政府が2020年度末までに成分数で倍増させることを目標に掲げるバイオシミラー。国内売上高が数百億円に及ぶ大型バイオ医薬品の特許切れが相次ぎ、開発・販売競争も激しさを増しています。最新の開発動向を整理しました。
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【がん】トラスツズマブは4製品、リツキシマブとベバシズマブは2製品が販売
抗がん剤で現在、バイオシミラーが開発・販売されているのは、▽抗CD20抗体リツキシマブ(先行品名・リツキサン)▽抗HER2抗体トラスツズマブ(ハーセプチン)▽抗VEGF抗体ベバシズマブ(アバスチン)――の3種類です。
ベバシズマブ(アバスチン)
ベバシズマブのバイオシミラーは、ファイザーが19年6月に、第一三共が同年9月に承認を取得し、いずれも同年12月に発売されました。日医工はスペインのマブサイエンスと日本での独占販売に合意しており、20年9月に申請を予定しています。
トラスツズマブ(ハーセプチン)
トラスツズマブのバイオシミラーは、18年8月に日本化薬とセルトリオンが発売。18年9月には、米アムジェンと提携する第一三共とファイザーが承認を取得し、第一三共が18年11月、ファイザーが19年8月に販売を開始しました。このほか、MeijiSeikaファルマがP1試験を行っています。
日医工も開発を進めていましたが、20年1月に開発を中止すると発表しました。すでに4つの製品が販売されている中、「今後の市場環境などを精査・検討した結果」(同社)だといいます。開発データは提携先の韓国・エイプロジェンに譲渡され、同社が承認取得に向けて開発を進めていく予定です。
リツキシマブ(リツキサン)
リツキシマブのバイオシミラーは、協和キリンとファイザーがそれぞれ販売中。協和キリンの製品は2017年9月にサンドが承認を取得し、販売提携を結ぶ協和キリンが18年1月に発売。発売初年度の18年12月期は43億円、19年12月期は97億円を売り上げ、20年12月期は101億円を見込んでいます。ファイザーの製品は19年9月に承認され、20年1月に販売を開始。日本化薬も開発を進めており、現在、臨床第3相(P3)試験を行っています。
G-CSF製剤(フィルグラスチム/ペグフィルグラスチム)
がん化学療法による好中球減少症などに使われるG-CSF製剤フィルグラスチム(グラン)のバイオシミラーは、13年5月から14年11月にかけて5社が相次いで販売を開始しました。
フィルグラスチムをペグ化して作用時間を長くしたペグフィルグラスチム(ジーラスタ)は、ジーンテクノサイエンスが前臨床段階で開発を進めています。ジーンテクノサイエンスは富士製薬と持田製薬にフィルグラスチムをライセンスアウトしており、ペグフィルグラスチムはグローバル製薬企業と組んで海外展開を目指します。
【リウマチ】アダリムマブが承認取得、エタネルセプトは3品目販売
がん領域とともにバイオ医薬品が多く使われている関節リウマチの領域では、抗TNFα抗体インフリキシマブ(レミケード)や同アダリムマブ(ヒュミラ)、TNFα阻害薬エタネルセプト(エンブレル)がターゲットとなっています。
アダリムマブ(ヒュミラ)
アダリムマブのバイオシミラーは、20年6月に協和キリン富士フイルムバイオロジクスが承認を取得。11月の薬価収載が見込まれます。
協和キリン富士フイルムのほかには、持田製薬やジーンテクノサイエンス、第一三共が開発を進めています。持田製薬はバイオシミラーの開発段階を開示していませんが、18年3月期決算発表の時点ではP3試験段階にあることを公表していました。第一三共はアムジェンとの提携にアダリムマブを含めていますが、開発段階は不明。ジーンテクノサイエンスは前臨床段階です。
エタネルセプト(エンブレル)
エタネルセプトのバイオシミラーは、持田製薬が18年1月に承認を取得し、5月に提携先のあゆみ製薬から発売されました。これに続いて共和薬品工業とYLバイオロジクスが19年3月に承認を取得。YLバイオロジクスの製品は販売提携を結ぶ陽進堂と帝人ファーマが同年10月に発売、共和の製品はライセンス契約を結ぶ日医工の屋号で同年11月に発売されました。
インフリキシマブ(レミケード)
インフリキシマブのバイオシミラーは、日本化薬が国内初の抗体医薬のバイオシミラーとして14年11月に発売。17年9月に承認された日医工の製品は、リウマチ領域に特化するあゆみ製薬との2ルートで17年11月に発売されました。インフリキシマブは潰瘍性大腸炎やクローン病の適応も持っており、日医工は自社販売分について潰瘍性大腸炎治療薬「アサコール」を持つゼリア新薬工業と共同でプロモーションを行っています。
14年に承認されたセルトリオン・ジャパンの製品は、販売体制の整備に時間を要し、17年12月に発売。20年7月からは東和薬品と共同販売しています。18年12月にはファイザーの製品も発売されました。
【腎性貧血】ネスプにAG 、バイオシミラーは3品目発売
抗がん剤や関節リウマチ治療薬とともに多くの企業が開発・販売に参入しているのが、腎性貧血治療薬ダルベポエチンアルファ(ネスプ)です。
先行品を販売する協和キリンは18年8月、子会社・協和キリンフロンティアを通じてオーソライズド・ジェネリック(AG)の承認を取得。バイオシミラーではなく後発医薬品として承認されましたが、薬価は通常のバイオシミラーと同じ「先行品の70%」で算定され、19年8月に発売されました。
19年9月には、AGに続いて▽JCRファーマ▽三和化学研究所▽マイランEPD――の3社が承認を取得。JCRと三和化学の製品は同年11月に、マイランの製品は同年12月に発売されました(JCRの製品は提携先のキッセイ薬品工業が販売)。
協和キリンの19年12月期決算によると、AGは発売5カ月で140億円を販売(先行品は336億円で前期比37.4%減)。20年12月期はAGが307億円(119.3%増)、先行品が40億円(88.1%減)を見込んでおり、急速に切り替えが進む見通しです。
【インスリン】インスリンリスプロが発売、インスリンアスパルトも申請中
インスリン製剤では、サノフィが20年6月に超速効型のインスリン リスプロ(ヒューマログ)のバイオシミラーを発売。サノフィは同じく超速効型のインスリン アスパルト(ノボラピッド)も申請中です。
持効型のインスリン グラルギン(ランタス)のバイオシミラーは、日本イーライリリーと富士フイルム富山化学の2社が販売しています。リリーのインスリン グラルギンは19年に薬価ベースで44億5000万円(前年比7.5%増)を売り上げました。
【その他】ラニビズマブが申請間近、テリパラチドも販売開始
そのほかの領域では、ジーンテクノサイエンスが千寿製薬と共同開発している加齢黄斑変性治療薬ラニビズマブ(ルセンティス)が申請間近。20年2月にP3試験の最終患者の観察期間が終了したと発表しており、申請に向けた準備が進められているとみられます。ジーンテクノサイエンスはさらに、同アフリベルセプト(アイリーア)も前臨床段階で開発中です。
骨粗鬆症治療薬テリパラチド(フォルテオ)は、持田製薬が19年9月に承認を取得。同年11月の薬価収載と同時に発売されました。JCRファーマのファブリー病治療薬アガルシダーゼベータ(ファブラザイム)は18年9月に承認を取得し、11月に発売。ジーンテクノサイエンスは前臨床段階でRSウイルス感染症治療薬パリビズマブ(シナジス)の開発を進めています。
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厚生労働省が19年9月取引分を対象に行った薬価調査の結果によると、バイオシミラーのシェアは金額ベースで19.5%。先行品からの置き換えによる医療費削減効果は年間226億円と推計されました。ファイザーや第一三共といった新薬大手の参入やバイオAGの登場により、バイオシミラー市場も大きく変化していきそうです。
(前田雄樹)
(公開:2017年11月13日/最終更新:2020年7月16日)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】