2019年12月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大をまとめました。
【新薬】乳がん治療薬Enhertuや尿路上皮がん治療薬Padcevなど
「Vyondys53」米サレプタ
アンチセンス核酸医薬の「Vyondys53」(一般名・golodirsen)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを対象に承認を取得。ジストロフィン遺伝子のエクソン53を標的とするエクソンスキッピング療法です。サレプタにとっては、エクソン51をスキップするExondys51(eteplirsen)に続く2つ目のアンチセンスになります。
「Arazlo」カナダ・バウシュ
尋常性ざ瘡(にきび)治療薬のtazaroteneは、新たにローション剤「Arazlo」が承認されました。従来の製剤は皮膚刺激が強く、治療を中断する患者が多いことが課題でした。ローション剤は保湿剤を含有しており、忍容性が高まると期待されています。
「Padcev」アステラス製薬
抗ネクチン-4抗体薬物複合体(ADC)「Padcev」(enfortumab vedotin)は、局所進行・転移性尿路上皮がんの適応で承認。白金製剤や免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1/PD-L1抗体)による治療歴のある尿路上皮がんの治療薬は米国初といいます。米シアトルジェネティクスと共同開発しており、日本では臨床第3相(P3)試験を行っています。
「Conjupri」中国CSPC
高血圧症治療薬「Conjupri」(levamlodipine)は長時間作用型のカルシウムチャネル拮抗薬アムロジピンの鏡像異性体のひとつ。中国では「Xuanning」の製品名で2003年から販売しており、米国での承認を機に世界各国への展開を狙います。
「Caplyta」米イントラ・セルラー
「Caplyta」(lumateperone)は統合失調症の適応で承認されました。米ブリストル・マイヤーズスクイブが創製した薬剤で、イントラ・セルラーが2005年に導入。双極性うつやアルツハイマー病を含む認知症患者の行動障害、うつ病を対象とした臨床試験も行っています。
「Ervebo」米メルク
「Ervebo」(ebola zaire vaccine)は米国初のエボラウイルス感染症ワクチン。コンゴ民主共和国でのエボラ出血熱の流行でも治験ワクチンとして使用され、WHOの要請に基いてこれまでに27万5000本を出荷しました。欧州でも19年11月に承認を取得しており、20年7~9月をめどに認可用量の製造を始められるよう準備を進めています。
「TissueBlue」オランダDORC
眼科手術補助薬「TissueBlue」(brilliant blue)は、内境界膜剥離を対象に承認されました。同薬はデ・ウエスタン・セラピテクス研究所が産学連携機構九州から導入したもので、日本以外の全世界の権利をDutch Ophthalmic Research Center International(オランダ)にサブライセンスしています。欧州ではすでに販売されており、米国では20年4月ごろの発売を予定。日本では導出先のわかもと製薬が内境界膜染色・白内障手術を対象に開発を進めています。
「Dayvigo」エーザイ
不眠症治療薬「Dayvigo」(lemborexant)が承認を取得しました。適応は「入眠困難、睡眠維持困難のいずれかまたはその両方を伴う成人の不眠症」。同薬はオレキシン受容体拮抗薬で、約2000人を対象とした臨床試験では入眠と睡眠維持の両方を改善しました。日本でも近く承認される見通しです。
「Enhertu」第一三共
抗HER2ADC「Enhertu」(trastuzumab deruxtecan)は、HER2陽性の手術不能・転移性乳がんの適応で承認されました。転移性乳がんに対する治療として2つ以上の抗HER2療法を受けた患者が対象。承認は条件付きで、迅速審査によって今年10月の申請受理からわずか2カ月ほどでの承認となりました。日本でも申請中です。
「Ubrelvy」アイルランド・アラガン
「Ubrelvy」(ubrogepant)は、片頭痛の急性期治療を対象に承認されました。同薬は経口カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬。アラガンはUbrelvyのほか、低分子のCGRP受容体拮抗薬atogepantを片頭痛予防の適応で開発しています。
【適応拡大】Vascepaの心血管リスク低減やLynparzaの転移性膵がんなど
「Tecentriq」米ジェネンテック
免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-L1抗体「Tecentriq」(atezolizumab)は、転移性の非扁平上皮非小細胞肺がんを対象に、アブラキサンとカルボプラチンとの3剤併用療法への適応拡大が承認されました。EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子が陽性でない患者が対象です。
「Xeljanz」米ファイザー
JAK阻害薬「Xeljanz」(tofacitinib)は、1日1回投与の徐放製剤が、中等度から重度の潰瘍性大腸炎への適応拡大の承認を取得。対象はTNF阻害薬の使用が適さない患者で、バイオ製剤やアザチオプリン・シクロスポリンなどの免疫抑制剤と併用します。これまで徐放製剤は関節リウマチと乾癬性関節炎のみでしたが、今回の適応拡大によって錠剤と同じ適応になりました。
「Vascepa」アイルランド・アマリン
高純度EPA製剤「Vascepa」(icosapent Ethyl)は、新たに高トリグリセリド血症患者の心血管リスク低減で承認。心血管疾患か糖尿病に罹患している高リスク患者が対象で、スタチンに上乗せして使用します。
「Xtandi」アステラス製薬
前立腺がん治療薬「Xtandi」(enzalutamide)は、転移性去勢感受性前立腺がんへの適応拡大が承認されました。同薬は去勢抵抗性前立腺がん治療薬として世界各国で承認されており、転移性去勢感受性前立腺がんの適応では日本と欧州でも適応拡大を申請しています。
「Lynparza」英アストラゼネカ
PARP阻害薬「Lynparza」(olaparib)は、新たにBRCA遺伝子変異陽性の転移性膵がんの維持療法として承認されました。承認のもととなった臨床試験では、プラセボと比べて疾患の進行・死亡リスクを47%低減。日本では現在、前立腺がんや乳がん(術後補助療法)などでP3試験を行っています。
【バイオシミラー】アムジェンのinfliximab
「Avsola」米アムジェン
抗TNFα抗体「Avsola」は、infliximab(先行品は米ヤンセンの「Remicade」)のバイオシミラーとして承認されました。適応は▽関節リウマチ▽クローン病▽潰瘍性大腸炎▽尋常性乾癬▽乾癬性関節炎▽強直性脊椎炎――で、先行品と同じ。アムジェン米国で承認を取得したバイオシミラーはAvsolaが4剤目です。
(亀田真由)