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新型コロナワクチン 特許権をめぐり溝…生産拡大へ一時停止求める途上国、先進国は拒否

[チューリッヒ ロイター]世界貿易機関(WTO)は、新型コロナウイルスワクチンに関する特許権を一時的に停止し、開発途上国のメーカーへの技術移転を促すことで、貧困国向けの生産を拡大させようという案について議論している。

 

この案はインドと南アフリカが提案したもので、多くの途上国が支持している。WTOの「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」ルールの適用から新型コロナウイルスワクチンを除外し、供給を増やそうという一見単純なアイデアだが、メリットはあまり明確でないと指摘する専門家もいる。その理由をまとめた。

 

今どうなっているのか?

3月10日に開かれたWTOの会合で、欧米諸国は、ワクチンなど新型コロナウイルス対策に関連する技術の特許権を一時的に停止するという提案を再び認めなかった。この提案は、生産能力に余裕のある途上国のメーカーにワクチン製造を促すためのものである。

 

この問題がWTOで議論されるのは、今回で8回目。各国は6月に開かれる次回のTRIPS理事会までにあらためて協議することで合意した。

 

何が議論されているのか?

昨年10月、インドと南アフリカは、パンデミックが収束するまでTRIPSの規定を一時的に停止することを提案した。両国は、TRIPSのルールが新型コロナウイルス対策の妨げになっていると主張している。

 

この提案はWTOに加盟する数十カ国に支持され、国境なき医師団(MSF)や世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長も支持を表明している。テドロス氏は「今やらなくていつやるのか」と述べ、MSFは貧困国への迅速な普及が可能になると指摘している。

 

次回のTRIPS理事会は6月8~9日に開かれる予定で、この提案が再び議論の俎上に乗る可能性がある。ただ、WTOで何かを成立させることは難しい。提案を通すには、加盟する164の国と地域が一致して支持する必要がある。

 

なぜこれが問題になっているのか?

新型コロナウイルスワクチンをめぐっては、貧困国への普及の遅れが懸念されているが、富裕国でさえ供給不足によって接種が進んでいない現状がある。このため、この問題は幅広い支持と関心を集めている。

 

2月に発表された反貧困キャンペーンの報告書によると、富裕国は自国で必要となる量より10億回分以上も多くのワクチンを確保しており、貧富の差が浮き彫りになっている。

 

誰が反対しているのか?

大手製薬会社は特許権の放棄に反対している。米国研究製薬工業協会(PhRMA)は、特許権の放棄が生産拡大やアクセス向上につながる保証はないとしている。

 

PhRMAは3月5日にジョー・バイデン米大統領に宛てた書簡で、特許による保護をなくすことは、パンデミックへの対応を弱体化させ、ワクチンの安全性に対する信頼を損ない、情報共有の障害になると指摘。PhRMAは「今回の提案は、知的財産の保護に反対する世界的な活動の拡大を示すもので、パンデミック対策に向けた各国の取り組みに分断をもたらすものだ」としている。

 

大手製薬企業を抱える英国、スイス、米国は、この提案を嫌っている。製薬業界は、知的財産が適切に保護されることで、民間投資家が研究開発に資金を投入するインセンティブを確保できると主張している。

 

前例はあるか?

約20年前、抗HIV薬に対してTRIPSに基づく強制実施権が発動された例があり、モザンビーク、ザンビア、ジンバブエ、インドネシア、マレーシア、ブラジルで、特許権者の同意なしに政府が国内メーカーに実施権を付与した。

 

製薬会社との交渉が決裂したあとに起こったこれらの動きは、抗HIV薬の価格を大幅に下げ、治療薬へのアクセスを促進した。

 

インドや南アフリカは、今回の権利放棄が同様の結果をもたらすと期待しており、技術やノウハウの世界的な共有が妨げなく行われることで、新型コロナウイルス対策が顧みられない地域にまで拡大すると主張している。

 

今、それが必要なのか?

大手製薬会社だけでなく、途上国へのワクチン供給を加速させようとしているグループも、ワクチンの製造は難しく、特許を停止するだけでは接種の回数は増えないと見ている。

 

貧困国での生産を推進している「途上国ワクチン製造者ネットワーク(DCVMN)」も、特許を放棄することが直接的な解決策にならないことを認めている。DCVMNのサイ・プラサド会長は、20年前に強制実施権が発動されたエイズ治療薬とは異なり、ワクチンでは開発者と製造者の緊密な協力が必要だと指摘。インドのワクチンメーカー「バラート・バイオテック」の重役でもあるプラサド氏は「ワクチン製造を可能にするのは単一の知財だけではない」と話している。

 

英アストラゼネカと提携してワクチンを開発した英オックスフォード大のサラ・ギルバート氏も、英国議会で同じようなことを語っている。ギルバート氏は「私は、知財を共有して勝手に作らせればいいという考えを排除したい」と述べた。

 

ワクチンメーカーはすでに協力体制を構築している。スイス・ノバルティスや米メルク、仏サノフィは、他社のワクチンの生産を支援している。

 

感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)のリチャード・ハチェットCEO(最高経営責任者)は、知財の障壁は「深刻な問題ではない」とし、原材料の不足といったボトルネックのほうが懸念事項だと指摘した。

 

どんな結果になるのか?

今月1日にWTOの事務局長に就任したヌゴジ・オコンジョイウェアラ氏は、新型コロナウイルス対策を加速させるため、多国間ルールの既存の枠組みの中で知的財産の共有を拡大する「第3の道」を示唆している。

 

彼女は9日に行ったスピーチで、TRIPS理事会での議論は極めて重要だが、「ワクチン不足が1日長引くごとに、その代償は人々が命をかけて払うことになる」と述べた。

 

ワクチンに関するより多くのライセンスをサポートするという彼女のアイデアは、米国の有力なロビイストである米国商工会議所も支持している。

 

(John Miller、翻訳:AnswersNews)

 

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