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ニュース解説

新型コロナウイルス 新薬開発に打撃…治験の新規患者登録 世界で75%減少

新型コロナウイルスの感染拡大で、新薬開発が大きな打撃を受けています。医療機関の負担や感染拡大への影響などを考慮し、製薬企業は新たな臨床試験の立ち上げや新規の患者登録を中断。臨床試験への新規登録患者数は大幅に減少しています。

 

試験立ち上げ休止、患者登録を中断

アステラス製薬は3月31日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴う臨床試験への対応に関する声明を発表し、感染者が急増している国で新たな介入臨床試験の立ち上げを一時中止すると明らかにしました。実施中の臨床試験についても、新規の患者登録を一時中断。一方、感染者の増加が急激でない国では、試験を再開または継続しているといいます。

 

COVID-19の蔓延で医療機関には大きな負荷がかかっています。移動の制限によって被験者が医療機関を訪問するのが難しくなっている国もあり、そうでなかったとしても、訪問によって感染を拡大させたり、被験者が感染のリスクにさらされたりする可能性があります。こうした背景から、国内外の製薬企業ではアステラスと同様の動きが広がっています。

 

【COVID-19に伴う製薬企業の臨床試験への対応】(※日付は発表日): <武田薬品工業>COVID-19を対象に開発中の血漿分画製剤を除き、新たな試験の開始を休止。進行中の試験では、新たな施設の組み入れや新規患者登録を中断(3月25日)| <アステラス製薬>感染者が急速に増加している国では、新たな介入試験立ち上げのための活動を一時中止。実施中の臨床試験では新規の患者登録を一時中断。感染者の増加が急激でない国では、試験を再開または継続(3月31日)| <第一三共>地域の状況によって新規患者登録を一時中断。治験自体は中断しておらず、一部地域では中断後に新規患者登録を再開(3月27日)| <米ブリストル>計画通り継続している試験もあるが、一部の試験は状況を鑑みて一時的に中止または延期(4月7日)| <米イーライリリー>新たな試験の開始を延期し、進行中のほとんどの試験で患者登録を一時停止。すでに登録されている患者を対象とした進行中の試験は継続(3月23日)| ※各社の発表をもとに作成

 

武田薬品工業も3月25日、COVID-19の治療薬として開発している血漿分画製剤を除き、新たな臨床試験の開始を休止し、進行中の試験も一部を除いて治験実施施設の組み入れや患者登録を中断していると表明。第一三共は4月27日の決算説明会で「一部の地域で施設の立ち上げや追加などに影響が出たり、患者登録に影響が出たりしているものの、全体としては大きな影響なく試験を継続している」と明かしました。

 

海外の大手では、米ブリストル・マイヤーズスクイブや米イーライリリーなどが、新たな試験の開始を延期したり、進行中の試験への患者登録を中断したりしていることを明らかにしています。

 

米アヴェオ・オンコロジーは「医療現場がCOVID-19対策にシフトする中、治験薬の使用期限内に試験を完了させられるか不透明」として、再発・難治性の急性骨髄性白血病を対象とした抗HGF抗体ficlatuzumabの臨床第2相(P2)試験を中止すると発表。同試験は患者登録を開始しておらず、アヴェオのマイケル・ベイリーCEO(最高経営責任者)は「難しい決断だったが、パンデミックへの影響を考慮すると必要なことだ」とコメントしました。

 

日本は57%減少

米メディデータが世界4600試験・18万2227施設を分析したところ、4月前半の新規患者登録数は前年の同じ時期に比べて75%減少。65%減だった3月よりも減少幅は大きくなっており、同社は「パンデミックが患者登録に与える影響が拡大し続けていることを明確に示している」としています。

 

国別に見てみると、英国(98%減)、インド(96%減)、スペイン(81%減)、米国(80%減)、フランス(同)などで減少幅が大きく、いずれも3月から10ポイント以上拡大。日本も57%減で3月から13ポイント拡大している一方、中国と韓国、イタリアでは3月に比べて減少率が縮小しています。

 

【【国別】臨床試験の新規患者登録数(前年同期比)】(3月/4月前半): <世界>▲ 65/▲ 75 |<中>▲ 68/▲ 39 |<印>▲ 84/▲ 96 |<日>▲ 44/▲ 57 |<韓>▲ 61/▲ 44 |<仏>▲ 68/▲ 80 |<独>▲ 33/▲ 76 |<伊>▲ 53/▲ 37 |<スペイン>▲ 68/▲ 81 |<英>▲ 80/▲ 98 |<米>▲ 66/▲ 80 |※米メディデータ「COVID 19 and Clinical Trials: The Medidata Perspective Release 3.0」をもとに作成」

 

疾患領域別では、心血管(95%減)、皮膚(90%減)、内分泌(89%減)、呼吸器(78%減)で減少幅が大きく、中枢神経(73%減)、感染症(62%減)、がん(51%減)は全体の減少率を下回っています。

 

【【領域別】臨床試験の新規患者登録数(前年同期比)】(3月/4月前半): <全体>▲ 65/▲ 75 |<心血管>▲ 69/▲ 95 |<中枢神経>▲ 68/▲ 73 |<皮膚>▲ 64/▲ 90 |<内分泌>▲ 81/▲ 89 |<感染症>▲ 47/▲ 62 |<がん>▲ 48/▲ 51 |<呼吸器>▲ 34/▲ 78 |※米メディデータ「COVID 19 and Clinical Trials: The Medidata Perspective Release 3.0」をもとに作成」

 

メディデータは、進行中の試験で被験者1人あたりの来院回数がどう変化しているかも調べており、米国では昨年10月と今年3月の比較で来院回数が17%減少。中国では昨年10月と今年2月の比較で30%減少したものの、2月から3月にかけては22%増加しており、一部の国では改善の傾向も見られています。

 

長期化に懸念

各国の規制当局はCOVID-19の影響を受ける臨床試験について、ガイダンスを公表するなどしてその実施をサポートしています。

 

日本では、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が▽患者が来院できない場合の治験薬の配送▽患者が来院できずオンサイトモニタリングができない場合の対応▽患者が治験実施医療機関に来院できない場合の近隣医療機関での検査や投薬の実施▽治験実施計画書からの逸脱が発生した場合の対応――など、寄せられた質問への回答をQ&Aにまとめ、随時更新。COVID-19の影響で治験実施計画書の規定や通常の手順と異なる対応を取らざるを得ない場合は、被験者の安全確保を最優先した上で、経緯と対応を記録に残してその妥当性を説明できるようにしておくことを求めています。

 

COVID-19による停滞は、臨床試験の「バーチャル化」を促す可能性があります。メディデータは「治験施設にアクセスできないということは、遠隔地からの代替的なアプローチが必要であることを意味している。試験を安全にバーチャル化できれば、成功裏に進められる可能性が高くなる」と指摘。武田は、治験薬を直接患者に届けたり、中断の可能性を考慮して試験デザインを再設計したりしており、遠隔モニタリングができるよう、デジタル技術の評価・構築にも取り組んでいるとしています。

 

一方で、懸念されるのが影響の長期化です。武田が「これ(新規患者登録の中断など)は短期的な措置であり、COVID-19の感染状況が世界で沈静化した時点で、できるだけ早くすべての活動を再開する予定」としているように、各社は収束後早期の正常化を目指していますが、ウイルスとの戦いは長期戦も予想されます。治験の停滞が続けば新薬の発売時期が遅れ、将来の業績に影を落とす可能性もあり、各社は状況を注視しています。

 

(前田雄樹)

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