米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は、10月に開かれたESMO(欧州臨床腫瘍学会)から、乳がん領域で注目された2つの臨床試験を取り上げます。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
テセントリクとアルペリシブに注目
ドイツ・ミュンヘンで開かれた欧州臨床腫瘍学会(ESMO2018)には、がん領域における最新の知見を得ようと、130あまりの国々から2万8000人が参加した。Decision Resources Groupの専門家も現地で取材し、開発の最新動向を探った。
この記事では、乳がんの治療を一変させ得る2つの臨床第3相(P3)試験にフォーカスし、ESMO2018で初めて発表されたデータをもとに報告する。取り上げるのは、ロシュの免疫チェックポイント阻害薬「テセントリク」の「IMpassion130」試験と、ノバルティスのPI3Kα阻害薬アルペリシブの「SOLAR-1」試験だ。
トリプルネガティブ乳がんを対象にテセントリク+アブラキサンを評価したIMpassion130試験
IMpassion130試験は、転移性のトリプルネガティブ乳がんのファーストライン治療における免疫療法のベネフィットを検証した最初のP3試験だ。
トリプルネガティブ乳がんは、ほかの乳がんと比べて予後不良で、OS(全生存期間)の中央値は推定で18カ月を下回る。転移性の患者には、今なお化学療法レジメンが中心だ。
PD-L1阻害薬であるテセントリクは、膀胱がんと非小細胞肺がんの適応で承認されており、乳がんを含むほかの複数のがんでも有望視されている。転移性トリプルネガティブ乳がん患者を対象に行われたテセントリク単剤のP1b試験では、PD-L1陽性/陰性いずれの腫瘍にも活性を認め、テセントリクとアブラキサン(パクリタキセル)を併用した別のP1b試験では、化学療法との併用でも効果を示すことが実証された。
こうした結果を受けて計画されたIMpassion130試験は、局所進行または転移性のトリプルネガティブ乳がんに対するファーストライン治療として、テセントリクとアブラキサンの併用療法を評価したものだ。この画期的な臨床試験の最初の主要な結果が、ESMO2018のプレデンシャルシンポジウムで発表され、同時にNew England Journal of Medicineにも掲載された。
PFSを有意に延長 PD-L1陽性患者ではOSも延長
IMpassion130試験の注目ポイントは以下の通り。
【IMpassion130試験のポイント】 ・PFS(無増悪生存期間)の最終解析で、テセントリク+アブラキサンは、アブラキサン単剤よりも有意な改善を示し、PD-L1陽性患者のPFS(中央値2.5カ月)は患者全体(1.7カ月)よりも長かった。
・サブグループ解析では、検証したサブグループすべてでPFSのベネフィットは一貫していたが、PD-L1の発現に関しては明らかな例外があり、PD-L1陰性患者ではベネフィットが認められなかった(HR[ハザード比]:0.95)。
・今回の中間解析時点では、ITT(Intent to treat)解析集団でOSが3.7カ月改善していたが、統計学的な有意差は認められなかった。一方、PD-L1陽性患者で臨床的に重要な9.5カ月の改善を示したことは重要だ(HR:0.62)。ただ、今回のこの集団でのOSの解析は検証的な位置付けではない(階層構造に基づいて統計解析を行う試験デザインのため)。 |
乳がんにも免疫療法の時代
OSのデータは未熟ではあるものの(中間解析までに発生した死亡イベントは59%)、結果は素晴らしいものであり、乳がん領域もついに免疫療法の時代を迎えたと言えるだろう。
転移性トリプルネガティブ乳がんでは、PD-L1の発現の有無を確認することが改善に有用だろう。ファーストラインとしての免疫療法と科学療法の併用が、患者にベネフィットをもたらす可能性がある。
これらのデータは、HER2陽性乳がんで強固な基盤を持つロシュにとって非常に重要で、トリプルネガティブの領域に手を広げる上でカギとなるだろう。
HR陽性/HER2陰性乳がんを対象にアルペリシブ+フェソロデックスを評価したSOLAR-1試験
SOLAR-1試験は、転移性のホルモン受容体(HR)陽性/HER2陰性乳がんに対するPI3K阻害薬のベネフィットを実証した最初のP3試験だ。
ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)経路はがんで変化することが多く、これが活性化すると、内分泌とHER2を標的とする薬剤への耐性ができることがわかっている。
PI3Kの触媒サブユニットのアイソフォームは、特徴によってα、β、γ、δの4つに分類されており、αアイソフォームはPIK3CAでコードされる。HR陽性/HER2陰性乳がん患者では36%にPIK3CA遺伝子変異があるとされ、PI3Kはターゲットとして期待されている。
アルペリシブはPI3Kのαアイソフォームの経口阻害薬だ。SOLAR-1の目的は、アロマターゼ阻害薬による治療後に再発または進行したHR陽性/HER2陰性乳がん患者を対象に、アルペリシブ+フェソロデックス(フルベストラント)の併用療法を評価すること。ノバルティスは今年8月、この試験で主要エンドポイントを達成したと発表している。
PFSを2倍に延長 CDK4/6阻害薬による前治療の有無にかかわらず効果
SOLAR-1試験の注目ポイントは以下の通り。
【SOLAR-1試験のポイント】 ・結果は有望で、アルペリシブ+フェソロデックスによってPFS中央値はほぼ2倍に延長(5.3カ月の改善)。PIK3CA遺伝子変異のある患者では、変異のエクソンとサブタイプが異なってもPFSは一貫して改善していました。
・サブグループ解析で、CDK4/6阻害薬による治療の有無にかかわらず、PIK3CA遺伝子変異のある患者にPFSベネフィットが認められると示唆された点は重要だ。ただし、SOLAR-1試験に登録されたPIK3CA遺伝子変異の患者の94%は、CDK4/6阻害薬による治療を受けていない。
・PIK3CA遺伝子変異のない患者では、PFSベネフィットの兆候は認められなかった。このことから、PIK3CA遺伝子変異がアルペリシブによる治療効果を予測するバイオマーカーとなる可能性が示唆された。 |
治療アルゴリズムでの位置付けは
アルペリシブは、PIK3CA遺伝子変異のある転移性HR陽性/HER2陰性乳がん患者で、臨床的に重要なPFS改善が初めて認められたPI3Kα阻害剤となった。
かつてロシュは、PI3K阻害薬taselisibのP3試験「SANDPIPER」で、PIK3CA遺伝子変異のある患者でPFSを2.0カ月延長したものの、消化器系の毒性が多く見られたことから申請を断念した。
ノバルティスの別のPI3K阻害薬buparlisibとフェソロデックスの併用は、前治療歴のある転移性HR陽性/HER2陰性乳がんを対象に行われた2つのP3試験でPFSを延長した。しかし、安全性のプロファイルは不良で、投与中止がしばしば発生した。
アルペリシブが承認されれば、日常診療で患者のPIK3CA遺伝子変異を検査することが必要になる。最大の疑問は、転移性HR陽性/HER2陰性患者の治療アルゴリズムにアルペリシブをどう位置付けるか、という点にあります。
実際、現行のアルゴリズムにはCDK4/6阻害薬が標準治療として定着している。SOLAR-1試験でCDK4/6阻害薬による前治療を受けた患者がごくわずかだったことを考えると、現段階でアルペリシブに最も適したポジションを判断するのは難しいと言える。
(原文公開日:2018年10月30日)
【AnswersNews編集長の目】今回は、10月に開かれたESMOから、テセントリクのトリプルネガティブ乳がんを対象としたP3試験と、アルペリシブのHR陽性/HER2陰性乳がんを対象としたP3試験の結果をご紹介しました。
免疫チェックポイント阻害薬で乳がんを対象に日本で開発を行っているのは、テセントリクとキイトルーダ(MSD)。中外製薬の決算資料によると、テセントリクは「乳がん」「早期乳がん」でP3試験を実施中。キイトルーダもP3試験の段階にあります。オプジーボ(小野薬品工業)は、提携先のブリストル・マイヤーズスクイブが欧米でP1/2試験を実施中ですが、日本では開発されていません。
一方、アルペリシブは日本でもP3試験を実施中。スイス・ノバルティスは「今年中の申請に向け順調に準備が進んでいる」としています。
ここ最近、新薬が相次いで登場している乳がん。日本では昨年12月にファイザーがCDK4/6阻害薬イブランス(パルボシクリブ)を発売。7月にはアストラゼネカのリムパーザ(オラパリブ)がBRCA遺伝子変異陽性・HER2陰性乳がんへの適応拡大の承認を取得しました。さらに9月には、イブランスに続くCDK4/6阻害薬として日本イーライリリーのベージニオ(アベマシクリブ)が承認。同薬は今月にも発売される見通しです。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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斎藤(カスタマー・エクスペリエンス・マネージャー)
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