大きいと見ています。
帝人の中野貴之・再生医療新事業部長は、「日本でのCDMO事業は海外由来の自家製品が大きな顧客になる」と言います。海外のバイオテックは、日本の条件付き早期承認制度に関心を寄せており、2030年には市場の9割近くが海外発の製品になるとの予測もあります。帝人は25年後半以降、海外から自家製品20品目以上が国内に導入されると見ており、これらを受託することで30年度に約25%の市場シェアを獲得したい考えです。
再生医療のCDMOには、昭和電工マテリアルズやニコン、タカラバイオなどが取り組んでおり、昨年は大日本住友製薬も親会社の住友化学と合弁会社を設立して参入。欧州で事業を拡大するAGCも国内展開を検討しています。こうした環境の中、帝人は自社の資金力とJ-TECの製品品質や品質管理方法などのノウハウを生かし、競合との差別化を図ります。
J-TECの畠賢一郎社長は「J-TECには、自家細胞製品を実際に発売させてきた経験があるし、医師に対して手術のシミュレーションを見せるなど、踏み込んだ売り方もしてきた。それをバックキャスティングし、パッケージや仕様説明書を含めて製品の作り込みをしている。依頼者にこうしたエンドポイントを踏まえて説明できるのが強みだ」と話します。
他家製品を海外展開
再生医療事業を収益源の柱として育成するにあたり、もう一つの軸となるのが、J-TEC製品の海外展開です。
J-TECはこれまで、自家培養表皮「ジェイス」や自家培養軟骨「ジャック」など、国内で自家細胞を使った再生医療等製品を販売してきました。今月には角膜上皮幹細胞疲弊症治療薬の自家培養口腔粘膜上皮「オキュラル」を発売。パイプラインには尋常性白斑に対する自家培養表皮「ACE02」など3つの新製品が控えています。
J-TECは、引き続き自社で国内開発を行う一方、痛風・高尿酸血症治療薬「フェブリク」などを導出した経験のある帝人と連携し、海外市場での販売拡大を狙います。両社がまず導出を目指すのは、II度熱傷治療用の他家培養表皮「Allo-JaCE03」。同製品から導出を始めるのは、他家製品のため大量生産でき、乾燥品で常温での保存・輸送が可能なため。30年度までに海外のパートナー企業を通じて同製品を発売し、その後、導出品目を増やしていくことを目指します。
並行して、研究用ヒト培養組織「ラボサイト」のアジア展開も加速。世界的な動物実験廃止の流れに合わせて研究開発支援事業を拡大させたい考えです。将来的には、J-TECの培養技術と帝人の素材技術を組み合わせ、生体機能チップ(Organ-on-a-chip)などの後継品を共同開発するとしています。
営業でも協力
このほか国内では、人工関節を手掛ける帝人ナカシマメディカルや帝人ファーマと連携し、J-TECの整形外科領域製品「ジャック」の治療法改良や営業協力を行っていく予定です。J-TECの製品は対象患者層が狭いことが課題でしたが、変形性膝関節症への適応拡大を機に市場拡大を狙います。
2022年にフェブリクへの後発医薬品参入が迫る中、今年4月に武田薬品工業から4つの糖尿病治療薬「ネシーナ」「リオベル」「イニシンク」「ザファテック」を1330億円で買収した帝人。4剤の寄与でヘルスケア事業の足元の業績は拡大する見通しですが、糖尿病薬の市場は将来的に縮小が見込まれています。J-TEC買収で参入した再生医療事業や、20年に訪問看護の本格展開を開始した地域包括ケアシステム関連事業は、その先の成長を支える事業。ここ数年の投資を上手く収益につなげられるかが試されます。