2021年3月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大をまとめました。
【新薬】BCMA CAR-T細胞療法「Abecma」や「Myrbetriq」の懸濁液用顆粒やなど
「Fotivda」米アベオ・オンコロジー
VEGF阻害薬「Fotivda」(一般名・tivozanib)は、再発・難治性の進行腎細胞がん治療薬。少なくとも2回以上の全身療法を受けた患者が対象です。同薬は協和キリンが創製。欧州などですでに進行腎細胞がん治療薬として承認されており、がん以外の領域での権利は協和キリンが持っています。
「Kimyrsa」米メリンタ
リポグリコペプチド系抗菌薬「Kimyrsa」(oritavancin)は、急性細菌性皮膚・皮膚組織感染症治療薬として承認。従来の治療薬は複数回の投与が必要でしたが、同薬は長時間作用型の単回投与製剤で、患者負担の軽減が期待されています。
「Ponvory」米ヤンセン
スフィンゴシン1リン酸受容体モジュレーター「Ponvory」(ponesimod)は、再発寛解型、二次性進行型などを含む再発型の多発性硬化症治療薬。臨床試験では、teriflunomideとの比較で、年間の再発率と脳病変の発生率を有意に減少させました。
「Zegalogue」デンマーク・ジーランド
「Zegalogue」(dasiglucagon)は、6歳以上の糖尿病患者の重度の低血糖症に対する治療薬。承認のもととなった3つの臨床試験では、血糖値回復までの時間は中央値で10分でした。
「Myrbetriq」アステラス製薬
過活動膀胱治療薬「Myrbetriq」(mirabegron)は、新たに懸濁液用顆粒製剤が「3歳以上の小児神経因性排尿筋過活動」の適応で承認。あわせて、既存の錠剤も同適応への適応拡大が承認されました。手術やカテーテルの挿入といった従来の治療法と異なり、侵襲性の低い治療として期待されています。欧州でも小児を対象とした臨床第3相(P3)試験が進行中です。
「Abecma」米ブリストル
BCMAを標的とするCAR-T細胞療法「Abecma」(idecabtagene vicleucel)は、再発・難治性の多発性骨髄腫治療薬。免疫調節薬やプロテアソーム阻害薬、抗CD38抗体を含む4つ以上の前治療を受けた成人患者が対象です。同社のCAR-T細胞療法としては、今年1月に承認された「Breyanzi」に次ぐ2つ目の製品で、抗BCMA療法としてはグラクソ・スミスクラインの抗体薬物複合体「Blenrep」に続く治療薬となります。日本と欧州でも申請中です。
【適応拡大】「Keytruda」の食道がんや「Arcalyst」の再発性心膜炎など
「Lorbrena」米ファイザー
ALK融合遺伝子陽性転移性非小細胞肺がん治療薬の「Lorbrena」(lorlatinib)は、ファーストラインの治療に使用できるようになりました。あわせて、18年に迅速承認を受けていたセカンドライン以降の適応で完全承認を取得。P3試験では、ザーコリと比べて疾患進行・死亡リスクを72%低減しました。日本や欧州などでもファーストラインの適応で申請中です。
「Actemra」米ジェネンテック
中外製薬が創製した抗IL-6抗体「Actemra」(tocilizumab)は、皮下注製剤が「全身性強皮症に伴う間質性肺疾患」に適応拡大しました。成人患者の肺機能低下の進行を遅らせます。全身性強皮症では、約8割の患者に間質性肺疾患が生じる可能性があるとされ、同疾患に使用できる生物学的製剤は米国初となります。
「Fabrazyme」米ジェンザイム
ファブリー病治療薬「Fabrazyme」(agalsidase beta)は、長期の臨床試験と観察研究の結果に基づき完全承認を取得しました。ファブリー病はまれな遺伝性疾患で、米FDAは2003年、酵素補充療法として同薬を迅速承認。今回の長期臨床試験では、プラセボと比べ、腎・心・脳血管イベントや死亡リスクを減少させました。日本では04年から販売されています。
「Keytruda」米メルク
免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体「Keytruda」(pembrolizumab)は、「局所進行または転移性食道がんおよび食道胃接合部がん」に適応拡大。プラチナ製剤およびフッ化ピリミジン系製剤と併用します。食道がんのファーストラインはこれまで、治療法が限られていましたが、化学療法のみの場合より生存期間を延長するとして期待されています。日本や欧州、オーストラリア、カナダでも申請中です。
一方、「プラチナベースの化学療法と少なくとも1つ以上ほかの前治療を受けた転移性小細胞肺がん」の適応は、P3試験で主要評価項目の1つだった全生存期間の改善を達成できなかったことを受け、3月1日付で削除されました。同適応では19年6月に迅速承認を取得していましたが、FDAとの協議の上、メルクが自主的に承認を撤回しました。
「Arcalyst」英キニクサ・ファーマシューティカルズ
IL-1阻害薬「Arcalyst」(rilonacept)は、12歳以上の再発性心膜炎患者を対象に、治療と再発リスクの低減に使用できるようになりました。同薬はIL-1αとIL-1β両方のシグナル伝達を阻害する組み換え融合タンパク質で、米リジェネロンが創製。クリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)やIL-1受容体拮抗分子欠損症(DIRA)の寛解維持療法で同社が承認を取得していました。英キニクサは17年、再発性心膜炎などIL-1αとIL-1β両方が介在する疾患に対するライセンスを獲得。米国では今後、CAPSやDIRAを含むすべての適応症でキニクサが販売・流通を行うことになります。
「Vyxeos」アイルランド・ジャズ
二次性急性骨髄性白血病治療薬の「Vyxeos」は、1歳以上の小児に適応拡大しました。同薬は抗がん剤cytarabineと同daunorubicinを配合したリポソーム製剤で、米国では2017年に成人患者を対象に承認。二次性急性骨髄性白血病とは、治療関連急性骨髄性白血病(t-AML)や骨髄異形成関連変化を伴う急性骨髄性白血病(AML-MRC)を指します。日本では、導出先の日本新薬がP1/2試験を進行中です。
「Tyvaso」米ユナイテッド・セラピューティクス
肺動脈性肺高血圧症治療薬treprostinilの吸入液剤「Tyvaso」は、間質性肺疾患に関連する肺高血圧症患者の運動能力改善に使用できるようになりました。日本では、07年に持田製薬が導入し、14年に注射剤「トレプロスト」を発売。肺動脈性肺高血圧症の適応で吸入剤のP2/3試験を進めています。
「Sarclisa」仏サノフィ
再発・難治性多発性骨髄腫治療薬の抗CD38抗体「Sarclisa」(isatuximab)は、新たにカルフィルゾミブ、デキサメタゾンとの3剤併用療法が承認されました。対象は、1~3回の前治療を受けた患者。P3試験では、標準治療と比べ、疾患進行・死亡リスクを45%低減しました。同薬は昨年、米国や欧州、日本でポマリドミド、デキサメタゾンとの併用で承認。カルフィルゾミブ、デキサメタゾンとの併用療法では、欧州でも近く承認される見通しで、日本でも申請中です。