最大7600億円――。がん事業の確立を目指す第一三共が、期待の新薬「DS-8201」で英アストラゼネカと大型提携を結びました。ピーク時に予測される世界売上高は年間70億ドルとも言われる同薬。がん領域に強いアストラゼネカと組むことで、開発を加速し、製品価値の最大化を図ります。
大型提携 3つの意義
第一三共は3月29日、開発中の抗HER2抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(一般名、開発コードは「DS-8201」)について、英アストラゼネカとグローバルな開発・販売提携を結んだと発表しました。第一三共が提携の対価として受け取る金銭は、契約一時金1485億円(13.5億ドル)を含め、最大で総額7590億円(69億ドル)。この日、第一三共の株価は前日から一気に16%も跳ね上がり、時価総額でアステラス製薬を抜きました。
トラスツズマブ デルクステカンは、抗HER2抗体トラスツズマブに、ペイロードとして新規のDNAトポイソメラーゼI阻害薬を結合させた、第一三共創製のADC。抗体とペイロードをつなぐリンカーの安定性が高いこと、従来のADCに比べて多くの薬剤を結合できること、搭載しているペイロードも強力であること、などが特徴で、第一三共はがん事業の柱と位置づけています。
同薬は現在、▽乳がん▽胃がん▽大腸がん▽非小細胞肺がん――を対象に臨床試験を実施中。まずは2019年度前半に、米国で「T-DM1(ロシュの抗HER2抗体カドサイラ)による治療歴のあるHER2陽性の再発・転移性乳がん」を対象に承認申請を行う予定です。
第一三共は「がんに強みを持つ先進的グローバル製薬企業」をビジョンに掲げ、がん事業の立ち上げに取り組んでいる真っ最中。同社の中山譲治会長兼CEOは発表当日に開かれた説明会で、今回の提携は「がん事業を大きく成長させる上で最初の大きな弾みになる」とし、その意義を▽DS-8201の開発・商業化の加速▽がん事業の体制構築▽ほかのADC開発プロジェクトへの資源配分の拡大――と説明しました。
ピーク時売上高は70億ドルとも
今回の提携で両社は、HER2発現がんを対象にトラスツズマブ デルクステカンの単剤療法・併用療法を共同開発し、日本を除く全世界で共同販促を展開。開発・販売にかかる費用や利益は両社で折半します。売り上げは、日米欧などでは第一三共が、中国・オーストラリア・カナダ・ロシアなどその他の国ではアストラゼネカが計上。日本では第一三共が単独で販売し、アストラゼネカにロイヤリティを支払います。
提携のインパクトは相当なものです。第一三共は説明会で「あくまでイメージ」としながらも、自社単独で開発・販売した場合に比べ売り上げが2倍になるかのようにも読める図を示しました。トラスツズマブ デルクステカンは超大型薬になるとみられており、ピーク時の世界売上高を年間70億ドル(7700億円)と予想する証券会社もあるほど。がん領域に強いアストラゼネカと組むことにより、市場浸透を加速させるとともに、対象となるがん種や適応症を広げ、売り上げの最大化を狙います。
提携の効果はトラスツズマブ デルクステカン以外の開発品にも及びます。第一三共は現在、同薬以外に6つのADCを開発していますが、これまでは「迷ったら『がん』、迷ったら『DS-8201』」(中山会長CEO)と、最も有望視されるトラスツズマブ デルクステカンに経営資源を集中させてきました。今回の提携によって生まれる人的・資金的リソースを振り向けることで、ほかのADCプロジェクトの開発も加速させます。
ADCフランチャイズをベースにがん事業の拡大を目指す第一三共にとっては、DS-8201単体の収益拡大よりも、こちらのほうが提携の意義としては大きいかもしれません。
中山会長CEOは「できるだけパートナーと組んで早く(開発を)進めるのが大原則」と話しており、トラスツズマブ デルクステカン以外のADCでも提携を視野に入れています。HER3を標的とする「U3-1402」(乳がんと非小細胞肺がんを対象に開発中)など、がん種的にアストラゼネカとシナジーを発揮できそうな品目もありますが、中山氏は「今回の提携はDS-8201だけ。それ以外の製品に対する約束はない」と話しました。
「新しい方向が固まりつつある」
第一三共はいまの中期経営計画で、がん事業の売上高を2025年度に5000億円まで引き上げることを目標に掲げています。提携により計画は大きく上振れする可能性があり、同社は中計を見直す方針です。
アストラゼネカとの提携発表と同じ日、第一三共からは眞鍋淳社長にCEOが交代することも発表されました。
「かなり急激に会社の体質を変え、ここにきて非常に幸運なことに内部から素晴らしい可能性のあるものが出てきて、それを評価してくれる会社が現れ、一緒にやっていこうということになった。新しい方向が固まりつつあり、次にバトンを渡すいいタイミングだと思う」
インド・ランバクシー買収を通じた新薬と後発医薬品の「ハイブリッド・ビジネス」から、がん領域へと大きく舵を切った中山会長はこう振り返り、後に続く眞鍋社長は「実感として『がんに強みを持つ先進的グローバル製薬企業』という2025年ビジョン(の達成)は見えてきた。自信を持ってそこに進んでいく」と述べました。
長年の研究で培った独自技術でメガファーマを引き寄せた第一三共。大型提携とCEO交代で、がん事業の立ち上げはいよいよ最終段階に入ります。
(前田雄樹)
製薬業界 企業研究 |
[PR]【がん・バイオのMR求人増加中】希望の求人お知らせサービス<MR BiZ>