欧米の大手製薬会社の中国ビジネスが好調です。各社が発表した2019年第3四半期決算によると、米メルクは中国の売上高が前年同期に比べて84%増加。米ファイザーも42%の売り上げ増で、35%の増収となった英アストラゼネカは売上高に占める中国の割合が2割を超えました。所得水準の上昇や慢性疾患の増加を背景に、循環器系疾患やがんの新薬が売り上げを伸ばしています。
ファイザー42%増、アストラゼネカ35%増
欧米の大手製薬会社が発表した2019年第3四半期決算は、中国市場の重要性をあらためて印象付けるものとなりました。
米メルクは、19年7~9月の中国の売上高が8億9800万ドル(約970億円)に達し、前年同期に比べて84%増加。四半期ベースで日本(8億9400万ドル)を初めて逆転しました。1~9月の累計で見ると、1年前に8億ドルほどあった日本と中国の差は2億ドルまで詰まっています。
米ファイザーも新薬部門の19年7~9月の中国売上高が42%増加。英アストラゼネカは同じ時期に中国で12億8300万ドル(約1386億円)を売り上げ、為替の影響を除くと40%の増収となりました。同社の中国売上高は1~9月の累計で36億9100万ドル(3986億円)となり、日本(18億3000万ドル)の2倍に達しています。
スイス・ノバルティスも20%台後半の成長で、仏サノフィも前年同期比14%増の7億4400万ユーロ(約893億円)を売り上げました。
事業全体に対する存在感も増しており、メルクの売上高全体に占める中国の割合は前年同期の5%から8%に拡大。アストラゼネカは売上高の21%を中国が占めており、その割合は前年同期から3ポイント上昇しました。
新薬が牽引
米調査会社IQVIAによると、18年の中国の医薬品市場は1323億ドル(約14.3兆円)で米国に次いで世界2位。14~18年の5年間の年平均成長率は7.6%で、米国を上回る成長を遂げています。市場拡大の要因は、経済成長による所得水準の向上と、循環器系疾患や糖尿病、がんといった慢性疾患の増加。各社の業績も、比較的価格の高い新薬が牽引しています。
メルクは中国でヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン「ガーダシル」「ガーダシル9」や、免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」などのがん治療薬が好調。キイトルーダは今年10月、非小細胞肺がんの1次治療として単剤療法の承認を取得しており、さらなる販売拡大に弾みがつきそうです。
ファイザーは19年7~9月期の新薬部門の売上高が、特許切れ薬部門(アップジョン事業部門)を上回りました。ノバルティスは、日本でまだ承認されていない心不全治療薬「エントレスト」や加齢黄斑変性治療薬「ルセンティス」、乾癬治療薬「コセンティクス」などが成長ドライバー。アストラゼネカは、がん領域や循環器・腎・代謝領域の製品が牽引しています。
アムジェン ベイジーンに2900億円出資
IQVIAによると、中国の医薬品市場は2023年に1400~1700億ドルに達する見通し。19~23年の年平均成長率は3~6%と予測され、米国やドイツ、ブラジルなどとともに高い成長が見込まれています。ちなみに、同じ期間の日本市場の年平均成長率はマイナス3%~0%で、先進国ではフランスと日本だけがマイナス成長を予想されています。
高成長が期待されるだけに、中国への投資も活発化しています。
米アムジェンは10月31日、中国の「百済神州(ベイジーン)」と戦略的提携を結び、27億ドル(約2900億円)を出資すると発表しました。ベイジーンは提携を通じて、いずれもアムジェンが開発した▽がん骨転移治療薬「エクスジバ」(日本製品名・ランマーク)▽多発性骨髄腫治療薬「カイプロリス」▽白血病治療薬「ビーリンサイト」――を中国で開発・商業化。アムジェンがパイプラインに持つほかの抗がん剤の開発でも協力します。
バイオスタートアップひしめく
ベイジーンは抗がん剤の開発を手掛ける2010年設立のバイオテクノロジー企業で、今年11月には中国企業として初めて米国で抗がん剤(BTK阻害薬ザヌブルチニブ)の承認を取得しました。中国は近年、急速に医薬品の研究開発力をつけており、上海を中心にバイオ系のスタートアップが乱立。人や資金が集まっています。
ここ数年、中国政府が進めている薬事規制の改革も追い風です。治験がしやすくなり、承認審査も迅速化されているほか、国家医療保険償還医薬品リストへの収載機会の拡大を進めており、新薬へのアクセスも向上しつつあります。ノバルティスは「中国は非常に重要な機会」(ヴァサント・ナラシンハンCEO)とし、23年までに50の新薬承認申請を行う方針です。
日本企業では、アステラス製薬が20年代後半に2000億円規模(19年度は625億円を計画)の売り上げを目指して中国への取り組みを強化。エーザイは、中国で患者数の多い肝細胞がんへの適応拡大が承認された抗がん剤「レンビマ」を中心に、中国ビジネスの拡大を狙います。
欧米のメガファーマと日本企業、さらには地元の中国企業も加わり、巨大市場めぐって激しい競争を繰り広げることになりそうです。
(前田雄樹)