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ニュース解説

「今やらなければ間に合わない」製薬企業 急ぐ“デジタル変革”

今やらないと本当に間に合わない――。製薬企業がAIやビッグデータ、IoTなど先端IT技術への対応を急いでいます。

 

ビジネスを効率化し、患者や医療従事者に新たな価値を提供すると期待されるITの活用。日本の製薬業界は、他業界、そして海外の製薬業界と比べても遅れをとっていると言われています。技術革新の波にどう対応するかが、中長期的な成長の分かれ目となりそうです。

 

塩野義 アクセンチュアとの提携で狙うのは…

「日本の製薬業界は、他業界、海外と比べてもデジタル化やAI(人工知能)の活用で遅れをとっている。デジタル変革は今やらないと本当に間に合わない」。昨年12月、ITコンサルティング大手のアクセンチュアと提携を結んだ塩野義製薬。提携発表の記者会見で、澤田拓子・取締役上席執行役員は危機感を口にしました。

 

製薬ビジネスは「時間もお金もかかるが、成功確率は低い。非常に効率の悪いビジネス」(澤田氏)です。日本製薬工業協会によると、1つの新薬を生み出すには9~17年の期間と、数百億円の費用がかかる一方、成功確率は0.0032%。新薬開発の難易度が上がる中、ここをいかに効率化していくかが製薬企業にとって大きな課題となっています。

 

塩野義製薬の澤田拓子・取締役上席執行役員の写真

塩野義製薬の澤田拓子・取締役上席執行役員

 

アクセンチュアとの提携で塩野義は、社内のITシステムの保守・運用をアクセンチュアに委託。IT子会社シオノギデジタルサイエンスの社員をアクセンチュアに出向させるなどして、IT人材の育成を図ります。

 

日本勢 先端IT技術の活用で遅れ

アクセンチュアの永田満マネジング・ディレクター(製造・流通本部ライフサイエンスグループ統括)によると、日本の製薬企業はシステムの保守・運用にIT部門の人材・予算の8~9割を投入しているのに対し、海外の製薬企業はこれを3~4割程度に抑え、残りはAIやビッグデータ、デジタルメディスンなど先端技術の開発に充てているといいます。

 

「10年ほど前までは日本企業も海外企業も同じような感じだったが、海外企業はこの10年でIT部門のポートフォリオが大きく変わった」と永田氏。日本企業は、最先端のIT技術の活用で海外勢に大きく遅れをとっています。

 

今回の提携では、ITシステムの保守・運用を委託することでコストを削減すると同時に、そこで生まれた資金や人材の余力を成長のための新たなIT戦略に振り向けるという狙いがあります。塩野義は、創薬や営業といった領域で、AIなどITへの投資を行っていく考えです。

 

創薬にAIの波「2020年には一般的に」

製薬業界で近年、急速に盛り上がりを見せているのがAIの活用です。

 

国内では2016年、製薬企業とIT関連企業、アカデミアなど89機関が参加し、AIを新薬開発に活用するための共同研究を行う「ライフ・インテリジェンス・コンソーシアム」が発足。今年1月にはディー・エヌ・エー(DeNA)が、塩野義製薬、旭化成ファーマの2社が持つ化合物情報を使って、AI創薬の共同研究を始めました。塩野義はさらに、AIを活用して臨床試験データの解析をセミオートメーション化する取り組みにも着手しています。

 

厚生労働省の「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」が昨年6月にまとめた報告書では、AIの活用が期待される分野の1つに「医薬品開発」を挙げ、
▽創薬ターゲットの発見
▽化合物の設計・最適化
▽ヒトに対する毒性の予測
▽フィージビリティーの確認(生体内の複雑な分子ネットワークの調査など)
などが可能になると指摘。2020年ごろには、AIを活用した医薬品開発が一般的に行われるようになると見通しました。

 

同懇談会の構成員を務めた奥野恭史・京都大大学院医学研究科教授は、AIを創薬に活用することで、開発期間は従来の13年から9~9.5年に、開発費用は1200億円から560億円に下がり、成功確率は2万5000分の1から2500分の1に上昇すると予測しています。

 

創薬のフローで期待されるAIの効果と従来フローの比較図。【従来】<基礎研究>期間:4年、費用:約400億円、成功確立:3000分の1。<非臨床試験・臨床試験・申請・承認>期間:9年、費用約800億円、成功確立:8分の1。<Total>期間:13年、費用約1200億円、成功確立:2万5000分の1。【AI創薬】<基礎研究>期間:1~1.5年、費用:約60億円、成功確立:約500分の1、<非臨床試験・臨床試験・申請・承認>期間:8年、費用:約500億円、成功確立:約5分の1。<Total>期間9~9.5年、費用:約560億円、成功確立:2500分の1。

 

広がるデジタルの活用模索

製薬業界ではここ数年、AIやビッグデータ、IoT、生体認識などのデジタル技術をビジネスに活用しようとする動きが急速に広がっています。

 

IoTの分野では、大塚製薬が昨年、錠剤に微小センサーを埋め込んで服薬状況を管理する「デジタルメディスン」の承認を米国で取得。同社は日本でも、飲み忘れ防止機能を付けた抗血小板薬の新包装品を開発しました。

 

今年4月からは、国の医療情報データベース「MID-NET」が本格稼働し、製薬業界が行う市販後調査への利用も可能に。リアルワールドデータを臨床試験に活用するため、厚労省は来年度、開発者向けのガイドラインを策定する予定です。

 

「製薬ビジネスは非常に効率が悪いが、逆に言えば改善の余地が非常に大きい業界。デジタルを活用していくことで、ビジネスを根底から変えていくことができるのではないか」。塩野義の澤田氏はこう話します。

 

新薬が出にくくなり、薬価への圧力も強まる中、デジタルを活用したビジネスの効率化、そして新たな価値提供は、製薬企業にとってもはや避けて通ることはできません。今、これにどう対応するかが、将来を大きく左右することになりそうです。

 

【AnswersNews編集部が製薬会社を分析】

塩野義製薬

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