2021年7月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大をまとめました。
【新薬】慢性腎臓病治療薬「Kerendia」や慢性移植片対宿主病治療薬「Rezurock」など
「Kerendia」独バイエル
非ステロイド性の選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬「Kerendia」(一般名・finerenone)は、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病の治療薬。MRの過剰な活性化は、腎臓や心臓に悪影響を及ぼすとされ、同薬はこれを抑制する作用機序を持っています。標準治療への上乗せ効果を評価した臨床第3相(P3)試験では、プラセボと比べて心血管イベントのリスクを低下させました。欧州や中国でも申請中で、日本ではP3試験の段階にあります。
「fexinidazole」非営利組織DNDi
fexinidazoleは、アフリカ睡眠病治療薬。コンゴ民主共和国と中央アフリカ共和国の国家アフリカ睡眠病対策プログラムや仏サノフィが連携し、開発されました。アフリカ睡眠病は寄生虫が引き起こす疾患で、治療せずに放置すると命に関わるとされます。既存薬は注射剤で入院が必要でしたが、fexinidazoleは経口薬のため、遠隔地での治療負担軽減につながると期待されます。欧州では18年に承認されました。
「Rezurock」米カドモン
ROCK2阻害薬「Rezurock」(belumosudil mesylate)は、慢性移植片対宿主病治療薬。対象は、少なくとも2つ以上の全身療法に失敗した12歳以上の患者です。ROCK2は、免疫応答や線維化を調節するシグナル経路で、これを阻害する同薬は、線維症のような症状を呈する治療困難な患者にとって新たな選択肢になると期待されています。日本とアジアではMeijiSeikaファルマと米カドモンが出資するロメック・ファーマが開発・販売権を持っており、日本ではMeijiが今年1月にP1試験を開始しました。
「Bylvay」米アルビレオ
非全身性胆汁酸トランスポーター阻害薬「Bylvay」(odevixibat)は、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に伴うそう痒の治療薬です。1日1回投与のカプセル剤で、生後3カ月以上の患者に使用されます。これまでは外科的な治療法しか有りませんでした。欧州でも承認されているほか、胆道閉鎖症やアラジール症候群を対象にP3試験が行われています。
「Twyneo」イスラエル・ゾルゲル
「Twyneo」(tretinoin/benzoyl peroxide)は、尋常性ざ瘡(にきび)の治療に使用されるクリーム剤。イスラエルのゾルゲルテクノロジーが持つ独自技術を使い、tretinoin、retinoid、benzoyl peroxideをマイクロカプセルに閉じ込めた製剤で、tretinoinがbenzoyl peroxideによって分解されるのを防ぐとともに、各有効成分をゆっくりと放出させます。米国では、提携先のスイス・ガルデルマが販売を行う予定です。
「Uptravi」米ヤンセン
肺動脈性肺高血圧症治療薬「Uptravi」(selexipag)は、新たに静注製剤が承認されました。同薬は日本新薬が創製したプロスタサイクリン受容体作動薬で、米国では15年に錠剤が承認。静注製剤は、経口薬が使用できない場合に一時的に使用されます。
「Saphnelo」英アストラゼネカ
1型インターフェロン受容体抗体「Saphnelo」(anifrolumab)は、全身性エリテマトーデス治療薬。同疾患では10年以上ぶりの新薬で、標準治療を受けた中等症から重症の成人患者に使用されます。標準治療に対する上乗せ効果を評価した臨床試験では、プラセボと比べて疾患活動性を低下させ、経口コルチコステロイドの使用を減少させることが確認されました。日本と欧州でも申請中で、皮下投与製剤の開発も進んでいます。
【適応拡大】「Keytruda」の早期トリプルネガティブ乳がんなど
「Keytruda」米メルク
免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体「Keytruda」(pembrolizumab)は、新たに▽手術または放射線療法で治療できない局所進行皮膚扁平上皮がん(単剤療法)▽高リスクの早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対する化学療法との併用療法による術前補助療法と、それに続く単独療法による術後補助療法――に適応拡大。高リスクの早期TNBCに対するがん免疫療法は初めてとなります。昨年迅速承認を受けた「切除不能な局所再発・転移性TNBC(化学療法併用)」でも正式承認を取得。同適応は日本でも申請中です。
一方、「再発局所進行または転移性胃がん・胃食道接合部腺がん」の適応では、フルオロピリミジンやプラチナ製剤を含む化学療法と抗HER2/neu標的療法を含む2つ以上の前治療後に進行したPD-L1発現患者への使用を取り下げました。同適応では迅速承認を取得していましたが、P3試験で全生存期間の改善を示せず、米FDAと協議した上で自主的に取り下げを決めました。
「Keytruda」+「Lenvima」米メルク/エーザイ
米メルクの「Keytruda」とエーザイの抗がん剤「Lenvima」(lenvatinib)の併用療法は、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)またはミスマッチ修復機構欠損(dMMR)を有さない進行性子宮内膜がんの適応で正式承認を取得しました。対象は、治療ラインに関わらず全身療法後に増悪した、根治的手術または放射線療法に不適応な患者。2019年に迅速承認を取得していましたが、化学療法と比較して全生存期間を延長し、死亡リスクを32%減少させたP3試験の結果に基づき正式承認されました。日本と欧州でも同適応で申請中です。
「Padcev」アステラス製薬
抗ネクチン4抗体薬物複合体「Padcev」(enfortumab vedotin)は、19年に迅速承認を取得した「PD-1/PD-L1阻害薬および白金製剤を含む化学療法による治療歴がある局所進行または転移性尿路上皮がん」の適応で正式承認を取得しました。検証試験では、化学療法と比べて全生存期間と無増悪生存期間を有意に延長しています。同薬はまた、「シスプラチン不適応で前治療歴のある局所進行または転移性尿路上皮がん」の適応でも承認を取得。オーストラリアとカナダでも2つの適応について審査が行われているほか、日本と欧州でも申請中です。
「Darzalex Faspro」米ヤンセン
多発性骨髄腫治療薬Darzalexの皮下投与製剤「Darzalex Faspro」(daratumumab/hyaluronidase)は、新たにpomalidomide、dexamethasoneとの併用で、レナリドミドとプロテアソーム阻害薬を含む前治療を1つ以上受けた患者に使用できるようになりました。
「Opdivo」米ブリストル
免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体「Opdivo」(nivolumab)は、sorafenibによる前治療を受けた肝細胞がんに対する単剤療法の適応を取り下げました。17年に迅速承認を取得していましたが、検証試験で全生存期間の改善を達成できず、4月に行なわれたFDAの諮問委員会の結果と、その後の協議を経て取り下げが決定されました。同適応では「Yervoy」(ipilimumab)との併用療法が承認されており、こちらは引き続き使用できます。日本では、肝細胞がんの適応ではP3試験が進行中です。
「Dalvance」米アッヴィ
感受性グラム陽性菌による急性細菌性皮膚および皮膚構造感染症治療薬「Dalvance」(dalbavancin hydrochloride)は、新たに0~18歳の小児に使用できるようになりました。出生時から使用できる単回投与の治療薬は米国初。臨床試験では成人と同様の安全性が確認されています。
「Nucala」英グラクソ・スミスクライン
抗IL-5抗体「Nucala」(mepolizumab)は、成人の鼻ポリープを伴う好酸球性慢性副鼻腔炎治療薬として新たに承認されました。鼻コルチコステロイドへの反応が不十分な患者に対し、追加の維持療法として使用されます。米国では2015年に喘息治療薬として承認。日本でも16年に発売し、現在は好酸球性副鼻腔炎の適応でP3試験が進行中です。
【バイオシミラー】米ヴィアトリスのinsulin glargine
「Semglee」米ヴィアトリス
「Semglee」は、仏サノフィの長時間作用型インスリン製剤「Lantus」(insulin glargine)のバイオシミラー。小児・成人の1型糖尿病患者と、成人の2型糖尿病患者が対象です。患者は薬局でLantusをSemgleeと交換してもらうことが可能。インスリン製剤で先行品との互換性を持つバイオシミラーが承認されたのは米国初。患者アクセスの拡大が期待されます。