第一三共が、がん領域への投資を急速に拡大させています。向こう5年間で研究開発投資を2000億円増やし、上積み分はがん領域に集中させる計画。独自技術に自信を持つ抗体薬物複合体(ADC)を軸に、2025年度にはがん領域の売り上げを5000億円まで引き上げたい考えです。
今が投資のチャンス
「今がまさに、将来大きなリターンが期待できる有望な投資のチャンスだと判断した」。第一三共の眞鍋淳社長は10月31日、2018年4~9月期決算説明会で、がん領域への投資をさらに加速させる考えを強調しました。
第一三共はこの日、16~20年度の中期経営計画を見直すと発表。米国疼痛事業の頓挫や国内の事業環境悪化により、従来の計画で20年度の目標として掲げていた売上高1兆1000億円・営業利益1650億円の達成は困難と判断。従来計画の達成時期を2年先送りし、20年度は売上高9600億円・営業利益800億円を目指します。
研究開発投資 5年で2000億円をがんに上積み
目標数値の見直しとともに第一三共が明らかにしたのが、がん領域へのさらなる投資の拡大です。
第一三共は「2025年ビジョン」として「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」を掲げており、従来の中期経営計画でもがん領域に経営資源を集中的に投資する方針を示していました。見直し後の計画では、向こう5年間の研究開発投資を従来の9000億円から1兆1000億円に増やし、上積みした2000億円はがん領域に追加で投資。従来から計画していた9000億円もがんへの配分を増やす方針で、事業開発への投資枠として用意する5000億円もがん事業の強化に最大限活用します。
投資の加速によって将来のがん事業の売上高は大きく伸びる見通し。従来の計画では20年度に400億円、25年度に3000億円を目標としていましたが、見直し後は22年度に1500億円、25年度に5000億円を計画。当面は研究開発投資が利益を圧迫しますが、「当初の利益目標にこだわらず、がん事業への投資を拡大することで将来の成長を加速させていく」(眞鍋社長)考えです。
ADCに優先投資
がん領域でも特に優先的に投資するのが抗体薬物複合体(ADC)です。ADCは抗体に殺細胞性の抗がん剤を結合させたもので、第一三共は独自技術に自信を持っています。現在、同社が開発するADCは7品目。うち3品目が臨床試験に入っています。
最も開発が進んでいるのが、HER2をターゲットとする「DS-8201」(一般名・トラスツズマブ デルクステカン)。乳がんや胃がん、大腸がん、非小細胞肺がんなどで開発後期段階に入っています。欧米では免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(製品名・オプジーボ)との併用試験が進むほか、今年9月には同ペムブロリズマブ(キイトルーダ)との併用で米メルクと、10月には同アベルマブ(バベンチオ)との併用で独メルク・米ファイザーと、それぞれ提携を結びました。
DS-8201は申請前倒しも検討
第一三共はDS-8201について、乳がんと胃がんで20年度の申請を予定していますが、開発が順調に進んでおり、申請を19年度に前倒しすることも検討しています。同剤は胃がんの適応で「先駆け審査指定制度」の対象に指定されており、乳がんでは米国でブレークスルーセラピー(画期的治療薬)に指定されています。
開発と並行してADCの生産体制も拡充します。17年には150億円を投じて国内3工場にADCの生産ラインを増設すると発表。今回の中計見直しでは、さらなる生産能力の拡大に向け、22年度までの5年間で250億円以上の設備投資を行う方針を示しました。
販売体制の強化急ぐ
ADC以外でがん事業の柱として掲げるのは、「AML(急性骨髄性白血病)」と「ブレークスルーサイエンス(革新的科学技術)」。AMLではFLT3阻害薬キザルチニブが日本で申請中。米国でも段階的に申請を開始しており、欧州でも今年度中に申請する予定です。
ブレークスルーサイエンスでは、CSF-1R/KIT/FLT3阻害薬ペキシダルチニブを今年度中に米国で申請予定。米カイトから導入したCAR-T細胞療法アキシカブタジン シロルーセル(通称・Aix-Cel、海外製品名・イエスカルタ)は近く臨床第2相(P2)試験を始める予定です。
第一三共は、こうした品目も含め、25年度までにがん領域で7つの新薬投入を目指しています。キザルチニブやペキシダルチニブの発売が見えてきたことで、今後は営業体制の強化も急ぐ方針です。眞鍋社長は「日本では強い営業力を持っているので、それをどうがん領域にシフトしていくか議論している。海外でも主要な人材を採用しながら、MRやMSLを増やそうとしている」と話しています。
製薬業界 企業研究 |
[PR]【がん・バイオのMR求人増加中】希望の求人お知らせサービス<MR BiZ>