次世代免疫チェックポイント阻害薬として注目される抗TIGIT抗体。非小細胞肺がんなどを中心に、抗PD-1/PD-L1抗体との併用で開発競争が激化しています。先行するのはスイス・ロシュや米アーカス、米メルクなどで、ロシュは22年の申請を予定しています。
免疫抑制を阻害
がん免疫療法の中で一大市場を築く免疫チェックポイント阻害薬。グローバルでは現在、免疫チェックポイント分子の「PD-1」「CTLA-4」と、リガンドの「PD-L1」をターゲットとする抗体医薬が複数承認され、適応拡大に向けた臨床試験が活発に進められています。
これらに続く次世代の免疫チェックポイント阻害薬として開発が進められているのが「LAG-3」「TIM-3」「TIGIT」などを標的とした薬剤。中でも開発競争が激化している抗TIGIT抗体について、国内外の開発動向をまとめました。
TIGIT(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)は、T細胞やNK細胞に発現する免疫チェックポイント分子。特に、がん組織に浸潤する腫瘍浸潤性T細胞で高発現することが知られています。
免疫抑制性受容体のTIGITは、がん細胞や樹状細胞に発現するCD155と結合することで免疫を抑制。TIGITと同じように免疫細胞に発現する活性化受容体のDNAM-1(CD226)と競合し、免疫活性を調整しています。CD155は通常、DNAM-1よりTIGITに結合しやすいとされます。
抗TIGIT抗体は、TIGITとCD155の結合を阻害することで、CD155とDNAM-1の結合を起こりやすくし、免疫を活性化する作用を持っています。
ロシュが先行 併用療法の開発が活発
抗TIGIT抗体は現在、抗PD-1/PD-L1抗体との併用療法を中心に開発が進められています。先頭を走るのは、スイス・ロシュグループのtiragolumab。同社の抗PD-L1抗体「テセントリク」(一般名・アテゾリズマブ)との併用で、非小細胞肺がんや小細胞肺がん、食道がんを対象に国際共同臨床第3相(P3)試験を行っています。小細胞肺がんの適応では、2022年にも申請する見込みです。
ロシュは併用によって、TIGIT/CD155の結合と、PD-1/PD-L1の結合を同時に阻害し、相乗的に免疫を活性化することを狙っています。ロシュは今年5月、PD-L1陽性の非小細胞肺がん患者に対する1次治療のP2試験で、テセントリクにtiragolumabを上乗せした場合、テセントリク単剤に比べてORR(全奏功率)とPFS(無増悪生存期間)が有意に改善したと発表。現在、特に効果が大きかったPD-L1高発現の患者を対象としたP3試験が行われています。
アーカスやメルクも開発後期に
ロシュのtiragolumabに続くのは、米アーカス・バイオサイエンスのdomvanalimabや米メルクのvibostolimabなどです。
アーカスは今年10月、ステージ3の非小細胞肺がんを対象に、英アストラゼネカの抗PD-L1抗体「イミフィンジ」(デュルバルマブ)との併用療法を評価するP3試験を来年から開始すると発表。自社の抗PD-1抗体zimberelimabなどとの併用でも開発を進めています。今年7月には、米ギリアド・サイエンシズと、アーカスのパイプラインの共同開発・実用化で10年に及ぶパートナーシップ契約を締結。domvanalimabについてはオプション権を供与しています。
米メルクは、抗PD-1抗体「キイトルーダ」(ペムブロリズマブ)との併用で、非小細胞肺がんと悪性黒色腫を対象にP2試験を行っています。21年前半には非小細胞肺がんでP3試験に入る予定です。
アステラスは開発中止
日本企業では、中外製薬がtiragolumabを開発しているほか、小野薬品工業が米ブリストル・マイヤーズスクイブと共同で「ONO-4686/BMS-986207」を開発中。抗PD-1抗体「オプジーボ」(ニボルマブ)との併用でP1/2試験を実施しています。
がん免疫療法に注力するアステラス製薬も、18年に買収した米ポテンザから同社の抗TIGIT抗体「ASP8374/PTZ-201」を獲得し、P1試験を進めていましたが、2020年4~9月期の決算で開発を中止したことを明らかにしました。中止の理由は「初期試験で、事前に設定した奏効率のハードルをクリアできなかった」(安川健司社長)ためといい、同社は減損損失として305億円を計上しています。
中国企業で開発が活発
P1段階では、中国ベイジーンや英Mereoバイオファーマ、米コンピュジェンなどが開発中。Mereoが開発するetigilimabは、19年に統合した米OncoMedファーマシューティカルズが創製したものです。
ベイジーンは自社の抗PD-1抗体tislelizumab(中国で19年に承認)との併用療法で「BGB-A1217」を開発しています。中国企業としては、イノベント・バイオロジクスも今年5月に中国で臨床試験を始めました。単剤と、米イーライリリーと共同開発した抗PD-1抗体sintilimab(中国で19年承認)との併用療法とを評価します。
前臨床段階でも、Junshi BioscienceやHenlius、Stainwei Biotechといった中国企業が目立つほか、米エイジナスが21年までの臨床試験入りを目指して開発中。同社はTIGITをターゲットとする治療薬として、抗体の「AGEN1327」とバイスペシフィック抗体の「AGEN1777」をパイプラインに持っています。
(亀田真由)
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