アステラス製薬が、バンダイナムコエンターテインメントと組んで健康支援アプリを開発すると発表しました。デジタル技術の活用により薬にとらわれないソリューションの提供を目指す動きが製薬各社の間で広がる中、こうした提携は今後、増えていきそうです。
アステラス「Rx+」を戦略に
アステラス製薬は10月23日、バンダイナムコエンターテインメントと健康支援アプリの共同開発契約を結んだと発表しました。
両社が共同開発するのは、生活習慣病の予防や治療で運動が必要な人を支援するアプリ。厚生労働省の2016年国民健康・栄養調査によると、メタボリックシンドロームが強く疑われるのは成人の約17%、糖尿病が強く疑われる人は約1000万人に上ると推計されています。
ゲーム性で継続しやすく
両社は、こうした生活習慣病予備軍の人らを対象に、科学的根拠のある運動プログラムを、ゲーム性も取り入れて継続しやすいアプリの形で提供することを目指します。開発するアプリは、Moffが開発したウェアラブル端末と連動させて使うことを想定。アステラスが運動プログラムを立案し、バンダイナムコはアプリ内のコンテンツとソフトウェアを開発します。
アステラスは18年度から3カ年の中期経営計画で、「Rx+プログラム」への挑戦を戦略目標の1つに掲げています。Rx(医療用医薬品)で培った強みを異分野の技術・知見と融合させることで、新たなヘルスケアソリューションを創出することを目指しており、バンダイナムコとのアプリ開発もこの一環です。
進む治療用アプリの開発
製薬会社とゲーム会社。一見すると異色のコラボのようですが、海外では製薬企業とテクノロジー企業が組んで治療用アプリやソフトウェアの開発が進んでいます。
米アキリ・インタラクティブ・ラボはADHD(注意欠陥・多動症)の治療用ゲームソフト「AKL-T01」を米FDA(食品医薬品局)に承認申請中。昨年12月に結果発表された、小児ADHD患者を対象としたピボタル試験では、AKL-T01でゲームをした群はそうでない群に比べ、症状の評価スコアを統計学的に有意に改善しました。
アキリはアプリの開発で米ファイザーと提携。ADHDのほかにも、自閉症スペクトラム障害や大うつ病、多発性硬化症といった精神神経疾患向けに治療用ソフトを開発しています。
依存症治療アプリ 米国で承認
米ピア・セラピューティクスも、アプリを使った治療法を開発する企業の1つ。同社は昨年、アルコールや薬物による依存症患者向けの治療用アプリ「reSET」の承認を米FDA(食品医薬品局)から取得。米国で社会問題となっているオピオイド中毒を対象としたアプリも申請中です。
ピアはこれら2つのアプリで後発医薬品大手のサンドと提携。統合失調症と多発性硬化症を対象としたアプリでの開発では、スイス・ノバルティスと協力しています。
ヘルスケアアプリ 世界に31万超
国内では、キュアアップが禁煙と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を対象とする治療用アプリの臨床試験を行っているほか、高血圧治療アプリを自治医科大と共同開発し、臨床試験を始めました。サスメドは不眠症治療用アプリを開発中です。
製薬会社は、新薬開発が難しくなっているという大きな課題に直面しています。開発費用は高騰する一方、医療費抑制の面から薬価への引き下げ圧力は強まるばかり。一方、テクノロジーは大きく進歩しており、これまで薬が中心的な役割を果たしてきた「治療」の領域にまで進出しようとしています。
医療費削減にも期待
米IQVIAによると、2013年に世界で6万6713種類だったデジタルヘルスアプリは、17年に31万8572種類まで増加。米国では16年時点で219種類のデジタルヘルスアプリが薬事承認を取得しています。アプリは医薬品に比べて開発コストが格段に低いこともあり、IQVIAはデジタルヘルスアプリの使用による医療費削減効果を、米国で約460億ドル(約5兆1520億円)、英国で約20億ポンド(約2920億円)、日本でも約3390億円に上ると試算しています。
薬だけではできなかった価値提供につながる可能性を持つデジタル技術の活用により、製薬会社は新たなビジネスの創出を期待します。製薬会社が薬という枠を超えようとする中、アステラスとバンダイナムコのような業種を超えた協業は今後増えていきそうです。
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