新型コロナウイルス感染症のワクチン・治療薬が、開発に成功した一部の製薬企業の業績を押し上げています。抗体カクテル療法「ロナプリーブ」を販売する中外製薬は、2021年12月期の売上収益が前期比23%増の9700億円に達する見通し。米ファイザーはmRNAワクチン「コミナティ」の今年の売り上げを360億ドルと予想しており、21年12月期の会社全体の売上高は800億ドルを超える見込みです。
中外「ロナプリーブ」で業績予想を上方修正
中外製薬は10月の2021年1~9月期決算発表にあわせ、同年12月期の業績予想を上方修正しました。修正後の予想は、売上収益9700億円(従来予想比1700億円増)、コア営業利益4000億円(同800億円増)。20年12月期と比べると、売上収益は23.3%増、コア営業利益は29.9%増となる予想で、いずれも過去最高となる見込みです。
収益を押し上げるのは、新型コロナウイルス感染症向けの抗体カクテル療法「ロナプリーブ」です。同薬は現在、政府が一括購入して医療機関に無償配布する形で供給されており、中外は政府納入の売り上げとして7~9月期に428億円を計上。通期では823億円を見込んでいます。
ロナプリーブは、カシリビマブとイムデビマブという2つの中和抗体を組み合わせて使う薬剤で、日本では7月に重症化リスクのある軽症・中等症患者に対する治療薬として特例承認を取得。11月には、濃厚接触者や無症状感染者への発症予防目的での投与も可能になりました。
中外の奥田修社長CEOは10月の決算説明会で「来期についても、不確定要素は大きいが過去最高の決算を目指していく」と早くも宣言。新型コロナをめぐっては、利便性の高い経口抗ウイルス薬が年内にも実用化される見通しですが、奥田氏は「感染が拡大する事態になった場合には、いろんな治療オプションを確保しているということが重要。来年の(政府による)追加購入の可能性もあるとみていただければ」と話し、経口薬の承認後もロナプリーブは一定の需要が見込めるとの考えを示しました。
ファイザー コロナワクチンで360億ドル
「コロナ特需」で業績を大きく伸ばしているのは中外だけではありせん。JCRファーマは、アストラゼネカから製造を受託している新型コロナワクチン「バキスゼブリア」の原液の売り上げとして21年4~9月期に80億4600万円を計上し、同期の全体の売上高は前年から159.2%増加。同ワクチンの製剤化を受託している明治ホールディングスも、4~9月期のヒト用ワクチン事業の売上高が前年から15.6%増加しました。
新型コロナワクチンの実用化にいち早くこぎつけた米ファイザーは、同ワクチン「コミナティ」が今年1~9月期に世界で242.77億ドル(約2兆7919億円)を売り上げました。先進国を中心に追加接種が始まっているほか、小児に対象を広げる動きもあって需要拡大が続いており、年間の販売見通しは360億ドル(約4兆1400億円)と7月に発表した335億ドルから上方修正。全体の売上高は1~9月期で前年比90.8%増の576億5300万ドル(約6兆6300億円)となっており、通期では810億~820億ドル(約9兆3150億~9兆4300億円)に達する見通しです。
ビオンテック98倍、モデルナ49倍
ファイザーとともにコミナティを開発した独バイオベンチャーのビオンテックも、1~9月期の売上高が前年比98.2倍の134.44億ユーロ(約1兆7343億円)まで拡大。同じく新型コロナワクチンを手掛ける米モデルナの1~9月期の売上高も112.6億ドル(約1兆2949億円)と前年の48.5倍に膨らみました。ビオンテックはコミナティの自社販売分の年間売上高を160億~170億ユーロ(約2兆640億~2兆1930億円)と予想。モデルナは自社ワクチンの年間売上高を150億~180億ドル(約1兆7250億~2兆700億円)と見込んでいます。
治療薬では、昨年承認された米ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「ベクルリー」が今年1~9月期に42億800万ドル(約4839億円)を販売。重症患者らに対する抗炎症薬として使用されている米イーライリリーのJAK阻害薬「オルミエント」やスイス・ロシュの抗IL-6受容体抗体「アクテムラ」も売り上げを前年から大きく拡大させています。
米メルクは、開発中の経口抗ウイルス薬モルヌピラビルが12月に米国で緊急使用許可を得た場合、2022年末までの同薬の売上高が50億~70億ドル(約5750億~8050億円)になると予想。このうち、今年の売上高は5億~10億ドル(約575億~1150億円)を見込んでいます。