片頭痛の予防薬として期待される、CGRPを標的とした新薬の開発が日本でも大詰めを迎えています。日本イーライリリーが1月に抗CGRP抗体galcanezumabを申請したのに続き、大塚製薬も同フレマネズマブを年内に申請する予定。海外ではすでに予防と治療の両方で販売されているCGRPを標的とする薬剤が、日本でも数年遅れで登場することになります。
国内では4品目が開発中
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は、片頭痛の発作に関与するとされる神経ペプチド。光や音、匂いといった外部からの刺激によって三叉神経(脳神経の1つ)から放出され、CGRP受容体に結合すると血管を拡張させて炎症を引き起こします。
現在、国内では片頭痛の予防を対象にCGRPを標的とした4つの新薬が開発中。日本イーライリリーの抗CGRP抗体galcanezumab(開発コード・LY2951742)は今年1月に申請を済ませ、大塚製薬はイスラエル・テバから導入した同フレマネズマブ(TEV-48125)を今年申請する予定です。アムジェンの抗CGRP受容体抗体erenumab(AMG 334)も臨床第3相(P3)試験の段階にあり、アラガン・ジャパンは経口薬となるCGRP受容体拮抗薬atogepantのP3試験を行っています。
片頭痛の国内の患者数は約840万。女性の有病率は男性の約3.8倍で、最も高い30歳代女性では約20%に達すると言われています。国内では現在、予防薬としてβ遮断薬プロプラノロールや抗てんかん薬バルプロ酸ナトリウムなど、急性期の治療薬としてトリプタン系薬剤などが使われていますが、効果を得られない患者も少なくありません。
日本頭痛学会が2005年にまとめた「京都頭痛宣言」では、片頭痛による生産性の低下が日本にもたらす経済的損失は年間2880億円に上ると試算。効果の高い新たな治療選択肢が求められています。
米国では4製品がすでに承認
CGRPを標的とする片頭痛予防薬の開発は海外が先行しており、米国ではすでに4つの薬剤が承認されています。
先駆けとなったのは米アムジェンとスイス・ノバルティスが共同開発したerenumabで、米国では「Aimovig」の製品名で18年5月に承認。その後、イスラエル・テバの「Ajovy」(フレマネズマブ)、米イーライリリーの「Emgality」(galcanezumab)、デンマーク・ルンドベックの「Vyepti」(eptinezumab)が20年2月までに相次いで米国で承認を取得しました。Vyeptiを除く3つの薬剤は欧州でもすでに販売されています。
Aimovigは19年に世界で4億900万ドル(約442億円)を販売。Emgalityは群発性頭痛の適応でも承認され、市場シェアを高めています。これら2剤は特に大型化が見込まれており、ブロックバスターとなる可能性があります。
4品目の中で唯一の静注剤であるVyeptiは、19年10月に買収した米アルダー・バイオファーマシューティカルズの開発品。ルンドベックは同薬を欧州でも20年中に申請する予定で、その後、日本や中国でも開発を進めるとしています。
急性期治療のCGRP受容体拮抗薬も登場
海外では予防薬だけでなく、経口のCGRP受容体拮抗薬などが急性期治療薬として開発されています。アイルランド・アラガンの「Ubrelvy」(ubrogepant)は昨年12月、米バイオヘブンの「Nurtec」(rimegepant)は今年2月に米国で承認を取得。CGRP受容体拮抗薬以外にも、米国では今年1月、セロトニン受容体に作用する米イーライリリーの「Reyvow」(lasmiditan)が発売されました。
Nurtecは予防の適応でもP3試験を実施中。予防薬として承認を取得したVyeptiも急性期での承認を目指しています。米国の臨床現場ではこれら2剤への注目が高まっているといい、米クラリベイト・アナリティクスはNurtecの年間売上高が24年までに10億ドルに達するとみています。
一方、国内では急性期治療薬の開発は低調。lasmiditanがP3試験の段階にありますが、CGRP受容体拮抗薬の開発は今のところ行われていません。
予防と治療の両面からのアプローチが重要な片頭痛治療。予防薬のみならず、日本でも急性期治療薬の早期開発が望まれます。未治療患者の多い疾患ではあるものの、啓発の動きも出てきており、市場は大きな転換点を迎えそうです。
(亀田真由)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】