ゲームに保険、医療機器、IT…。製薬企業が新規事業を模索する中、異色のコラボレーションが広がっています。
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ゲームで服薬や運動を支援
東和薬品は1月21日、バンダイナムコグループのバンダイナムコ研究所と、服薬支援ツールの共同開発に関する基本合意を結んだと発表しました。今回の提携では、東和がツールの立案を行い、バンナムがコンテンツやソフトウェアを開発。ゲームの手法を取り入れ、アドヒアランスの向上と残薬の解消を目指すといいます。
東和は2018~20年の中期経営計画で、健康関連の新規事業創出を基本方針の1つに掲げており、18年10月にソフトウェア開発のTISと合弁会社「Tスクエアソリューションズ」を設立。19年9月には同社を通じて、話し手の声を聞き取りやすい音質に変換する難聴者向け支援機器の販売を開始するなど、ヘルスケア領域の課題解決を目指したソリューションやサービスを展開しています。バンナムとの提携でも、Tスクエアソリューションズが服薬情報を管理するプラットフォームの構築や服薬支援ツールを使ったサービスの企画を担うことになっています。
ゲームの要素をゲーム以外のサービスやシステムに応用する「ゲーミフィケーション」は近年、ヘルスケア領域でも注目が高まっています。アステラス製薬も18年、バンダイナムコエンターテインメントと提携し、運動を支援するスマートフォン向けアプリの共同開発に着手。同社Rx+事業創成部の金山基浩ビジネスプロデューサーは「ヘルスケアアプリは継続性が課題。ゲームの手法を取り入れることで、運動継続の心理的な壁を解決したい」と話します。
新規事業を模索
製薬業界では昨今、新規事業の創出を目指して異業種と協業する動きが活発化しています。薬価引き下げの圧力が世界的に高まる中、製薬各社は医薬品に次ぐ第2の柱を模索。ゲーム以外にも、保険、医療機器、ITといった分野と手を結ぶケースが増えています。
20年度までの中期経営計画で「Rx+への挑戦」を戦略目標の1つに掲げるアステラスは、医療用医薬品ビジネスの経験に異分野の技術を融合させることで新たな製品やサービスの創出を目指しています。バンナムとの提携を通じた運動支援アプリの開発もその一環。ほかにも、米アイオタ・バイオサイエンシズと埋め込み型医療機器の開発で、米ウェルドックと糖尿病治療用アプリ「ブルースター」をはじめとするデジタルセラピューティクスの開発・商業化で提携しています。
エーザイは、セント・プラス少額短期保険と認知症診断一時金保険「認知症のささえ」を共同開発し、18年2月に販売を開始。昨年9月には東京海上日動火災保険と業務提携を結び、▽認知症の疾患啓発▽認知機能セルフチェックを日常的に行うための環境整備▽保険商品の普及策の検討――などに取り組むと発表しました。エーザイはAIを活用した認知機能検査を数年以内に実用化する方針で、内藤晴夫代表執行役CEOは「保険財政は緊縮以外なく、その中だけでは安定した成長はない」と言います。
ヘルスケア、新ビジネス続々
医療機器の分野に進出する企業も目立ちます。
22年度までの中期経営計画で「フロンティア事業」の立ち上げを目指している大日本住友製薬は、デジタルヘルスケアテクノロジー企業のAikomiと、認知症に伴う行動・心理症状を緩和する医療機器を共同で研究。ロボットを自分の体のように動かすサイボーグ技術の実用化を目指すメルティンMMIにも出資し、同技術を利用した医療機器の共同研究開発契約も結んでいます。大日本住友は23年度から始まる次の中期経営計画で、フロンティア事業を成長エンジンとして確立させたい考えです。
塩野義製薬は、患者ののどの画像をAIが解析し、インフルエンザを診断する機器を開発しているアイリスと資本業務提携。米アキリ・インタラクティブからはADHD(注意欠陥/多動性障害)や自閉スペクトラム症に対する治療用アプリを導入し、開発を進めています。
米IQVIAは、19~23年の日本の医薬品市場の年平均成長率をマイナス3%~0%と予測。21年度からは薬価の毎年改定が始まるなど医薬品ビジネスをめぐる環境は厳しさを増す一方、周辺のヘルスケア領域では新たなビジネスが次々と立ち上がっています。新規事業のタネや新たな提携相手を求めてアクセラレータープログラムを行う製薬企業も増えており、医薬品の枠を超えた協業は今後も増えていきそうです。
(前田雄樹)