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新型コロナ 経口抗ウイルス薬 開発レースの内幕

更新日

ロイター通信

[ロサンゼルス ロイター]新型コロナウイルスの感染が世界中に広がり始めた2020年初頭、米ファイザーは研究者らによるチーム「SWAT」を編成し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬候補の特定に着手した。

 

ワクチンの検討を始めていた同社は、抗インフルエンザウイルス薬「タミフル」が広く使われ、効果を発揮しているのと同じように、新型コロナでも症状の進行を止める薬剤を開発しようと考えた。研究チームは自社の化合物ライブラリを精査し、ほどなく治療薬候補となる有望な化合物を特定した。

 

それから1年以上たった現在、ファイザーはCOVID-19に対する経口の治療薬について、初期の臨床試験を行っている。7月までには大規模試験に入る構えだ。

 

ファイザーは、米メルクやスイス・ロシュなどと競い、発症の初期段階で投与できる抗ウイルス薬の開発を目指している。各社共通の目標は、感染初期の患者に投与することで重症化を防ぎ、入院を回避するという、治療に残された重要な穴を埋めることだ。

 

ただ、パンデミックの発生から1年半ほどたった今でも、COVID-19への効果が証明された経口の抗ウイルス薬は存在しない。一方で、効果の高いワクチンは数多く開発されている。

 

こうした現状は、COVID-19に対する経口抗ウイルス薬の開発が直面する課題を明確に示している。抗ウイルス薬は、ウイルスが体内に広がるのを阻止すると同時に、健康な細胞に害を与えないよう、選択性を持たせなければならない。

 

年内の使用許可に期待

製薬企業の幹部は「抗ウイルス薬の臨床試験は難しい」と言う。試験を行うには感染初期の患者を見つけてこなければならないし、COVID-19は多くの人が軽症で済むため、症状の改善が薬の効果であることを証明するのも容易ではない。

 

ファイザーのアルバート・ブーラCEO(最高経営責任者)は、早ければ今年末にも、米国で抗ウイルス薬の緊急使用許可を得ることができるとの見通しを示している。ブーラ氏は5月14日、ギリシャで開かれた経済フォーラムにオンラインで参加し、「現時点では(臨床試験が)成功すると信じるに足る十分な理由がある」と語った。

 

COVID-19に対する経口抗ウイルス薬の開発は、通常の医薬品開発に比べてはるかに速いペースで進んでいる。メルクとロシュは最近、後期段階の臨床試験を開始し、今年後半には使用の準備が整う可能性があるとしている。メルクは米リッジバック・バイオセラピューティクスと、ロシュは米アテア・ファーマシューティカルズと、それぞれ提携して開発を進めている。

 

世界各国の政府は、新型コロナウイルスワクチンの開発に何十億ドルもの資金を投入している。一方、ファイザー、メルク、ロシュの3社は、COVID-19に対する経口抗ウイルス薬の開発で政府からの資金援助は受けていないという。

 

「次のタミフルを探す」

現在、COVID-19の新規感染者が減少している国もあるが、ウイルスの急速な蔓延に悩まされ続けている国もある。多くの国でワクチンが不足しており、世界全体への普及には時間を要する。ワクチン接種に消極的な人が多いのも事実だ。

 

研究者らは、世界で350万人以上の死者を出したCOVID-19が、インフルエンザと同様に季節性の疾患になる可能性があるとみている。ただし、そうなるためには「自宅で服用できる薬剤が必要だ」と、ハーバードメディカルスクール教授で感染症専門家のラジェシュ・ガンジー博士は指摘する。

 

研究者らは、既存の経口薬をいくつか試してきたが、厳密な臨床試験で効果を証明したものはない。COVID-19による入院を抑制するとされる薬剤は、現在のところ、長時間の点滴で投与する必要があり、変異株では効果が弱まるかもしれない抗体医薬だけだ。

 

一方、ファイザーとそのライバル企業は、開発中の経口抗ウイルス薬は変異株にも幅広く効果を発揮するとしている。ただ、関連するデータはまだ公表されていない。

 

COVID-19の入院患者に対しては、ステロイドなどの抗炎症薬が使われることが多い。しかし、これらはウイルス自体を標的としたものではない。現在、米国で承認されている抗ウイルス薬は、米ギリアド・サイエンシズのレムデシビルのみで、入院患者に点滴で投与されている。

 

「私たちはみな、次のタミフルを探している」。ギリアドのチーフメディカルオフィサーであるマーダット・パーシー氏はこう話す。タミフルは、インフルエンザの発症から2日以内の投与が推奨されており、症状改善までの期間を短縮する効果が認められている。

 

「化学的な傑作」

ファイザーの研究者らは、昨年1月に抗ウイルス薬の探索を開始した。同社で医薬品設計の責任者を務めるシャーロット・アラートン氏によれば、彼らは2003年にSARSが世界的に流行した際に探索していた化合物に目をつけたという。この化合物はプロテアーゼ阻害薬で、ウイルスの増殖に必要なプロテアーゼを阻害するように設計されている。同様の薬剤は、HIVやC型肝炎の治療に使われている。

 

しかし、ファイザーの研究者らは、初期の段階でつまずいてしまった。実験の結果、この化合物は新型コロナウイルスに有効であるものの、ヒトの体内で効果を発揮するにはかなりの量を投与しなければならないことがわかったのだという。ファイザーは、その化合物を静注製剤として開発する作業を続けた。しかし、抗ウイルス剤は発症早期に投与するのが最も有効であり、「静脈内投与の薬剤でそれを行うのは容易ではない」とアラートン氏は指摘する。

 

同氏によると、ファイザーの研究者らは昨年3月、胃から十分に吸収され、錠剤として服用できる新たな化合物の設計に着手し、同年7月に確定したという。同社のチーフサイエンティフィックオフィサーであるミカエル・ドルステン氏は、経口投与可能なプロテアーゼ阻害薬の発見を「化学的にはちょっとした傑作だった」と振り返る。

 

抗ウイルス薬は、健康な細胞を傷つけることなく、細胞内で増殖しているウイルスを標的にしなければならない。このため、ワクチンよりも開発は複雑だ。抗ウイルス薬の服用は数日程度と考えられるが、製薬会社は安全性を確保するため開発を慎重に進めなければならない。

 

臨床試験の壁

メルクとロシュの治療薬候補は、ファイザーのものとは異なる作用機序を持つ。しかし、これらの企業には、試験を進める上で共通の課題がある。1つは、感染後すぐに患者に投与することだ。ファイザーのドルステン氏は「ウイルスが増殖している発症の初期段階で治療することが重要だ」と指摘する。一部の国ではワクチン接種が進んでいるが、抗ウイルス薬の試験は感染が増加している国で行う必要がある。

 

ファイザーは今年3月、COVID-19に対する経口抗ウイルス薬候補「PF-07321332」の初期の臨床試験を米国で開始した。これは、昨年秋に同社が開始した静注製剤の試験に続くものである。

 

メルクは今年4月、開発中の抗ウイルス薬候補モルヌピラビルについて、入院患者を対象とする開発は中止する一方、一部の外来患者で後期段階の試験に移行すると発表した。具体的には、発症から5日以内で、高齢、肥満、糖尿病など重症化のリスク因子が少なくとも1つある患者を対象としている。同社は、今年9~10月に最終データを得られるとの見通しを示している。

 

ロシュとアテアは、最近開始した「AT-527」の後期臨床試験の被験者を、発症5日以内の患者に限定している。アテアによると、最終的な試験結果は今年末までに判明する見込みだ。

 

(Deena Beasley、翻訳:AnswersNews)

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