近年、ヘルスケア領域で取り組みを強める富士フイルムが、医薬品事業の強化に乗り出しています。10月1日、子会社2社を統合して「富士フイルム富山化学」を設立した一方、来年3月には後発医薬品を扱う富士フイルムファーマを解散。後発品事業からは撤退し、「がん」「中枢神経疾患」「感染症」の3領域で新薬開発を加速させます。
大正製薬HDとの資本・業務提携を解消
富士フイルムホールディングスは10月1日、傘下で低分子医薬品を開発する富山化学工業と、放射性医薬品を展開する富士フイルムRIファーマを統合し、「富士フイルム富山化学」を設立しました。新会社は富士フイルムの100%子会社で、富士フイルムグループの医薬品事業の中核を担います。
富士フイルムHDは新会社発足に先立つ今年7月、大正製薬HDから同社が保有する富山化学の全株式(34%)を取得して完全子会社化する一方、富山化学が持っていた医薬品販売会社・大正富山医薬品の全株式(45%)を大正製薬HDに売却。10月には同HDの業務提携解消も発表し、大正富山が販売する富山化学製品は来年4月以降、富士フイルム富山化学が販売することになりました。
富士フイルムが医薬品事業に本格参入したのは、富山化学工業を買収した2008年。同時に大正製薬と資本・業務提携を結び、以来、提携も軸に医薬品事業を展開してきました。
今回、10年間に及んだ資本・業務提携を解消したのは、新薬開発を加速させるためです。富士フイルムは2010年から傘下で後発医薬品事業を手がけてきた富士フイルムファーマを来年3月末で解散。新薬開発に注力する体制を整えます。
アルツハイマー薬や抗がん剤が開発後期に
富士フイルムは新会社を中心に「がん」「中枢神経疾患」「感染症」の3領域で新たな診断薬・治療薬の開発を目指します。
もともと富山化学が強みとしていた感染症領域では、14年3月に新規作用機序を持つ「アビガン」(一般名・ファビピラビル)が、新型・再興インフルエンザ向けに日本で承認。米国でも臨床第3相(P3)試験を行っているほか、マダニが媒介するウイルス感染症「重症熱性血小板減少症候群」を対象に日本でP3試験を行っています。
がん領域では、前立腺がんを対象にペプチドワクチン「ITK-1」(ブライトパス・バイオから導入)がP3試験段階。富士フイルムが自社創製品として初めて臨床試験をスタートさせた骨髄異形成症候群治療薬「FF-10501」は米国でP2試験、日本でP1試験が進行中です。昨年は急性骨髄性白血病治療薬のFLT3阻害薬「FF-10101」、今年は抗がん剤ゲムシタビンを内包したリポソーム製剤「FF-10832」と、相次いで米国で臨床試験に入っています。
パイプラインは充実してきていますが、開発は決して順風満帆ではありません。
アルツハイマー型認知症治療薬として開発中の「T-817MA」は、軽度から中等度のアルツハイマー病を対象に行った米国P2試験で、主要評価項目と副次評価項目のいずれも達成できなかったと昨年7月に発表。富士フイルムは一部の患者では効果が認められたとして、米FDA(食品医薬品局)と協議の上でP3試験を含むさらなる開発を進めていくとしていますが、その後、表立った動きは見られません。
がんペプチドワクチンITK-1も今年5月、国内P3試験で主要評価項目の全生存期間を統計学的に有意に延長できなかったと発表しました。
ヘルスケア事業拡大へ積極買収
富士フイルムHDは、医薬を含むヘルスケア事業を将来の柱の1つと位置付けています。
再生医療を中心に積極的なM&Aで事業拡大を急いでおり、バイオ医薬品の開発・製造受託では生産設備の拡大も急ピッチで進みます。2012年に協和発酵キリンとの折半出資で設立したバイオシミラー事業会社・協和キリン富士フイルムバイオロジクスは今年9月、欧州で抗TNFα抗体アダリムマブ(先行品名・ヒュミラ)の承認を取得。蒔いた種は一部で花開きつつあります。
富士フイルムHDのヘルスケア事業の売上高は4430億円(17年度)。同社は現行の中期経営計画で、これを19年度に5000億円まで引き上げることを目指しています。
富士フイルムは、診断薬との組み合わせにより臨床開発を効率化し、新薬発売の確度とスピードを向上させたい考え。富士フイルムの医療機器なども活用することで、診断から治療までカバーする事業展開を拡大させるとしています。
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