2022年度の薬価制度改革に向けた議論が本格化してきました。焦点となるのは、適応拡大時のイノベーション評価や、昨年の医薬品医療機器等法(薬機法)改正で法制化された「特定用途医薬品」「先駆的医薬品」の薬価改定のあり方、原価計算方式の透明性向上など。新規後発医薬品の薬価算定や基礎的医薬品の薬価改定なども前回改革からの継続課題となっており、製薬業界は再算定の見直しなどを求めています。
適応拡大で新薬創出加算、再算定見直しの行方は
中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価専門部会で、来年4月に行われる2022年度薬価制度改革に向けた検討が進んでいます。同部会は今年4月の会合で厚生労働省から主要課題の提示を受け、5月に製薬業界の意見をヒアリング。8月上旬には薬価算定組織から意見を聞き、今後、個別の論点について本格的な議論が行われることになります。
現時点で検討課題として挙がっているのは、
(1) 新規後発医薬品の薬価算定
(2) 基礎的医薬品の薬価改定
(3) いわゆる「中間年改定」のあり方
(4) 原価計算方式のあり方
(5) イノベーションの適切な評価
など、20年度改革や21年度改定で今後検討するとされたテーマが中心。このほか、昨年の薬機法改正で法制化された「特定用途医薬品」「先駆的医薬品」の薬価のあり方も論点に浮上しています。
イノベーションの評価では、薬価収載後の適応拡大に対する評価が焦点となります。薬価算定組織は、「すでに薬価収載されている医薬品が、有用性加算などに相当する適応拡大を行った場合、疾患領域や市場規模といった一定の要件を満たせば新薬創出・適応外薬解消等促進加算(新薬創出加算)の対象とすることを検討してはどうか」と提案。業界側も「薬価収載後に認められた革新性・有用性に基づき、新薬創出加算の適否を改めて判断する仕組みが必要だ」と指摘しています。
適応拡大への対応では、業界側が市場拡大再算定の見直しを求めています。市場拡大再算定は、適応拡大などによって薬価収載時の予想を超えて大きく市場が拡大した(=売り上げが大きくなった)医薬品の薬価を引き下げる仕組み。5月の業界ヒアリングでは、日本製薬団体連合会(日薬連)が「再算定の適用については、個々の効能追加の状況などを十分に考慮した上で慎重に判断すべき」とし、米国研究製薬工業協会(PhRMA)は▽革新性や有用性が高い効能が追加された場合は、再算定による引き下げ率を緩和すべき▽類似品として連座的に再算定を適用することが不合理と判断される場合(効能・効果の重なりが小さい場合、対象品より薬価が低い場合、短期間に繰り返し再算定の対象となる場合、など)には対象から除外すべき――などと訴えました。
高額薬剤への懸念を背景に、再算定ルールは過去数回の薬価制度改革で製薬業界にとって厳しい方向へと見直しが行われてきました。MSDは先月、主力の免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」が薬価収載から4年半で4度の再算定を受け、薬価が半分近くまで下落しているとして、記者会見を開いてルールの見直しを主張。個別企業がメディアを集めて薬価制度に対する主張を行うのは異例で、同社は「このままでは適応拡大への開発投資が難しくなる」などと訴えました。業界側は「再算定は企業の開発意欲を低下させる」としており、議論の行方が注目されます。
「特定用途医薬品」「先駆的医薬品」の評価は
原価計算方式では、透明性の向上が大きなテーマ。原価計算方式は従来から「企業の言い値になっている」と批判されており、18年度の薬価制度改革では原価の開示度合いが低い新薬の算定薬価を減額するルールが新たに設けられました。それでも、海外からの輸入製品を中心に原価の開示は進んでおらず、昨年秋に行われた政府の「行政事業レビュー」では「開示度を高める努力を行うとともに、開示度の低い医薬品については算定薬価をさらに厳しく引き下げる仕組みを検討するなどし、適正性を確保するよう努めるべき」と指摘されています。
こうした中、薬価算定組織は、輸入製品の多くが原価として示している移転価格(海外グループ会社との取引価格)について、その妥当性の確認方法や、移転価格であることを踏まえた算定方法をルール化してはどうかと提案。一方、製薬業界側は「原価の開示度向上には限界がある」とし、より柔軟に類似薬を選定できる仕組みを導入すれば、結果として原価計算方式で薬価算定される品目は減少すると主張しています。
22年度改革では、昨年の薬機法改正で法制化された「特定用途医薬品」(小児の疾患や薬剤耐性菌による感染症の診断・治療・予防を目的とした医薬品で、一定の要件を満たしたもの)や「先駆的医薬品」(旧・先駆け審査指定制度)の取り扱いも論点。薬価算定組織は、これらの制度が対象とする医薬品の開発を促進する趣旨で設けられている現行の薬価算定ルールを整理した上で、特定用途医薬品や先駆的医薬品の薬価のあり方を検討することを提案しています。
いわゆる「中間年改定」をめぐっては、対象品目の範囲が検討課題。今年4月に行われた初の中間年改定では、「乖離率(薬価と市場実勢価格の差)が5.0%を超える品目」が対象となり、薬価収載されている全医薬品の約7割にあたる1万2180品目が改定を受けました。日薬連は「イノベーションの推進や医薬品の安定供給への影響も踏まえ、改定の対象範囲は極めて限定的にすべき」とし、特許期間中の新薬を中間年改定の対象から除外することなどを求めています。
新規後発品の薬価算定では、「先発医薬品の0.5倍(内用薬で銘柄数が10を超える場合は0.4倍)」としている現在の水準を見直すかが焦点。相次ぐ供給不安への対応なども踏まえて検討が行われることになります。