[ロイター]米バイオジェンのアルツハイマー病治療薬「ADUHELM」(一般名・アデュカヌマブ)をめぐり、米国の一部の大病院が使用しない方針を決めた。保険会社も、高齢者向けの公的医療保険「メディケア」のカバレッジ条件を待っている状態で、同薬は新たな壁に直面している。
米国有数の医療機関であるクリーブランド・クリニックとニューヨークのマウント・サイナイ・ヘルス・システムは7月15日、ADUHELMを取り扱わないことを決めたと明かした。
マウント・サイナイ・センター・フォー・コグニティブ・ヘルスのディレクターであるサム・ガンディ博士はロイターに対し、「FDA(食品医薬品局)とバイオジェンの関係に疑惑が浮上したことで流れが変わった」と語った。
FDAは7月9日、バイオジェンとFDA担当者の関係について、連邦政府による独立した調査を求めていた。
バイオジェンの株価は15日に8%近く(25.21ドル)下落し、324.85ドルとなった。グッゲンハイムのアナリスト、ヤティン・スネジャ氏は、この株価下落は2つの大手医療機関がADUHELMを使用しないという決定をしたことが要因だと考えている。
6月中旬、ワシントンのニューロロジー・センターは、有効性と安全性、そしてコストに対する懸念から、ADUHELMをすべての患者に推奨しないと発表した。
FDAは6月初め、複数の臨床試験で異なる結果が出たにもかかわらずADUHELMを承認した。FDAは「脳内のアミロイドプラークを除去するというエビデンスが、アルツハイマー病患者の利益になると確信している」と強調している。
ADUHELMの価格は年間5万6000ドル。バイオジェンは7月15日に発表した声明で、ADUHELMの承認は臨床データに裏付けられており、アクセスを拒否された患者は同社に問い合わせてほしいと呼びかけた。
一方、メディケア・プランを提供する民間保険会社は、ADUHELMはデータに基づく保険適用の基準をまだ満たしていないとの認識を示している。
メディケア・アドバンテージの提供で最大手の民間保険会社ユナイテッドヘルス・グループは7月15日、ADUHELMについてはまだ検討中で、メディケアからの情報を待っていると述べた。同社のアンドリュー・ウィッティCEOは「本当の意味で判断が明確になるには、まだまだ時間がかかりそうだ。この件に関しては、迅速な意思決定をあまり期待しない方がいいだろう」と話している。
メディケア・アドバンテージ・プランの提供で2番手のヒューマナも、メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)からの指導を待っており、ADUHELMの保険適用を最終決定していないとしている。
ブルークロス・ブルーシールドは、ミシガン州、ノースカロライナ州、ペンシルベニア州など一部地域で提供する保険プランについて、患者へのベネフィットに関するエビデンスが不十分だとし、保険を適用しないとしている。
バイオジェンは声明で、ブルークロス・ブルーシールドの保険プランが「ADUHELMを実験的・研究的なものとしているのは不正確で、誤解を招くおそれがある」と反発している。
CMSは7月12日、ADUHELMに関する全国的なレビューを開始した。これには9カ月の期間を要すると言われている。CMSによると、それまでの間、アデュカヌマブの保険適用範囲の決定は12の地域契約者によって地域レベルで行わる。
SVBリーリンクは先日、多くのアルツハイマー病患者を治療している米国の神経内科医57人を対象とした調査で、44%がアミロイド斑の見られる早期アルツハイマー病患者にADUHELMを使用すると回答したと発表した。
ウォール街の企業は、ADUHELMの売上高を、今年は6500万ドル、来年は11億ドル、2025年には50ドルと見積もっている。
価格設定に影響力を持つインスティテュート・フォー・クリニカル・アンド・エコノミック・レビュー(ICER)は7月15日、医師や患者ら関係者を集めた会合を開き、ADUHELMのコストと患者にとっての潜在的なベネフィットについて議論した。
(Deena Beasley、翻訳:AnswersNews)