米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は、6月に開かれた欧州リウマチ学会(EULAR)のハイライトをお届けします。主なテーマとなったのは、JAK阻害薬とバイオシミラーでした。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
ゼルヤンツ vs. オルミエント
オランダ・アムステルダムで4日間にわたって行われた欧州リウマチ学会(EULAR)年次総会。2017年に始まった「Don’t Delay, Connect Today」キャンペーンは2年目に入り、医師だけでなくコメディカルや患者団体も交えて活発な議論が行われた。
この記事では、今年のEULARを通じて議論された2つの主な話題、すなわちJAK阻害薬とバイオシミラーに関するカンファレンスを取り上げたいと思う。
JAK阻害薬 リウマチ管理のマイルストン
JAK阻害薬は、関節リウマチの領域ではもはや新しい薬とは言えない。ファイザーの「ゼルヤンツ」が米国で発売されたのはもう6年近く前。ところが、欧州ではイーライリリーの「オルミエント」の発売からまだ1年しかたっていない(保険者との交渉で発売が遅れた国ではさらに短い)。
EULARでは多くのキーオピニオンリーダー(KOL)が、JAK阻害薬を関節リウマチ管理のマイルストンととらえていた。JAK阻害薬は、炎症反応に重要な役割を果たすJAK経路を阻害すると同時に、患者(特に、自己注射に慣れていない、または自己注射が困難な患者)にとってより簡便な治療薬となるからだ。
JAK阻害薬はさらに、メトトレキサートを使わなくても単剤で高い有効性を発揮するため、メトトレキサート不耐容の関節リウマチ患者が抱える重大なアンメットニーズを満たすことができる。
TNF阻害薬で効果不十分な患者で使用広がる
Decision Resources Groupのインタビューに応じた米国のリウマチ専門医によると、JAK阻害薬はTNF阻害薬で効果不十分な関節リウマチ患者に多く使われており、TNF阻害薬以外の生物学的製剤が対象とする患者集団とかぶる。単剤で高い有効性を示すこと、そして経口投与であることを背景に、ゼルヤンツはTNF阻害薬で効果不十分な患者で最大のシェアを占めており、TNF阻害薬以外の生物学的製剤に勝っている。
欧州市場も同じようになるとわれわれは予測している。ただし、注意すべきなのは、欧州ではオルミエントとゼルヤンツが2017年のほぼ同じ時期に承認されたことだ。米国と欧州では状況が大きく異なる。
米国市場を展望してみると、オルミエントは▽参入の遅れ(ゼルヤンツの承認から5年あまりあとに承認)▽血栓症に関する黒枠警告▽より高い効果が期待される高用量での使用が承認されていないこと――が販売拡大のネックとなる。このためオルミエントは、ゼルヤンツよりも価格を安く設定している。
欧州の専門医「1日1回」のオルミエントに注目
一方、欧州ではオルミエントの方がわずかながらゼルヤンツよりも早く発売された。しかし、米国ではゼルヤンツの方が市場に早く出ており、オルミエントは使用経験という点でゼルヤンツに劣るし、血栓塞栓性イベントにも注意を要する。
反面、オルミエントは高用量(欧州では承認)で高い効果を得られることに加え、ゼルヤンツよりも服用回数が少ないこと(ゼルヤンツは1日2回、オルミエントは1日1回)から、欧州の医師はこの薬剤に早くから注目していた。
こうしたことを考えると、どのJAK阻害薬がこのクラスでリーダーとなるのか言い当てるのは難しい。
関節リウマチでは、ゼルヤンツとオルミエントに続く3つ目のJAK阻害薬が開発後期段階にあり、近く発売される見通しだ(アッヴィのウパダシチニブ)。各メーカーは治療アルゴリズムにおけるJAK阻害薬の位置付けについて熱心に議論している。EULARでリリーとファイザー、アッヴィがそれぞれ主催したシンポジウムでも、JAK阻害薬が現在の治療パラダイムにどのような変化をもたらすかということがテーマとなった。
米国でオルミエントが承認されたのを機に、JAK阻害薬はさらに広く認知されることとなり、市場でのプレゼンスは全体的に上昇するだろう。アッヴィのウパダシチニブにも同様の期待がかかる。リウマチ専門医がJAK阻害薬の使用経験をさらに積み、別のJAK阻害薬も承認されれば、TNF阻害薬からJAK阻害薬への切り替えはより頻繁に起こるようになるだろう。
バイオシミラー vs. バイオ先行品
関節リウマチの領域で初のバイオシミラーとなったセルトリオンの「Inflectra/Remsima」(インフリキシマブ)が欧州で発売されたのは2015年だったが、欧州のリウマチ専門医の間でバイオシミラーの使用が一般化しつつある状況が見えてきたのは17年だった。この年には、エタネルセプトにも2つのバイオシミラーが発売されている。
欧州でバイオシミラーの立ち上がりに時間がかかったのは、1つは医師が承認後の試験でさらなる安全性データを待っていたこと、もう1つは多くの保険者がバイオシミラーへの切り替えを強制していなかった、あるいはフォーミュラリーへの収載が遅れたことによる。さらに、インフリキシマブがほかのTNF阻害薬(エタネルセプトとアダリムマブ)ほど頻繁に処方されていないことも影響しただろう。
今年のEULARでは、エタネルセプトのバイオシミラーの有効性・安全性を確認する試験の結果がいくつか発表された。承認後試験がバイオシミラーの処方に大きな影響を与えることを考えれば、これは自然な流れと言える。
生物学的製剤未使用の関節リウマチ患者を対象にドイツで行われた試験(n=283)によれば、エタネルセプトのバイオシミラー「Benepali」(サムスンエピス)と先行品では、継続率は同程度だった。この試験では、有害事象の全体的な分布は類似していたと主張するが、バイオシミラー群では先行品群より安全性の問題から投与を中止する患者が多かった(32% vs. 14%)。
デンマークで行われたより大規模な試験(n=2061)では、関節リウマチと感染性関節炎、体軸性脊椎関節炎の患者を対象に、先行品の使用を続けた患者と、エタネルセプトに切り替えた患者で継続率を比較した。興味深いことに、1年後の補正継続率は、切り替えなしの患者が77%(95%CI:72~82)と、切り替えを行った患者の83%(95%CI:79~87)を下回った。
この試験では先行品で注射部位反応リスクの上昇が認められ、これが切り替えなしの患者の継続率が低くなった原因かもしれない。この試験の発表者は、先行品であるエンブレルの製造工程と製剤設計が注射部位反応リスク上昇の要因となっている可能性を示唆した。メーカーはこれを受け、問題の改善に取り組んでいるという。
注目集めるアダリムマブのバイオシミラー
エタネルセプトのバイオシミラーに関するデータもさることながら、欧州での発売が今年10月に迫っているアダリムマブのバイオシミラーにも多くの注目が集まっている。
EULARでは、ファイザーとアムジェンがそれぞれ、自社のバイオシミラーと先行品を比較した臨床試験を発表し、ファイザーは申請、アムジェンは発売に向けた地固めを行った。
発売が最も早いとみられるサムスンエピスのアダリムマブバイオシミラーは、抗薬物抗体(ADAb)が有効性に及ぼす影響を探ったプール解析で取り上げられた。この試験によると、ADAbの増加による効果減弱のオッズ比は、バイオシミラー(SB5)で3.17(95%CI:1.78~5.64)だったのに対し、先行品「ヒュミラ」では0.99(95%CI:0.55~1.80)だった。
これは、SB5はADAbの発言で有効性が著しく低下する可能性があるのに対し、ヒュミラではそれがないということを示している。SB5はすでにヒュミラのバイオシミラーとして承認されており、この試験結果から生じる臨床的意義もいまだ不明なため、規制当局がここに大きな注意を向けることはないかもしれない。しかし、バイオシミラーと先行品の間でこうした著しい差が生じ得るということは注目されるべきだろう。
欧州ではバイオシミラーが優勢に?
欧州のリウマチ専門医は、バイオシミラーの発売を歓迎している。TNF阻害薬市場ではすでに、先行品とバイオシミラーの戦いが始まっている。EULARでは、ファイザーやロシュといった大手製薬企業が新薬の臨床試験データを華々しく披露する一方、セルトリオンやLG化学などのバイオシミラー企業もブースを出展していた。
Decision Resources Groupの調査によると、欧州のリウマチ専門医の多くが、新規患者に対する従来型DMARD後のファーストライン治療として、エタネルセプトのバイオシミラーを処方し始めている。近い将来、欧州のTNF阻害薬市場ではバイオシミラーが優勢となるだろう。
(原文公開日:2018年6月26日)
【AanswersNews編集長の目】6月に開かれた欧州リウマチ学会から、関節リウマチ治療薬市場に変化をもたらしつつある「JAK阻害薬」と「バイオシミラー」に関するトピックスをお届けしました。
日本の状況に目を移してみると、ゼルヤンツ(トファシチニブ)が2013年7月に発売されたあと、昨年9月に日本イーライリリーがオルミエント(バリシチニブ)を発売。同社の業績発表によると、オルミエントは17年12月期、発売から3カ月間で1.26億円を売り上げました。
バイオシミラーは現在、インフリキシマブ(先行品名・レミケード)で4製品(日本化薬、セルトリオン、あゆみ製薬、日医工)が販売中。エタネルセプト(同・エンブレル)では今年、あゆみ製薬(製造販売元は持田製薬)が初のバイオシミラーを発売しました。
日本ではまだバイオシミラーの普及は低調ですが、年内にもファイザーがインフリキシマブのバイオシミラーを発売する見通しです。新薬大手の参入が市場の起爆剤になるのか、注目されます。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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