医薬品卸の経営悪化が再び深刻化しています。主要6社の2021年3月期業績を集計したところ、各社とも新型コロナウイルス感染症の影響で大幅な営業減益となり、営業利益率はメディパルホールディングス(HD)を除く5社が1%を下回りました。相次ぐ後発医薬品の自主回収やコロナワクチン供給による業務負担も重荷となっています。
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営業利益率 主要6社で0.7%
コロナ禍で、医薬品卸の経営は一層厳しいものとなっています。
AnswersNewsが主要医薬品卸6社の2021年3月期決算を集計したところ、各社とも業績が前年から大きく悪化しました。売上高は、トップのメディパルホールディングスが前期比1.3%減の3兆2111億円で、2番手のアルフレッサHDが2兆6032億円(3.5%減)。スズケンが2兆1282億円(3.9%減)、東邦HDが1兆2103億円(4.2%減)で続きました。
営業利益も、各社とも大幅に減少しました。バイタルケーエスケーHDは前期36億円の営業黒字から一転、23億円の営業赤字に転落。営業赤字は2011年3月期以来といいます。営業利益率は6社合わせて0.7%で、メディパルHDを除く5社が1%を割りました。
業績悪化の主な背景は、薬価改定や新型コロナウイルス感染拡大に伴う受診抑制による医薬品市場の縮小。IQVIAの統計によると、20年度の国内医療用医薬品市場は前年度から2.7%減となりました。医療機関や薬局の経営不振による値下げ要求が強まり、卸間の価格競争が激化したことも不振に追い打ちをかけました。
人員削減の動きも出てきており、20年度はメディパルHDが子会社のメディセオ、エバルス、アトルの3社で早期退職を実施。対象は45歳以上かつ勤続10年以上の社員で、560人が応募しました。メディパルHD全体の正社員数は、19年度の8720人から7891人に減少しています。
流通改善への取り組みは後手に
市場環境の悪化に加え、医薬品卸を苦しめたのが、相次ぐ後発医薬品の品質問題です。20年度は、小林化工や日医工が製造に不備のあった製品を大量に自主回収。小林化工がほぼ全製品の出荷を停止し、日医工が164品目の出荷調整(5月24日現在)を行う中、代替品を供給するほかの後発品メーカーにも影響が拡大。卸各社は、代替品の確保、在庫管理、供給スケジュールの確認、医療機関との調整などに奔走することとなり、通常業務を圧迫しました。
医薬品卸は新型コロナウイルスワクチンの供給でも重要な役割を担っており、業務負担は増加の一途をたどっています。一方で、卸の収益改善にとっても重要な流通改善の取り組みは停滞。日本医薬品卸売業連合会(卸連)が昨年10月に会員企業43社に行ったアンケートでは、半数以上の企業がコロナ禍での配送業務などを優先した結果、流通ガイドラインの順守がうまくいっていないと回答しました。
「調整幅」の行方は
医薬品卸の経営は今期も厳しい状況が続く見込みです。
新型コロナウイルスの影響が見通せないとして業績予想を「未定」としている東邦HDを除くと、主要5社のうち3社が営業利益率1%未満となる予想。20年度に営業赤字となったバイタルケーエスケーHDは、コストの見直しなどで黒字化を見込みますが、営業利益率は0.3%にとどまります。スズケンは構造改革に向けた体制整備費用などを計上するため、営業利益で61.8%の大幅減益となる見込みです。
さらに今期は、地域医療機能推進機構発注の医薬品入札をめぐる談合事件による入札指名停止の影響も拡大する見通し。アルフレッサHDは、指名停止の減収影響を約800億円と見積もっています。
「安定供給、足元で崩れかけている」
今年度から始まった薬価の中間年改定も頭痛の種です。
卸連は、すでに医薬品卸の経営はギリギリの状態だとし、「『薬価が下がっても安定供給は確保される』という前提が、足元では崩れかけている」と窮状を訴えます。5月12日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)薬価専門部会では、来年度の薬価制度改革に向け、「医薬品卸が果たしている役割や機能について適正な評価を行い、医薬品を安全かつ安定的に流通させるためのコストについて、どのようなルールで負担すべきなのかを検討し、医薬品流通、医薬品の安定供給に支障が生じないようにしてほしい」と主張しました。
次期薬価制度改革をめぐっては、市場実勢価格に基づく引き下げから控除される「調整幅」について、財務省の財政制度等審議会が「流通安定のための最小限必要な調整比率とされているが、実際には一律2%のまま約20年間固定されており、その合理的な根拠を含め、あり方を見直すべき」との建議を麻生太郎財務相に提出。毎年薬価改定の「完全実施」も求めています。
議論の行方によっては、卸経営はさらなる苦境に立たされることになり、各社の正念場は続きます。