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アルツハイマー病薬アデュカヌマブ承認、エーザイの内藤CEOが語ったこと

更新日

前田雄樹

6月7日、アルツハイマー病に対する世界初の疾患修飾薬として米国で承認を取得したアデュカヌマブ(製品名・ADUHELM)。同薬を米バイオジェンと共同開発したエーザイが9日、メディア・投資家向けにオンラインで説明会を開き、内藤晴夫CEO(最高経営者)が認知症治療薬に対する思いを語りました。

 

 

アリセプト承認から四半世紀

米FDAは6月7日、バイオジェンとエーザイが共同開発した抗アミロイドβ抗体「ADUHELM」(一般名・アデュカヌマブ)を迅速承認しました。アミロイドβ(Aβ)の脳への蓄積はアルツハイマー病の根本的な原因の1つとされ、これに直接作用する薬剤の承認は世界初。過去、いくつものメガファーマを跳ね返してきた重い扉が、ようやくこじ開けられました。

 

「認知症治療薬『アリセプト』の承認から四半世紀。ようやく、疾患の原因と考えられるアルツハイマー病の病理に作用する最初の治療薬に至ることができ、感無量の思いです」(内藤CEO)

 

エーザイが世界初のアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」の承認を米国で取得したのは1996年。内藤CEOが説明会で強調したのは、それから25年間でアルツハイマー病研究、特にバイオマーカーに関する研究が大きく進展したことでした。

 

「アリセプトの添付文書とADUHELMのそれを比べると、この25年間の疾患概念、診断、治療の変遷がはっきりと見えてきます。アリセプトが承認された当時、アルツハイマー病は有効な治療手段が見いだされておらず、原因についても、日本では加齢や脳血管性によるものだとされていました。今日では、Aβやタウといったタンパク質の異常蓄積を原因とし、少なくとも10年以上の歳月をかけて進行する神経変性疾患であることが明らかになってきた。その病態生理を明らかにするバイオマーカー研究も大きく進展し、病状や病期の把握、治療効果の確認、診断の精度向上などに圧倒的な力を発揮するに至っています」(同)

 

バイオマーカー研究の進化如実に

「アリセプトの承認当時の添付文書には、バイオマーカーについての記載は一切ありませんでした。実際、治験でもバイオマーカーの測定は行っていなかったし、測定法自体も確立されていなかったわけです。ひるがえってADUHELMの添付文書には複数のバイオマーカー情報が含まれており、クリニカルエンドポイントも重層的に評価されています。2つの添付文書の違いは、この四半世紀のバイオマーカー研究やクリニカルサイエンスの革新的な進化を如実に表わしているのではないでしょうか」(同)

 

「診断面での進展も極めて顕著なものがありました。MRIはその精度を格段に向上させ、PETにおける分子イメージングのプローブ研究がもたらした革新には目を見張るものがあります。CSF(脳脊髄液)検査は、現在、最も多面的な情報を提供するとも言える。血液バイオマーカーの実装に対する期待も高く、ゲノム関連の情報も急速に立ち上がってきています。これらによって発症リスクや治療効果の確認を可能とするブレインヘルスパネルの形成は、これからのアルツハイマー病の診断・治療・予測におけるイノベーションの中核となるコンセプトを形成すると言えます」(同)

 

疾患修飾薬の価値とは

バイオジェンとエーザイがアルツハイマー病の開発・販売で提携したのは2014年。17年には、エーザイが契約に含まれていたオプション権を行使し、アデュカヌマブの共同開発が始まりました。

 

承認への道のりは、山あり谷ありでした。19年3月には、有効性の証明は難しいとの独立データモニタリング委員会の判断を受け、実施中だった2本の臨床第3相試験を中止。その後、追加データを含めて再解析を行った結果、片方の試験で主要評価項目を達成したとして、昨年7月に米国で申請を行いました。しかし、FDAの諮問委員会は昨年11月、有効性に否定的な見解を示し、FDAは当初今年3月に設定していた審査期限を3カ月延長。承認の可否について検討を行ってきました。

 

FDAは「ADUHELMはすべての試験でAβプラークを大幅に減少させることが示されている。Aβプラークの減少は、患者に臨床的な利益をもたらす可能性を合理的に予測することができる」としていますが、その判断をめぐっては賛否が別れています。FDAは迅速承認にあたり、薬剤の臨床的ベネフィットを検証する新たな臨床試験の実施を要求。臨床的ベネフィットが確認できなかった場合、承認を取り下げる可能性にも言及しています。

 

有効性とともに議論を巻き起こしているのが、アデュカヌマブによる治療にかかるコストです。バイオジェンとエーザイによると、平均的な体重の患者が同薬の投与を受けた場合、年間の薬剤コストは5万6000ドル(約610万円)。患者の自己負担はこれより低くなりますが、アデュカヌマブによる治療の対象となる患者は米国で100~200万人いるとされ、医療費への影響が懸念されています。

 

価格とアクセスは両立できる

「アルツハイマー病疾患修飾薬の価値とは、いかなるものでしょうか。エーザイは、四半世紀に渡ってアルツハイマー病当事者とその家族に寄り添い、憂慮とニーズの理解に努めてきました。価値の1つの表現型である価格、すなわちプライシング・ポリシーについて考える時、われわれは薬剤のもたらす多面的な価値が評価されるべきと考えています。アルツハイマー病にかかる費用の特徴は、医療本体に関わるものより、介護による負担が大きいことです。これには、家族が介護をすることで就労の機会が減少することも含まれますし、介護には長期療養施設への入所なども含まれます。これらを複合的に評価することで、価値の全体像が見えてくる。このことと、薬剤へのアクセスを確保できるかどうかは、別々の課題であると考えています」(内藤CEO)

 

「価値をしっかりと反映させた価格を構築することは、その薬剤がどれくらい革新的で、今まで実現できなかった価値を当事者や社会にもたらすかを表現する上で極めて重要です。イノベーションの具体的表現としても欠かせません。一方、アクセス・ポリシーは、各国の制度や保険の状況をしっかりと勘案した上で、さまざまな支援のプログラムやメカニズムを総合的に整備していくものです」(同)

 

「プライシング・ポリシーで薬剤の価値をしっかりと表現し、アクセス・ポリシーで必要とする人にしっかり届ける。この2つのポリシーは矛盾しない。同時に実現することが重要で、これこそが現在の製薬企業にとって最大の使命であると言っても過言ではありません」(同)

 

バイオジェンとエーザイは、医療保険者や医療提供者などと連携し、診断や治療の負担を軽減する支援プログラムを展開することにしており、価格は4年間引き上げない方針です。内藤CEOは、審査の進捗に応じてアジア地域でもアクセス確保策の検討を進めていく考えも示しました。

 

大型化のポテンシャル

バイオジェンとエーザイは、アデュカヌマブを日本や欧州などでも申請中。日本での申請は昨年12月に行われ、年内にも承認の可否が判断される見込みです。FDAの判断は、ほかの国や地域での承認に向けて弾みとなるのでしょうか。ニューロロジービジネスグループプレジデントのアイヴァン・チャン常務執行役は次のように話しました。

 

「各国の規制当局とは積極的に対話を続けています。国ごとに異なる薬事プロセスがあり、承認の判断も異なることがある。ただ、2つのことが言えると思っています。1つは、われわれは提出したアデュカヌマブのデータパッケージに確信を持っているということ。もう1つは、20年に渡って新規の治療薬が出ておらず、アンメットメディカルニーズが非常に大きいということ。この2点を念頭に置いて、申請を行った国々の患者にアデュカヌマブを届けていきたいと考えています」(アイヴァン・チャン常務執行役)

 

患者数が多く、アンメットメディカルニーズの高い疾患に対する初の疾患修飾薬とあって、アデュカヌマブは大型化が見込まれています。英調査会社のクラリベイトは、今年発売が見込まれるブロックバスター候補の1つにアデュカヌマブを選び、25年の売上高を37億4000万ドル(約4080億円)と予測。ピーク時には1兆円を超えるとの観測もあります。

 

「まずはAβの蓄積をPETやCSF検査で確認するという関門があり、それをクリアしたエレジブル(適格)な患者がどれくらいになるかという見通しをこれから立てていきたい。ファーストフェーズで非常に大きな売り上げや収益がもたらされるものではないと想像しています。しかしながら、検査体制が充実してきたり、血液でAβが確認できるようになったりすれば、より多くの患者がエレジブルな患者として入ってくる。そうなれば、非常に大きな(収益)貢献ができる、ブロックバスターになるポテンシャルを有しているのではないかと考えています」(内藤CEO)

 

複数の治療薬で根本治療に近付く

エーザイはアデュカヌマブのほか、バイオジェンと抗Aβプロトフィブリル抗体レカネマブ(開発コード・BAN2401)を共同開発。さらに、抗TMBRタウ抗体「E2814」やシナプス再生剤「E2511」と、複数のアルツハイマー病治療薬を開発しています。内藤CEOは、複数の薬剤を揃えることで、アルツハイマー病の根本治療が可能になるとの考えを示しました。

 

「われわれは、アルツハイマー病の病態生理の異なる部分に作用する疾患修飾薬候補を開発中です。当事者のバイオマーカー情報に基づき、これらの薬剤を適切に用いることでアルツハイマー病の根本治療に近付くことができると考えています。エーザイはこれからも、この挑戦を全力で続け、当事者と家族、そして人々のアルツハイマー病の憂慮を取り除いていくことに貢献していきます」(同)

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
エーザイ

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