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2020年、米国のヘルスケア市場を展望するための10のポイント|DRG海外レポート

更新日

米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は、2020年の米国のヘルスケア市場を展望するための10のポイントを紹介します。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

※※※

 

米国では昨年、医療保険各社が規模拡大に向けたコラボレーションの土台を築いた。今年はそれを縦の連携と利益の創出へと移していく年になるだろう。そうした中で、「患者アウトカム」「バリューベースのケア」「患者体験価値」は引き続き注目を集める。一方、立法者にとっては医療コストの増大が焦点となる。医療提供者も透明性を求められるようになる。

 

医療分野は利害関係者の力関係の影響を大きく受けるが、大統領選を控え、その複雑さは増しそうだ。米国市場のトレンドから、2020年に注目すべき10のポイントをまとめた。

 

(1)市場の一本化と統合

米国のヘルスケア業界では、この2年間で勢力図を書き換えるほどの垂直統合や大規模合併があった。こうした動きが続けば、最近誕生したCSV-エトナのような巨大事業体に拮抗する勢力が出てくるかもしれない。

 

センテネとウェルケアの合併は今年締結される見通しで、これによってメディケイドの市場は一変する。プロバイダーの側ではより小規模で迅速な統合が求められるが、ペイヤー側は患者アウトカムと患者体験価値の向上を目指し、大規模な垂直統合を模索する可能性が高い。ヒューマナによるエンクララ買収の意向が明らかとなり、ユナイテッドヘルスによるディプロマット・スペシャリティ・ファーマシーの買収計画が発表されたことで、垂直統合がさらに増えるという見方は強まったと言える。

 

 

(2)メディケア・アドバンテージの拡大

高齢者の増加に伴い、メディケア・アドバンテージの拡大が見込まれる。この市場の収益はなお大きく、ユナイテッドヘルスやヒューマナはシェアを伸ばして自社の福利厚生を充実させるだろう。

 

メディケア・アドバンテージプランの約47%は2020年にゼロドル・プレミアムプラン(加算なしのプラン)となる一方、約90%には処方箋薬の給付を提供する。つまり高齢者にとっては、給付の選択肢が増え、より安いプランを選べるようになる。ユナイテッドヘルスとヒューマナは米国の全郡の半数以上でプランを提供し、リードするだろう。オスカーやトロイといった新規参入の会社は、保険適用を広げるとみられる。

 

(3)バリューベースドケアやパーソナライズドケアに焦点

高額な遺伝子治療やスペシャリティ医薬品の市場投入と平行して、保険会社はサブスクリプション型支払いモデルをはじめとする画期的な償還戦略を加速させるだろう。バリューベースあるいはリスクベースの支払い協定に参加するプロバイダーは増え続け、アカウンタブルケア組織や患者中心のメディカルホーム、リテールクリニックを多く抱えるようになる。

 

CVSヘルスは、2021年末までにコンセプトストア「HealthHUB」を1500店舗オープンする計画をすでに立てており、新たに数万人が消費者向け保健サービスを体験できるようになる見込みだ。CSV-エトナは、プレシジョン・メディシンに焦点を当てた「トランスフォーム・オンコロジー・ケア」という保険会社向けプログラムにも着手している。規制当局の医師決定や患者アウトカムの改善に向け、リアルワールドエビデンスの利用拡大も期待される。

 

(4)揺さぶりをかける小売り

テクノロジー大手(アマゾン、グーグル、アップル、マイクロソフト)が医療に進出することで、小売りとテクノロジー、そして医療が交差する領域は一層の広がりを見せる。アマゾンはすでにピルパックを買収し、ヘブン(バークシャー・ハサウェイ、JPモルガン・チェースとの合弁会社)を立ち上げ、アマゾン・ケアの提供を始め、医療市場に深く浸透している。

 

ウォルマートもコスト削減のためにプロバイダーとバリューベースで直接契約しており、ジョージア州に新たなクリニックを開業した。アップルとグーグルは、デジタル化を通じて医薬品配送のプラットフォームを高度化するための大型投資を推進している。これらを追随する企業にも注目すべきだろう。

 

 

(5)デジタルヘルスへの投資

拡張現実(AR)や人工知能(AI)の開発の進展に伴い、デジタルヘルスの市場は2025年までに78億3000万ドルに達すると予測される。関係者はデジタルヘルス企業の実力を認めて変化を受け入れ、機械学習やAIに投資するだろう。

 

エクスプレス・スクリプツは慢性疾患用デジタルヘルス製品の厳選リストを策定した。これは「デジタル・フォーミュラリー」とも呼ばれている。デジタルセラピューティクスのパイプラインが拡充するにつれ、こうした製品・サービスの提供を充実させるヘルスケア企業が増えるだろう。

 

(6)遠隔医療の台頭

一部の市場ではプライマリケアの提供者が慢性的に不足しており、慢性疾患の管理コストは上昇する一方だ。こうした背景の下、利便性の高い治療選択肢として遠隔医療の利用が広がっている。メディケアは遠隔医療へのアクセスを援助する方向に舵を切り、保険業者は法律によって遠隔医療やバーチャル診療の保障が奨励されている。結果、遠隔医療はさらに大きな影響力を持つようになるだろう。

 

(7)健康の社会的決定要因

健康の社会的決定要因(SDoH)は、総合的な健康管理によるコストマネジメントを追求する保険会社にとって一般的なテーマになりつつある。昨年はこのコンセプトが再燃した年であり、全国レベルあるいは地域レベルの主要な保険会社の多くが、将来に向けて取り組みの基盤を整えた。SDoHにフォーカスした保険会社の取り組みとしては、アンセムの「Take Action for Health」やヒューマナの「Bold Goal initiative」、カイザーパーマネンテの「Total Health」などがある。

 

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(8)スペシャリティ医薬品への支出

バイオシミラーの参入があるとはいえ、スペシャリティ医薬品が薬剤支出を押し上げる状況は、この先数年は続くだろう。今年はさらに、30の医薬品メーカーが450あまりのブランド薬の値上げを予定している。

 

こうした状況で、CAR-T細胞療法や遺伝子治療薬としった新たな治療法がスムーズに市場参入するには、保険会社と医薬品メーカーによる革新的な取り組みが求められる。「ラクスターナ」「ゾルゲンスマ」に対してシグナとエクスプレス・スクリプツが提供する「Embarc Benefit Protection」はその一例だ。こうした新たな戦略は、保険会社が細胞・遺伝子治療のコスト管理に目を向けるにつれ、普及していくだろう。

 

 

(9)医療政策

2020年、米国で最もホットな話題は大統領選で、今回も医療は有権者にとって大きなテーマとなる。「Medicare for All」(全国民を対象とする無料の公的健康保険制度)のような単一の保険者プランが議論される一方、コスト効率の高い策として、公的保険の選択肢を追加することでAffordable Care Act(ACA=医療費負担適正化法)を充実させるなどの選択肢も検討されている。

 

各州は薬剤価格の引き下げを模索し、医薬品輸入法案には弾みがつくだろう。ともかく、今年は連邦レベルの大きな政策転換は期待できない。

 

(10)ACAは不透明

昨年12月、連邦控訴裁判所がACAへの強制加入は違憲と判断したことで、同法の先行きは不透明となった。一方、保険料がほぼ安定した状態は2年目に入り、市場は正常に戻りつつある。

 

2020年の平均的なベンチマークプランの保険料は19年より3%低下しており、短期プランの導入と強制加入違憲の判断は、リスクプールに影響していないと考えられる。

 

(原文公開日:2020年1月15日)

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ日本支店
齋藤(コマーシャルエクセレンス ディレクター)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
Tel:03-6625-5257(代表)

 

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