医薬品の製造に「連続生産」を導入する動きが本格化してきました。コストと時間の削減や品質保証の信頼性向上などがメリットで、国内では日本イーライリリーの抗がん剤「ベージニオ」など3製品が連続生産で承認を取得。昨年12月には、塩野義製薬が抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ」を連続生産で製造するための申請を行いました。
多岐にわたるメリット
「連続生産」とは、原料を連続的に製造工程に投入し、できあがった製品を連続的に取り出す生産方法です。医薬品製造で主流の「バッチ生産」は、各工程が独立していて、1つの工程が終わると、生成物をすべて取り出して次の工程に移る、というプロセスを繰り返すのに対し、連続生産は複数の工程がつながっていて、一定の時間、継続して生産を行います。
米国で15年に初承認
連続生産は、石油化学や食品といった分野ですでに導入されていますが、医薬品では規制の関係もありなかなか進んでいませんでした。しかし近年、その多岐にわたるメリットから注目が高まっており、米国では2015年、連続生産で製造された医薬品をFDA(食品医薬品局)が初めて承認。医薬品規制調和国際会議(ICH)でも18年からガイドラインの策定作業が始まるなど、実用化に向けた環境整備が進められています。
連続生産は、バッチ生産のように工程ごとに生成物を取り出す必要がなく、製造にかかる時間や人手を減らすことができ、人的ミスの低減も期待できます。生産量は設備の稼働時間で調整するため、需要の変動にも柔軟に対応することが可能。さらには、スケールアップが不要なので、開発期間の短縮にもつながり、治験薬生産から商用生産までスムーズに移行することができます。工程途中の品質をリアルタイムにモニタリングすることで、信頼性の高い品質保証が可能になるのも利点です。
「ベージニオ」「ダーブロック」など承認
国内では、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が2016年に「革新的製造技術ワーキンググループ」を立ち上げ、連続生産への規制面での対応を検討。18年3月には「医薬品の連続生産を導入する際の考え方について(暫定案)」と題する文書を公表し、連続生産を行う場合の品質管理のあり方について見解を示しました。
連続生産で製造された医薬品は国内でも実用化されており、これまでに▽日本イーライリリーの抗がん剤「ベージニオ」(一般名・アベマシクリブ)▽ヤンセンファーマの疼痛治療薬「トラムセット」(トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン)▽グラクソ・スミスクラインの腎性貧血治療薬「ダーブロック」(ダプロデュスタット)――の3品目が承認を取得しています(トラムセットは一部変更承認)。
さらに昨年12月には、塩野義製薬が抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ」(バロキサビル マルボキシル)の製造法に連続生産を追加するための申請を行いました。インフルエンザのように、流行状況によって需要が大きく変動する感染症の治療薬は、柔軟に生産量を調整できる連続生産を取り入れるメリットが大きいと言えます。
塩野義や田辺三菱などが技術開発
塩野義は、CDMO子会社として2019年に分社化したシオノギファーマで連続生産の技術を開発。同社は、連続生産をCDMO事業の成長戦略の1つに位置付けており、「連続生産による医薬品の開発・製造は今後ますます加速すると予想される」としています。
シミックCMOも今年、静岡県島田市の静岡事業所に連続生産設備を導入し、5月から本格稼働させる予定。田辺三菱製薬は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトとして、高砂ケミカルなど7社とともに、工程ごとにモジュール化した設備を組み合わせて製造ラインを構成する「iFactory」の開発を進めています。
連続生産への取り組みはバイオ医薬品の分野でも進んでいます。富士フイルムは昨年、バイオ医薬品の培養・精製工程を並行して稼働させ、タンパク質を連続的に精製・回収する連続生産システムを開発。産官学が連携してバイオ医薬品の製造技術開発に取り組んでいる「次世代バイオ医薬品製造技術研究組合(MAB)も、抗体医薬の連続生産プラッフォームを開発しています。
連続生産は、少量・多品種の製造にも適しており、一部の後発医薬品メーカーも導入に向けて動き出しています。自動化による人的ミスの低減や、リアルタイムモニタリングによる品質不良の早期検知など、連続生産は品質面でのメリットも大きく、品質問題で厳しい目にさらされている後発品メーカーでも動きが広がっていきそうです。
(前田雄樹)
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
・塩野義製薬
・田辺三菱製薬