改正医薬品医療機器等法(薬機法)が成立しました。一部を除き、公布から1年以内に施行されます。改正法のポイントをまとめました。
INDEX
来年秋ごろに施行
医薬品医療機器等法(薬機法)の改正は、それまでの薬事法から名称が変わった2014年以来。このときの改正では、再生医療等製品の特性に合わせた規制が設けられたほか、最新の知見に基づく添付文書を国に届け出る制度(添付文書の届出制)が導入。一般用医薬品(OTC)のインターネット販売も解禁されました。
今回の改正は、▽「先駆け審査指定制度」「条件付き早期承認制度」の法制化▽虚偽・誇大広告によって医薬品を販売した企業に課徴金を科す制度の創設▽医薬品の安全対策を監視する第三者組織(医薬品等行政評価・監視委員会)の設置――などが柱。
施行の時期は項目によって「公布から1年以内」「2年以内」「3年以内」とされており、1年以内の施行が定められている先駆け審査指定制度・条件付き早期承認制度の法制化や医薬品等行政評価・監視委員会の設置は、来年秋ごろに施行となる見通しです。
「先駆け」「早期承認」法制化 「特定用途医薬品」審査で優遇
現在、厚生労働省の通知に基づいて運用されている「先駆け審査指定制度」と「条件付き早期承認制度」を法律に基づく制度とします。加えて、小児向けの用法・用量の開発が必要な医薬品などを「特定用途医薬品」に指定し、臨床試験の資金を助成したり、優先審査の対象にしたりして開発を促進する制度を創設します。
先駆け審査指定制度は、世界に先駆けて日本で申請しようとする画期的新薬を承認審査で優遇する制度。医薬品医療機器総合機構(PMDA)が申請資料を事前に評価することで実質的に審査を前倒しし、通常12カ月かかる審査を半分の6カ月に短縮します。
先駆け審査指定制度は2015年4月から運用されており、これまでに抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ」(塩野義製薬)や抗がん剤「ゾスパタ」(アステラス製薬)、同「ロズリートレク」(中外製薬)などがこの制度の下で承認を取得しています。
条件付き早期承認制度は、重篤で有効な治療法がないうえ、患者数が少ないなどの理由で検証的臨床試験(一般的には臨床第3相〈P3〉試験)を行うのが難しい疾患が対象。検証的試験以外の試験で有効性・安全性がある程度示されれば、発売後に有効性・安全性をあらためて確認することを条件に、検証的試験を行わなくても承認する制度です。
14年の薬事法改正で再生医療等製品を対象に条件・期限付き早期承認制度が導入されており、医薬品については17年10月に厚労省の通知で運用がスタート。これまで、抗がん剤「ローブレナ」(ファイザー)や同「キイトルーダ」(MSD)に適用されました。
新たに設けられる特定用途医薬品は、▽その用途が特定の区分に属する疾患の治療薬である▽その用途に使用する医薬品に対するニーズが著しく充足されていない▽その用途に関して特に優れた使用価値がある――ものが対象。小児向けの用法・用量の開発などが想定されており、指定されると優先審査が適用されます。対象患者数が少ない場合は、希少疾病用医薬品と同じように、国が研究開発に必要な資金を助成するとともに、税制上の措置が講じられます。
虚偽・誇大広告 売上高の4.5%の課徴金
虚偽・誇大広告によって医薬品を販売した製薬企業などに課徴金を科す制度を創設します。ARB「ディオバン」(ノバルティスファーマ)の臨床研究データ改ざん事件などを受けたもので、虚偽・誇大広告を抑止し、規制の実行性を確保するのが狙いです。
薬機法は66条で「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器または再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果または性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽または誇大な記事を広告し、記述し、または流布してはならない」などと虚偽・誇大広告を禁じています。しかし、同条に違反した場合の罰金は法人・個人ともに200万円以下となっており、違反によって得られる経済的利得に対して少なすぎると指摘されていました。
新たに設ける課徴金制度では、虚偽・誇大広告を行った製薬企業などに対し、違反行為を行った期間を対象に、該当する製品の売上高の4.5%を課徴金として徴収。自主的に違反を申告した場合は課徴金を半分に減額するほか、業務改善命令や業務停止命令を行った場合は課徴金の納付を命じないこともあります。
課徴金制度の創設とともに法令違反の防止策として改正法に盛り込まれたのが、製造販売業者や製造業者の法令順守体制の整備です。薬事に関する業務に責任を負う役員を法律で定めるとともに、業者には
▽従業員に対して法令順守のための指針を示すこと
▽法令遵守のための体制を整備すること
▽法令順守に必要な能力と経験を持つ総括製造販売責任者(総責=品質管理や製造販売後の安全管理に総括的な責任を負う人)・製造管理責任者などを選任すること
▽総責・製造管理責任者の意見を尊重し、法令順守のための措置を講じること
――を義務付けます。
あわせて、総責の要件を法制化。従来は薬剤師を充てることとされていますが、会社に対して意見を述べるなどの役割と責任を果たせる立場(職位)の薬剤師がいない場合は、薬剤師でなくても総責になれるようにします。
今回の改正では、法令違反を行った業者に役員の変更を命じることができるとする規定は見送られましたが、改正案を審議した衆参の厚生労働委員会では検討を求める付帯決議が採択されており、次回の改正に向けて検討が続くことになります。
薬害防止の第三者組織 提言から10年でようやく実現
薬害を防止するために、医薬品行政を監視する第三者組織「医薬品等行政評価・監視委員会」を設置します。
委員会は厚労省の審議会として設置され、厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)が行う医薬品・医療機器などの安全対策を評価・監視。それに基づいて厚生労働大臣に意見を述べたり、勧告を行ったりします。
独立性を確保するため、医薬品行政を所管する厚生労働省医薬・生活衛生局ではなく、同省全体の政策を総括する大臣官房に事務局を置く方向。委員の数は10人以内とされ、薬害被害者や医師、薬剤師などの専門家が想定されています。
薬害防止のための第三者組織は、2008年の薬害肝炎訴訟原告団・弁護団と厚生労働大臣の合意をもとに、厚労省の専門家委員会が10年4月に設置を提言しましたが、原告団・弁護団と組織のあり方や機能について折り合わず、14年の前回改正には盛り込まれませんでした。評価・監視委員会の設置規定は公布1年以内に施行されることになっており、提言から10年でようやく実現することになります。
添付文書は電子化 バーコード表示を義務付け
現在は製品に紙で同梱されている医薬品の添付文書は、原則として電子的な方法で提供することになります。添付文書の改訂は頻繁に行われており、常に最新のものにアクセスできるようにするのが狙いです。製薬企業などは、添付文書をウェブサイトなどで公表するとともに、それにアクセスできるQRコードなどを包装に記載することが求められます。
トレーサビリティの確保を目的に、医薬品の包装にバーコードを表示することも義務化され、在庫管理の効率化や取り違え防止などでの活用が期待されます。
改正法ではこのほか、製造方法の変更計画について事前に厚生労働大臣の確認を受けた場合、実際の変更は届け出によって行えるようにします。さらに、国際的な規制の整合性を確保するため、GMP適合性調査やQMS適合性調査も見直します。
(前田雄樹)