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CAR-T細胞療法 固形がんへの展開…武田 年内に治験開始、小野も参入へ

更新日

ノバルティスの「キムリア」が保険適用され、日本でも実臨床での使用が可能になったCAR-T細胞療法。血液がんを中心に開発が進められてきましたが、固形がんへの展開を目指す動きが活発化しています。武田薬品工業はバイオベンチャーから次世代型CAR-T細胞療法を導入し、年内に臨床試験を始める予定。小野薬品工業も海外企業と提携し、研究開発に乗り出しました。

 

固形がんには高いハードル

CAR-T細胞療法は、患者から採取したT細胞に遺伝子改変を行い、がん細胞表面の抗原を特異的に認識するキメラ抗原受容体(CAR)を発現させた上で、再び患者の体内に戻す治療法。免疫チェックポイント阻害薬に続くがん免疫療法として期待されています。

 

現在、国内外で承認されているCAR-Tは、「キムリア」(スイス・ノバルティス)と「イエスカルタ」(米ギリアド・サイエンシズ、日本は未承認)の2製品。いずれも、B細胞性の血液がんで多く見られる抗原のCD19を標的としたもので、白血病やリンパ腫が対象です。

 

抗原選択や送達に課題

血液がんには高い効果を発揮するCAR-Tですが、がんの9割を占める固形がんでは、まだ目立った成果を出せていません。その背景には、

 

▽適切な抗原が見つかっていない(血液がんのCD19のように、単一で優れた標的分子が固形がんには存在しない)

 

▽CAR-Tを固形がん局所に送り届けるのが難しい(血液がんなら静脈内投与したCAR-Tと腫瘍細胞が血管内でコンタクトできるが、固形がんの場合はCAR-Tが血管の外に出て、腫瘍組織の内部に浸潤・集積しなければ効果が出ない)

 

といった課題があり、CAR-Tを固形がんに展開するには、まだまだ高いハードルがあります。世界で行われているCAR-Tの臨床試験を見ても、全体の3分の2は血液がんが対象。臨床第2相(P2)試験以降に限ると、固形がんはわずか1試験にとどまります。

 

CAR-T細胞療法の臨床試験の実施状況の表。【血液がん】P1:110・P1/2:81・P2:17・P2/3:3・P3:2・合計:213。【固形がん】P1:61・P1/2:32・P2:1・P2/3:0・P3:0・合計:94。【合計】P1:171・P1/2:113・P2:18・P2/3:3・P3:2・合計:307。

 

武田「Prime CAR-T」2品目導入

こうした課題を克服しようと、国内外のアカデミアや製薬会社によってさまざまなアプローチが検討されています。

 

例えば、標的抗原については、複数の異なる抗原を認識するCARなどが開発されていますし、送達性の問題に対しては、ケモカイン受容体を共発現させることでCAR-Tをがん局所に集積させる手法や、がん局所に直接注入する手法などが試みられています。

 

国内では、山口大大学院医学系研究科免疫学講座の玉田耕治教授らの研究グループが、固形がんへの効果が期待されるCAR-Tプラットフォーム「Prime CAR-T」を開発。武田薬品工業は今年1月、同大発のバイオベンチャー「ノイルイミューン・バイオテック」から、Prime CAR-Tを活用した2つのCAR-Tを導入しました。武田はこのうちの1つについて、年内に臨床第1相(P1)試験を開始する予定です。

 

サイトカインとケモカインを同時に産生

Prime CAR-Tは、IL-7とCCL19というサイトカインとケモカインを同時に産生する能力を付与したCAR-T。IL-7はT細胞の生存や増殖を、CCL19はT細胞や樹状細胞の遊走を刺激することが知られており、これらはリンパ節で免疫細胞が集積した構造を形成するのに中心的な役割を果たしています。

 

Prime CAR-Tのコンセプトは、IL-7とCCL19の働きによって、リンパ節と同じような状態を腫瘍内部に作り出すこと。そうすることで、CAR-Tだけでなく、患者自身の免疫細胞も腫瘍内部に呼び寄せ、固形がんに対して高い効果を発揮すると期待されています。

 

武田はさらに、米メモリアルスローンケタリングがんセンターと、多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病、固形がんに対する新規CAR-Tの共同研究を開始。今後も、外部提携を通じ、がんに対する細胞療法のパイプラインを拡充する方針です。

 

小野は海外2社と提携、タカラバイオも開発計画

 

固形がん対象のCAR-T細胞療法への日本企業の取り組みの一覧。【武田薬品工業】・ノイルイミューン・バイオテックから「NIB-102」「NIB-103」を導入。NIB-102は年内にP1試験を開始予定。・米メモリアルスローンケタリングがんセンターと、多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病、固形がんに対するCAR-T細胞療法の共同研究。【ノイルイミューン・バイオテック】・独自のプラットフォーム技術「Prime CAR-T」を活用し、固形がんに対するCAR-T細胞療法を開発。研究~前臨床のパイプラインに6品目あり、うち2品目を武田に導出.【小野薬品工業】・ベルギーのセリアドから、固形がんへの効果が期待される他家CAR-T細胞NKR-2を導入。・米フェイト・セラピューティクスと2つのiPS細胞由来他家CAR-T細胞療法の創薬提携。うち1つは固形がんが対象。【タカラバイオ】・固形がんに発現する「がん胎児性抗原」を標的とした新規CAR-T細胞療法の開発を計画。

 

一方、小野薬品工業は、海外企業2社と提携し、他家CAR-Tの研究開発に乗り出しています。2016年7月には、ベルギーのセリアドから他家CAR-T「NKR-2」の日本・韓国・台湾での独占的開発・商業化権を獲得。18年9月には、米フェイト・セラピューティクスとiPS細胞由来他家CAR-Tの創製を目的とする提携を結びました。

 

セリアドから導入したNKR-2は、抗原結合部位の代わりにナチュラルキラー細胞活性化受容体の1つであるNKG2Dを使ったもの。▽固形がん、血液がんを問わず大部分のがん細胞に発言する8種類のリガンドに結合する▽リガンドを発現した腫瘍組織中の血管も標的にできる――といった特徴があり、固形がんへ効果も期待されています。

 

フェイトとの提携では、2つの標的に対するiPS細胞由来他家CAR-Tの創製を目指しており、このうち1つは固形がんが対象。小野は全世界での独占的開発・商業化権を保有します。

 

日本企業ではこのほか、タカラバイオが固形がんに発現する「がん胎児性抗原」を標的とする新たなCAR-Tの開発を計画しています。同社はCD19をターゲットとするCAR-T「TBI-1501」を開発しており、現在、急性リンパ芽球性白血病を対象にP1/2試験を実施中。今年4月には、カナダの研究団体から、T細胞の生存期間を延ばすための機能を導入したCAR遺伝子技術の独占的実施権を獲得しています。

 

メソテリンやClaudin18.2が標的に

今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)でも、固形がんを対象としたCAR-Tの臨床試験結果がいくつか発表されました。

 

メモリアルスローンケタリングがんセンターは、多くの固形がんで発現するメソテリンを標的としたCAR-TのP1試験結果を発表しました。メソテリンを発現している悪性胸膜中皮腫患者18人、肺がん患者1人、乳がん患者1人に胸膜内投与を行ったところ、悪性胸膜中皮腫で抗PD-1抗体「キイトルーダ」による追加治療を受けた14人のうち、2人が完全奏功(CR)、5人が部分奏功(PR)となり、4人が安定(SD)。メソテリンが標的として有望であることが示唆されるとともに、抗PD-1抗体との併用が固形がんに対するアプローチとして期待できることが示唆されました。

 

一方、中国のバイオベンチャーCarsgen Therapeuticsが発表した、Claudin18.2を標的とするCAR-TのP1試験結果によると、Claudin18.2を発現している胃がんと膵がんの患者11人のうち、1人がCR(胃がん患者)、3人がPR(胃がん患者2人と膵がん患者1人)、5人がSDとなりました。

 

CAR-Tを固形がんに展開するために越えるべきハードルは低くはありませんが、課題は明らかになりつつあり、それを解決するための技術や手法が世界中で研究・開発されています。血液がんで顕著な効果を示すだけに、固形がんへの適応拡大に対する期待は高く、研究成果の臨床応用が待たれます。

 

(前田雄樹)

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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