米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、高脂血症治療薬として開発中の「ベンペド酸」。エゼチミブとの併用で高い効果が期待されており、スタチン不耐の患者の新たな選択肢として広く普及すると予想されています。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswesrsNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
ブロックバスターのスタチンにも課題
高コレステロールは心血管疾患の修正可能なリスク因子であり、その治療に大きなブレークスルーをもたらしたスタチンは、今や最も有力なファーストラインの治療薬だ。スタチンは1日1回の服用で済む安価な薬剤だが、その重要性は心血管イベントのリスクを下げ、命を救う点にある。
有効性に加え、安全性プロファイルもおおむね良好なことから、スタチンは広く普及している。このクラスには、ブロックバスターとしても群を抜く「リピトール」(アトルバスタチン、ファイザー)や「クレストール」(ロスバスタチン、アストラゼネカ/塩野義製薬)、「Zocor」(シンバスタチン、メルク)の3つがあり、空前の売り上げを叩き出した。
とはいえ、どんな薬も完璧ではない。ごく一部ではあるが、スタチンは横紋筋融解症を引き起こし、糖尿病の発症リスクが上昇する可能性も指摘されている。
全体的に見れば、スタチンのベネフィットはそのリスクをはるかに上回ると多くの医師が主張しているものの、一般では多少評判は落ちる。広く使われるようになったスタチンに対し、メディアが厳しい目を向けるようになり、結果的に人々の警戒心をあおるような報道がなされている。
今、スタチンのベネフィットを享受できるはずの人々の一部は、自分はスタチンに不耐だと勘違いしたり、あるいはスタチンのトライアルを拒んだりするようにさえなっている。こうした人も、実際に不耐な人も、スタチンを使っている人に比べると心血管疾患のリスクが高いことに変わりはない。
スタチン以外の治療選択肢は限られている
スタチン以外の治療選択肢は限られている。「ゼチーア/ Ezetrol」(エゼチミブ、メルク)のLDLコレステロール低下効果は、弱めのスタチンの範囲にとどまる。同剤の「IMPROVE-IT CV outcomes」試験では、プラセボとの比較で有意なベネフットが認められたものの、この結果が臨床的にどの程度重要かについては、専門家の間でも議論が分かれている。
米FDAは、この試験の結果は添付文書の記載を変更するほどのものではないと受け止めた。そうなると、忍容性が低く有効性もさほど高くない胆汁酸捕捉剤を除く治療選択肢は、新たに登場したヒトプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害薬だけとなる。
抗PCSK9抗体は、スタチン服用患者とスタチン不耐用患者のいずれでも、LDLコレステロールを効果的に低下させるとともに、心血管系に対するベネフィットでもスタチンをしのぐ。
では何が障壁となるのか。米国では、この薬を投与するのに年間1万4000ドルかかるため、多くの患者は高すぎて手が届かない。保険者によっては徹底的なコスト抑制のターゲットとなる。結局、スタチンを服用できない、あるいは服用を拒む何百万人もの人々は、心血管疾患のリスクを下げる機会を逃すことになる。
ベンペド酸 エゼチミブとの併用に大きな期待
「錠剤のような飲み薬で、LDLコレステロールを劇的に下げ、値段も安い薬がもし開発されれば、PCSK9阻害薬の強力なライバルとなるだろう」(米国の循環器専門医)
しかし、この医師が言うように比較的安価となることが予想され、患者も希望が持てる薬の開発も進められている。
米Esperion Therapeutics社のベンペド酸(bempedoic acid、ETC-1002)は、コレステロール管理の次なるブームとなるかもしれない。ベンペド酸はアデノシン3リン酸クエン酸リアーゼを標的とする薬剤だが、これはコレステロールの合成過程でスタチンが標的とする酵素よりも前に作用する酵素だ。
ベンペド酸はゼチーア/Ezetrolと同様、弱めのスタチンと同程度のLDLコレステロール低下効果しかない。しかし、エゼチミブとの併用には大きな期待が寄せられている。エゼチミブとシンバスタチンの配合剤「Vytorin」のような製品は、ストロングスタチンに迫るLDLコレステロール低下効果が期待でき、スタチン不耐で動脈硬化性の心血管疾患リスクが高い患者に目に見える効果をもたらすだろう。
売り上げは数十億ドル規模に
Esperion社も同じようなことを考えているのは間違いない。ベンペド酸の開発でも、まずはスタチン不耐の患者がターゲットとなるだろう。加えて、ほかの新規経口剤で見られる安全性の課題も見当たらない。低分子製剤なので、抗PCSK9抗体ほど高くもない。
「ベンペド酸には、4年も薬物が体内に残存するanacetrapibのような厄介な問題はなさそうだ」(米国の循環器専門医)
この領域の専門家へのインタビュー、開業医を対象とした調査、さらには独自の文献調査の結果から、Decision Resources Groupは、ベンペド酸がスタチンを服用できない、または服用を拒む患者の重大なアンメットニーズを満たすだろうと考える。
DRGの2016~26年の高脂血症治療薬市場の予測では、ベンペド酸がスタチンやゼチーア/ Zestrilと同程度の価格になると仮定すると、ベンペド酸は何百万人もの人に処方され、売り上げは数十億ドルに達する可能性がある。スタチンほどの大型化は望めないだろうが、スタチン不耐、あるいはスタチンを拒む患者の治療では、中心的な薬剤となるだろう。
(原文公開日:2017年11月22日)
【AnswersNews編集長の目】米Esperionが開発中のベンペド酸は現在、臨床第3相(P3)試験を実施中。エゼチミブとの配合剤もP3試験に入っており、Esperionは2020年第1四半期(1~3月)までに欧米で申請を目指しています。今のところ、日本での開発は行われていないようです。
日本では昨年、PCSK9抗体「レパーサ」(アステラス・アムジェン・バイオファーマ)と同「プラルエント」(サノフィ)が登場し、今年はエゼチミブとアトルバスタチンの配合剤「アトーゼット」(MSD)が発売されました。興和は今年、新たなフィブラート系薬「パルモディア」の承認を取得しましたが、薬価で当局と折り合わず、発売には至っていません。
「リピトール」の特許切れ以降、高脂血症治療薬市場は縮小傾向にあり、「クレストール」にも後発医薬品が参入。かつて大型のブランド薬がひしめき合った巨大市場は、後発品主体への姿を変えました。
DRGが売り上げ予想を「数十億ドル」とはじくベンペド酸は、高脂血症治療薬市場を再び活性化することになるのでしょうか。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。Decision Resources Groupは、向こう10年の脂質異常症治療薬市場予測レポート(Disease Landscape and Forecast – Dyslipidemia)を発行しています。レポートに関するお問い合わせはこちら。