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クエン酸第二鉄 CKD合併症で“一石二鳥”なるか―貧血の適応拡大が承認|DRG海外レポート

更新日

米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は取り上げるのは、高リン血症治療薬のクエン酸第二鉄。先日、米国で鉄欠乏性貧血への適応拡大が承認されました。高リン血症と貧血という、慢性腎臓病の代表的な2つの合併症で使えるようになったクエン酸第二鉄の市場での位置付けを見通します。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

「リン吸着」「鉄放出」で2重のベネフィット

腎性貧血と高リン血症は、慢性腎臓病(CKD)で一般的な合併症だ。鉄ベースのリン吸着剤は、血清リン濃度を下げるとともに、鉄放出によって貧血を改善するという二重のベネフィットをもたらし得る新たなクラスの薬剤の代表格で、いくつかの鉄ベースのリン吸着剤が開発されている。

 

クエン酸第二鉄(米Keryx社のAuryxia)は鉄ベースのリン吸着剤の1つ。血清リン濃度の低下で安全性と有効性が示され、高リン血症治療薬としてすでに臨床で使用可能となっている。

 

この薬は、胃腸管で食事に含まれるリン酸塩に結合し、リン酸第二鉄として不溶性の沈殿を形成する一方、鉄の一部は吸収される。理論上、これによって、ヘモグロビンの濃度は上昇し、エリスロポエチン製剤(ESA)や静注鉄剤の必要性は低下するため、結果として治療コストの削減につながる。

 

 

ヘモグロビン濃度が上昇 鉄剤とESAの使用減る

透析を受けている441人の患者を対照に行った臨床第3相試験(P3)では、クエン酸第二鉄を使った治療により、注射の鉄剤の使用は非鉄ベースのリン吸着剤に比べて51.6%減少、ESAは27.1%減少(p=0.0322)。対照薬との比較で有意な低下が認められた。

 

安全性データの解析によると、クエン酸第二鉄群と対照群の副作用プロファイルは同程度だった。胃腸関連の有害事象の発現率は、クエン酸第二鉄群が39%、対照薬群は44%。最も頻繁に見られた胃腸関連の有害事象は、軟便を含む下痢(クエン酸第二鉄群39%・対照群14%)、悪心(14%・14%)、嘔吐(9%・13%)、便秘(8%・5%)だった。

 

過去に経口鉄治療を行ったものの効果が得られなかったり、不耐用だったりした患者を対象に行ったもう1つのP3試験では、16週の有効性評価期間中、1g/dL以上のヘモグロビン上昇を達成した患者の割合は、プラセボが19%だったのに対し、クエン酸第二鉄は52%(p<0.001)。フェリチンとトランスフェリン飽和度(TSAT)の平均値も、ベースラインから16週まで統計学的に有意に変化した。

 

米国で鉄欠乏性貧血の適応拡大が承認

クエン酸第二鉄は、透析を受けているCKD患者の高リン血症治療薬として2014年に日本と米国で発売された。欧州ではこの1年後、非透析CKD患者と透析CKD患者の両方の高リン血症の適応で承認を取得した。

 

Red blood cells moving in blood vessels with depth of field.

 

クエン酸第二鉄は、腎性貧血に対しても良好な効果を示すことから、Keryxはクエン酸第二鉄の適応を非透析CKD患者の鉄欠乏性貧血まで広げようとしている。適応拡大の申請は、米FDA(食品医薬品局)が審査を行っている(FDAは11月7日、AuryxiaをCKDに伴う鉄欠乏性貧血の治療薬として承認)。

 

ヘモグロビン上昇が半数にとどまることに懸念も

Decision Resources Groupのインタビューに応じた専門家らは、クエン酸第二鉄をヘモグロビン濃度上昇のための治療選択肢の1つとみなしてはいる。ただ、一部の専門家は、極めて重要なP3試験でヘモグロビン濃度が1g/dL上昇した患者が半数にとどまった点に懸念を示している。

 

そうした医師は、クエン酸第二鉄と鉄補給剤の直接比較試験を求めている。とはいえ、医師の大半はクエン酸第二鉄が硫酸第一鉄などの経口鉄補給剤に代わる選択肢になると考えている。経口鉄補給剤で胃腸に問題が起きる患者は、特にベネフィットを得られるだろう。患者の服薬コンプライアンスも向上するかもしれない。

 

クエン酸第二鉄は、フェルモキシトール(米AMAG社のFeraheme)やカルボキシマルトース鉄(米American Regent社のInjectafer)といった注射の鉄補給剤とも競争になる可能性があると一部の専門家は指摘している。

 

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経口で利便性高まるが…価格の高さもネックに

非透析CKD患者には、透析CKD患者よりも頻繁にフェルモキシトールとカルボキシマルトース鉄が処方されるが、非透析CKD患者は経口治療のほうを好むだろう。一方、医師はクエン酸第二鉄の価格が高いことを懸念し、これが腎性貧血治療でAuryxiaがシェアを獲得する上で最大の障害になると考えている。クエン酸第二鉄が腎性貧血でシェア獲得を確実にするには、コストパフォーマンスを実証することが極めて重要になる。

 

クエン酸第二鉄は、ほかの経口鉄補給剤よりも投与が簡便で、安全性プロファイルも改善されている。注射の鉄補給剤よりは前の段階で使われることになりそうで、非透析CKD患者の服薬コンプライアンスは向上すると考えられる。

 

ただし、クエン酸第二鉄は高価な上、幅広い患者集団でのヘモグロビン濃度上昇の有効性は限定的であることが懸念点となる。この点は、保険者が設けるアクセス制限によって複雑化するとDecision Resources Groupは予測している。総じて言えば、非透析CKD患者の腎性貧血で、クエン酸第二鉄はさほど大きなシェアは獲得できないだろう。

 

(原文公開日:2017年11月2日)

 

【AnswersNews編集長の目】

記事中で出てきたクエン酸第二鉄「Auryxia」は、日本では「リオナ」の製品名で鳥居薬品が販売しています。日本たばこ産業(JT)が米Keryxから日本での独占的開発・販売権を取得したもので、高リン血症治療薬として2014年1月に承認を取得しました。

 

16年12月期の売上高は56.34億円(前期比11.9%増)。17年12月期63.1億円(12.0%増)を見込んでおり、鳥居薬品の主力製品の一つとなっています。鉄欠乏性貧血の適応では、国内でP2試験を実施中です。

 

一方、腎性貧血では、ESAに代わる次世代の治療薬として、HIF-PH(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)阻害薬の開発が最終段階に差し掛かっています。アステラス製薬のロキサデュスタットや、グラクソ・スミスクラインのダプロデュスタット、バイエル薬品のモリデュスタット、田辺三菱製薬のバダデュスタットがP3試験を行っており、JTと鳥居薬品のJTZ-951もP2試験段階にあります。

 

CKDの患者数は増加を続けており、拡大する腎性貧血治療薬市場をめぐる競争は、新薬の相次ぐ登場で一層激しさを増していくことになりそうです。

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。Decision Resources Groupは、向こう10年の腎性貧血治療薬市場予測レポート(Disease Landscape and Forecast – Renal Anemia)を年内に発行予定です。レポートに関するお問い合わせはこちら

 

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