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米メルク「キイトルーダ」併用戦略加速―エーザイ・アストラゼネカと大型提携 囲い込みを強化

更新日

米メルクが、免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」で、ほかの抗がん剤との併用戦略を加速させています。

 

2017年7月に英アストラゼネカと併用療法の開発を含む大型提携を結んだのに続き、今年3月にはエーザイとも最大6000億円規模の共同開発・共同販売契約を締結。先行する「オプジーボ」と激しいトップ争いを繰り広げる中、併用相手となる有望な抗がん剤の囲い込みを強めています。

 

レンビマと併用 最大6100億円の提携

3月8日、米メルクはエーザイとの大型提携を発表しました。柱となるのは、自社の免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」と、エーザイ創製の抗がん剤「レンビマ」の併用療法の共同開発です。

 

両社は提携に基づいて、6つのがん種(子宮内膜がん・非小細胞肺がん・肝細胞がん・頭頸部がん・膀胱がん・メラノーマ)で11の適応取得を目指した臨床試験を共同で実施。これらのがん種以外でも、バスケット型臨床試験(特定の分子を標的とした単一の試験)を共同で速やかに始める方針です。

 

提携によりメルクは、エーザイに一時金として3億ドル(1ドル=106円換算で約320億円)を支払います。開発・販売のマイルストンがすべて達成されれば、メルクからエーザイに支払われる金銭は最大で総額57.6億ドル(約6100億円)に上ります。

 

腎細胞がん ブレークスルーセラピーに

両社はすでに2015年から併用療法の臨床試験を共同で行っており、今回の提携はその関係を一歩深めた形です。

 

これまで行った7つのがんを対象とした後期臨床第1相/第2相(P1b/2)試験では、それぞれの単剤療法を上回る相乗効果が確認されました。腎細胞がんでは63%が奏効し、PD-L1発現の有無に関わらず腫瘍縮小効果を確認。子宮内膜がんでも奏効率は52%に達しました。

 

腎細胞がんを対象とした併用療法では、エーザイがP3試験を実施中。17年12月には米FDA(食品医薬品局)からブレークスルーセラピーの指定を受けました。「キイトルーダとレンビマの併用療法における相乗効果は、強固な科学的根拠に裏付けられている」。メルク研究開発部門のトップ、ロジャー・パールマッター氏は、併用療法の拡大に自信を見せます。

 

併用で「かなり広い患者に」

免疫チェックポイント阻害薬はがん治療の新たな潮流となりつつありますが、単剤で有効なのは患者の2~3割程度にすぎません。より効果を高めようと、各社は併用療法の開発に力を入れています。

 

「キイトルーダというバックボーンに、化学療法も併用するし、レンビマのようなTKIと相性のいいがん種や患者のタイプもある。併用によって選択肢が広がり、結果としてかなり広い患者にいろんな使い方ができる」

 

メルクの日本法人MSDの白沢博満・副社長グローバル研究開発本部長はこう強調します。メルクは昨年7月、英アストラゼネカとも同様の契約を結んでおり、PARP阻害薬「リムパーザ」とキイトルーダの併用療法の開発に乗り出しました。アストラゼネカとの契約は、一時金やマイルストンペイメントを合わせて総額85億ドル(約9010億円)。併用薬として有望な薬剤を自陣に取り込もうと、巨額の投資が続きます。

開発中の抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体の主な併用療法の表一方でMSDの白沢副社長は「こっちを取ったらこっちが取れない、あるいは全部面で押さえたからほかが入って来られないということではない。それでもみんな入ってくる」とも話します。実際、エーザイは「オプジーボ」(米ブリストル・マイヤーズスクイブ/小野薬品工業)とも肝細胞がんを対象に併用療法の開発で提携しており、両にらみの状態です。

 

そのオプジーボは抗CTLA-4抗体「ヤーボイ」の併用療法を開発中で、日本でもメラノーマと腎細胞がんの適応で申請中。レンビマとの肝細胞がんを対象とした併用療法は日本でP1試験が始まっており、第一三共の抗体薬物複合体「DS-8201」との併用も近くP1試験に入る予定です。

 

スイス・ロシュの抗PD-L1抗体「テセントリク」は自社の抗がん剤「アバスチン」との併用療法を開発中。非小細胞肺がんと腎細胞がんを対象とした臨床試験で、良好な成績を発表しました。アストラゼネカは同「Imfinzi」と抗CTLA-4抗体トレメリムマブや抗がん剤「イレッサ」との併用を、独メルクと米ファイザーの抗PD-L1抗体「バベンチオ」はファイザーの「インライタ」「ザーコリ」などとの併用を狙っています。

 

キイトルーダがトップ奪取へ

免疫チェックポイント阻害薬の市場は急速に成長しており、がん治療薬の中でもひときわ競争の激しい分野となっています。

 

目下、トップ争いを繰り広げているのがオプジーボとキイトルーダ。英市場調査会社エバリュエートファーマは、18年の世界売上高はキイトルーダが61.2億ドルで、先行するオプジーボ(60.4億ドル)を抜くと予想。両剤とも、22年には100億ドル近くまで売り上げを伸ばすと予測されており、つばぜり合いが続きます。

抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体の世界売上高予測の図。【キイトルーダ】2018年:61.2億ドル、2022年:98.8億ドル、【オプジーボ】2018年:60.4億ドル、2022年:95.9億ドル、【テセントリク】2018年:12.1億ドル、2022年:38.5億ドル、【Imfinzi】2018年:4.5億ドル、2022年:27.3億ドル。免疫チェックポイント阻害薬との併用は、従来型の抗がん剤を持つ企業にとっても重要。エーザイの内藤晴夫・代表執行役CEOは、メルクとの提携でレンビマのピーク時売上高が従来の見込みの3倍にあたる5000億円まで拡大すると期待を示しました。免疫療法薬が存在感を増す中、この波をとらえられるかが売り上げに影響します。

 

免疫チェックポイント阻害薬では、併用療法の臨床試験が急増したことで被験者の確保が難しくなっています。併用療法の開発は、陣営固めと同時に、スピードが従来にも増して重要となりそうです。

 

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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