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新型コロナワクチン 困難に直面する大規模治験…試験のあり方、世界で議論

更新日

 

[シカゴ ロイター]科学者らの間で、新型コロナウイルスワクチンの有効性のベンチマークに関する取り組みが進んでいる。実現すれば、製薬会社は従来より試験の規模を小さくすることで開発を迅速化することができる。早期の市場投入が可能になれば、世界的なワクチン不足を解決に導くかもしれない。

 

研究者らは、新型コロナワクチンによって抗体がどの程度できれば病気を予防できるのか、明らかにしようとしている。各国の医薬品規制当局はすでに、インフルエンザウイルスワクチンの評価で抗体量と予防効果の関係を利用している。これにより、大規模で長期にわたる臨床試験を行わずとも、有効性を評価することが可能となっている。

 

風疹ワクチンの発明者であり、抗体量と予防効果の関係に詳しいスタンレー・プロトキン氏は「抗体量はワクチンの有効性を予測するのに使うことができる。プラセボ対照試験の実施が困難になるにつれ、その重要性は増すだろう」と指摘。「情報はどんどん入ってきている。年末までには、関係者を納得させられるだけの十分なデータが得られそうだ」と話す。

 

基準が確立されれば、製薬会社は数千人規模の臨床試験で有効性を証明することができるようになる。これは、すでに使われている新型コロナウイルスワクチンが承認取得のために行った臨床試験の10分の1程度の規模だ。

 

倫理的問題

従来のやり方では、数万人のボランティアを集め、ワクチンを打った人の感染率とプラセボを打った人の感染率を比較していた。

 

こうしたプラセボ対照の無作為化比較試験は、今後、一部の国では認められなくなる可能性がある。というのも、有効なワクチンが広く普及している地域では、プラセボを投与することに倫理的な問題が生じるからだ。

 

さらに、新しいワクチンの多くは小さい会社によって開発されており、政府による支援やパートナーからの潤沢な資金がなければ、大規模試験の実施は難しい。

 

抗体量と予防効果の関係が明らかになれば、製薬会社は、開発中のワクチンを接種した少数の試験参加者の血液を調べ、基準となるレベルの中和抗体ができているか確認することで有効性を判断できるようになる。

 

こうした基準は、ワクチン開発者が直面している課題を克服し、ワクチンの入手可能性を高めるために「緊急に必要である」――。マウントサイナイ医科大(米)のウイルス学者、フロリアン・クラマー博士は今月、英科学誌「ネイチャー」に寄稿した。

 

オックスフォード大(英)の研究者は先月末、アストラゼネカのワクチンを接種した人から検出された抗体をもとに、予防効果との相関関係を示す可能性を提案した。この研究は、ほかの研究者らによる査読を待っている状況だ。

 

米国では、モデルナのワクチンについて同様の研究が行われており、結果は今夏の終わりに医学誌に掲載される予定だ。フレッドハッチンソンがん研究センター(米)の生物統計学者、ピーター・ギルバート博士は「われわれは今、論文を書いているところだ」と話している。

 

専門家の中には、抗体レベルが予防効果の指標として十分か、疑問視する人もいる。T細胞やメモリーB細胞など、中和抗体以外の免疫反応は、新型コロナウイルスに対する重要な短期的・長期的な防御をもたらすと考えられているが、それらの測定はより難しい。

 

こうした点については、ビオンテックとともに最も効果の高い新型コロナワクチンの1つを開発し、世界で最も多くの新型コロナワクチンを製造しているファイザーの専門家らが主張している。

 

一部の専門家によると、ワクチンの種類ごとに特有の基準が必要になる可能性もある。新しいタイプのワクチンに取り組んでいる製薬会社は、モデルナのメッセンジャーRNAワクチンに基づく基準には頼ることができない可能性が高いという。

 

ギャップを埋める

一方、ワクチン開発者らは、大規模なプラセボ対照試験に代わるものとして、許容されうる試験のあり方を模索している。検討されているものの中には、すでに承認されているワクチンと抗体反応を比較し、有効性を証明することを目指しているものもある。

 

欧州と英国の保健当局は、企業と協力し、いわゆる「イムノブリッジング試験」の基準を設定している。米FDA(食品医薬品局)は今のところ、次世代ワクチンについてこうした試験を受け入れるか、言及を避けている。

 

FDAのワクチン担当者、マリオン・グルーバー博士は、5月に開かれたWHO(世界保健機関)の会議で、他国の規制当局者に対し、「確立された予防効果の相関関係である必要はないが、事前に規定された適切な基準に到達しなければならない」「第二世代のワクチンは効かない、というリスクを冒すことはできない。それは、ワクチンへの信頼を損なうだろう」と述べている。

 

イタリアのレイセラは、ウイルスベクターを使ったワクチンを開発しており、少なくともアストラゼネカ製と同程度の効果があることを証明しようとしている。レイセラのシニアディレクター、ステファノ・コロッカ氏はロイターに対し、欧州と英国の規制当局とは試験デザインについて大枠で合意していると明かした。「大規模な臨床試験は、世界のほとんどの国で倫理的に実現可能ではない」と同氏は話す。

 

仏バルネバと台湾のメディジェン・ワクチン・バイオロジックスは、アストラゼネカとは異なる技術を使っているにもかかわらず、自社ワクチンをアストラゼネカ製と比較することを計画している。バルネバの試験計画は英国の規制当局が承認しており、台湾ではメディジェンのワクチンの緊急使用が承認されている。

 

サノフィとグラクソ・スミスクライン、カナダのメディカゴは、感染率が高く、使用可能なワクチンが少ない国を含め、数千人の参加者を対象としたプラセボ対照試験を選択している。

 

ブースターの必要性も

英国、米国、オーストラリアでは、抗体と予防効果の関係について調査が行われている。科学者らは、ワクチンを接種した人のうち、感染した人とそうでない人の抗体レベルを比較し、その差を生み出している抗体量の閾値を探っている。

 

オックスフォード大の研究者らは、世界的に急速に広がっている感染力の強いデルタ株のようなウイルスについて、抗体量と予防効果の関係を明らかにする必要があると主張している。同大の研究者が提案する抗体モデルは、主に英国で最初に発見されたアルファ株の感染者をベースにしている。

 

米国政府の支援を受けた科学者らは、モデルナのワクチンを接種した人々の感染を調べている。モデルナの広報担当者、レイ・ジョーダン氏は、同社も分析に取り組んでおり、知見が得られれば公表するとしている。

 

関係性のベンチマークは、人々がいつ、どのようにブースターを必要とするかを示すかもしれない。

 

ファイザーは、中和抗体の低下を理由に3回目の追加接種の認可を求めている。一方で同社は、中和抗体がワクチンの有効性予測に使えるという考えには反対している。同社の広報担当者は「予防効果の相関関係を確立するための正式なタイムラインではない」とし、「中和抗体であろうとなかろうと、どんな免疫応答が予防に寄与しているのか理解するため、科学界と協力し続ける」と語った。

 

(Julie Steenhuysen/Ludwig Burger、翻訳:AnswersNews)

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