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「再生医療、腎疾患治療の新たな糸口に」リジェネフロ・石切山俊博社長|ベンチャー巡訪記

製薬業界のプレイヤーとして存在感を高めるベンチャー。注目ベンチャーの経営者を訪ね、創業のきっかけや事業にかける想い、今後の展望などを語ってもらいます。

 

石切山俊博(いしきりやま・としひろ)慶応大法学部政治学科卒。グラクソ・スミスクライン(GSK)で、経営企画本部長や常務取締役財務本部長兼事業開発担当役員などを歴任。GSK と第一三共が2012年に設立した合弁会社ジャパンワクチンでは、共同CEO を務めた。退任後、2019年6月にRegeNephron(現リジェネフロ)を設立。JCRファーマの社外取締役やGSKの監査役も務めている。

 

「透析への移行を減らす」

――ネフロン前駆細胞を活用し、腎疾患に対する細胞医薬を開発しています。

ネフロン前駆細胞とは、腎臓の細胞になるひとつ前の細胞で、糸球体や尿細管を形成する細胞です。壊れた腎臓の修復や再構築への活用が期待されています。

 

腎臓は「修復されない臓器」として有名ですが、これは、ネフロン前駆細胞が生体内に存在しないからです。ネフロン前駆細胞は、胎児には存在していますが、生まれたあと体内から消滅してしまいます。

 

そのネフロン前駆細胞を胎生期の腎臓内から初めて同定したのが、リジェネフロの創業者で最高科学顧問の長船健二先生(京都大iPS細胞研究所 増殖分化機構研究部門教授)です。長船先生は、ヒトiPS細胞をネフロン前駆細胞や腎細胞に分化誘導する技術を開発しました。私たちは、この技術をもとに腎疾患に対する細胞医薬を開発しています。

 

――腎疾患に対してはさまざまな再生医療が開発されていますが、リジェフロの優位性はどこにあると考えていますか。

1つは製造方法です。われわれは、ネフロン前駆細胞の発生過程を忠実に再現しているので、本物のネフロン前駆細胞に近く、しかもそれを効率よく作製できます。もう1つは拡大培養ができることです。不完全な細胞だと、拡大培養することで細胞の機能が失われてしまいますが、われわれのネフロン前駆細胞は機能を保ったまま拡大培養できる。このため、製造コストを抑えることが可能です。

 

人工透析にかかる費用は、患者1人当たり年間四百数十万円ほど。これを下回る費用で透析への移行を数年先延ばしできれば、社会的な価値につながると考えています。

 

――投与方法は。

私たちが考えているのは、ネフロン前駆細胞を腎臓の被膜下に移植する方法です。ネフロン前駆細胞を投与すると、ANG-1やVEGF-A、HGFといった複数の腎栄養因子が分泌され、パラクライン効果(周囲の細胞や組織への作用)を発揮して腎臓の線維化などを抑制すると考えられています。

 

移植なら、静脈投与でよくある「腎臓に細胞が届かない」という問題は起こりません。また、ネフロン前駆細胞は腎臓にだけ分化する細胞です。間葉系幹細胞などを投与した際に見られる、骨や脂肪の細胞にも分化してしまう「セルフェイト」の問題も回避できます。

 

2023年の臨床試験開始を計画

――適応症や対象患者層は。

まずは「移植腎の機能低下抑制」の適応でファースト・イン・ヒューマン試験に入ることを目指しています。POC(プルーフ・オブ・コンセプト)を取得したら、もっと一般的なCKD(慢性腎臓病)の進行抑制に適応拡大したいと考えています。

 

なぜはじめに移植腎に焦点を当てるかというと、腎移植を受けた患者さんは免疫抑制剤を服用しているからです。コストを抑えるため、われわれは他家iPS細胞由来の製品を使おうと考えていますが、免疫抑制剤を服用していれば拒絶反応を防ぐことができる。加えて、移植腎は表皮から近く、目視下で細胞移植を行うことが可能です。最初の適応ですから、より安全に移植できることが望ましいと思っています。

 

国内では対象となる患者さんが少ないので、条件付き早期承認の適用も目指しています。2023年ごろには臨床試験を開始する計画です。

 

――すでに透析を行っている患者は対象にはならないということでしょうか。

私たちの細胞療法は、「透析に移行する患者さんを減らす」「透析への移行を遅らせる」という治療法です。透析になった患者さん、特に腎臓機能を失ってしまった患者さんは、この治療法で効果を得るのは難しいとも考えています。

 

――製造面では外部と積極的に提携していますね。

目下、開発の短期化と投入資金の削減を目指し、各プロセスで提携企業とともにパラレルに開発を進めています。中間製品の製造、つまり分化誘導や純化工程などのスケールアップはキリンホールディングスと、拡大培養は日機装と、凍結保存をアビーと行い、3つの共同研究を通して一貫生産につなげようと考えています。

 

「本当に患者のためになるいい薬を」

――設立の経緯と、石切山さんが参画したきっかけを教えてください。

長船先生とは2016年に初めてお会いしました。その年、私はジャパンワクチン(グラクソ・スミスクラインと第一三共によるワクチン事業の合弁会社。19年に解散)の社長を退任しましたが、人づてに「腎疾患の再生医療で事業化を考えている先生がいるので、協力してもらえないか」と紹介されたのがきっかけです。それから長船先生のお手伝いを始め、ちょうど3年後の19年に会社を設立しました。

 

――参画の決め手となったのは。

長船先生は現在も腎臓内科医として働いていて、実際に患者さんを診る中で、透析治療のQOLの悪さをなんとかしたいと考えています。真面目で、熱意に燃えている方で、その人柄に惹かれました。

 

私自身はそれまで、外資系企業のCFO(最高財務責任者)という立場にいて、常に売り上げや利益といった数字を念頭にマネジメントをしてきました。一方で、目先の利益にとらわれず、「本当に患者さんのためになるいい薬を出したい」という贅沢な夢もあり、これはいい機会だと思って参画を決めました。

 

2025~26年の上場を目指す

――設立から1年半ほどですが、ここまでで大変だったことは何でしょうか。

私自身、これまでもいくつか会社を作ったことはありました。ただ、よく考えてみると、それらはあくまで会社が作ったもので、私が作ったたわけではない。大企業からベンチャーに移り、すべてハンズオンでやらなければならない環境に戸惑いもありました。中でも特に大変だったのは、やはり資金調達です。

 

長船先生といろいろなベンチャーキャピタル(VC)を回りましたが、「面白そうだから、臨床試験に入ったらまた来て」と言われることもよくありました。品質と安全性が担保された細胞を作るのに20~30億円かかってしまうような分野で、これは厳しい。再生医療が進まない理由、いわゆる「死の谷」はここにあるのかなと感じました。運良く富士フイルムや京都大イノベーションキャピタルなどに出資してもらえたので、これから臨床での有効性を確認し、2025~26年の上場を目指したいと考えています。

 

「世界中の患者に届けたい」

――今後の事業展望を教えて下さい。

ネフロン前駆細胞による細胞療法では今、どの腎栄養因子が線維化の抑制に効くかを調べています。これがわかれば、関係因子を強制発現するよう遺伝子改変を施し、より強力なパラクライン効果が見込めるようになるだろうと思っています。今は線維化を抑えることに注力していますが、ゆくゆくは線維化の進行をストップできればと考えています。

 

腎オルガノイドを作成して化合物の腎毒性や有効性の評価に使ってもらうことや、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)患者由来の疾患特異的iPS細胞を使って病態の解析や治療薬の開発につなげることも考えています。実際、ADPKDに対する低分子薬のスクリーニングもやろうとしているところです。

 

オルガノイドの販売は、提携先の富士フイルムが米国などで研究支援のビジネスをやっていて、その中に将来的に組み込んでいただける可能性もあると聞いています。ネフロン前駆細胞の大量分化誘導法が実用化できた段階で動かして行きたいと思っています。

 

さらには、ネフロン前駆細胞と尿管芽細胞を組み合わせて腎組織を作ることも考えています。今はまだ数mm程度の大きさですが、腎臓の1~2割くらいの大きさになってくれば腎臓の機能の一部を果たすようになるのではないかと期待しています。

 

ニーズは海外の方が高い

――オルガノイドの販売だけでなく、細胞医療そのものの海外展開も考えていますか。

移植腎の機能低下を抑制させたいというニーズは、実は米国や欧州の方が高いんです。日本はドナーが少ないため、腎移植は年間1700人程度しか行われていません。移植後に生存(生着)している患者さんは計1万5000~1万6000人で、その中で腎機能が低下しているのは1~2割ほど。一方、アメリカでは生存している腎移植患者さんが数十万人いるので、機能低下の患者さんが数万人いる計算になります。

 

そうした背景もあって、海外のベンチャーからは「先に海外で開発しなよ」と言われることもあります。とはいえリソースが足りないので、まずは日本でと考えています。もちろん、海外の大手企業とも情報交換は続けています。日本での開発が軌道に乗れば、もう少し具体的に話を進められるのではないかと考えています。

 

――ビジョンにも「腎疾患のグローバルスペシャリティファーマを創造する」と掲げていますね。

腎疾患に対する本質的な治療薬は、まだ存在しません。「サムスカ」(大塚製薬)がADPKDで承認された程度で、それも使いやすい薬とは言いづらい。再生医療は腎臓病の新たな糸口になると思っています。

 

CKDの患者さんは、日本で1300万人、米国で3700万人、世界では7億人ほどいると聞いています。長船先生の想いもありますから、グローバルに展開してたくさんの患者さんを助けたい。そのためのポートフォリオはでき上がりつつあるので、早く届けられるようにしていきたいです。

 

(聞き手・亀田真由、写真はリジェネフロ提供)

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