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ニュース解説

多発性骨髄腫 新薬ラッシュで広がる治療選択肢

「白血病」「悪性リンパ腫」とともに3大血液がんの1つに数えられる「多発性骨髄腫」。新薬が相次いで登場し、治療が大きく進歩しようとしています。

 

かつては治療法が限られていましたが、2006年以降、プロテアソーム阻害剤や免疫調整薬の登場で予後は大きく改善。15~16年には、新規のプロテアソーム阻害剤「カイプロリス」やヒストン脱アセチル化酵素阻害剤「ファリーダック」、抗SLAMF7抗体「エムプリシティ」など4つの新薬が承認されました。

 

来年には初の経口プロテアソーム阻害剤が承認される見込み。複数の抗体医薬も開発の後期段階に控えており、近い将来、治療選択肢は一層広がりそう。さらなる予後の改善が期待されます。

 

 

患者数・死亡数ともに増加傾向

多発性骨髄腫は、血液細胞の1つで抗体をつくる役割を担う形質細胞ががん化して起こる疾患です。形質細胞ががん化した骨髄腫細胞が増えると正常な造血が妨げられる上、骨髄腫細胞が「Mタンパク」と呼ばれる異常な免疫グロブリンを大量に作り出すことで、貧血や免疫機能の低下、腎機能障害といったさまざまな症状を引き起こします。骨髄腫細胞が骨を破壊し、骨折を起こすこともあります。

 

多発性骨髄腫は中高年に多く、40歳未満ではまれな疾患です。2014年の総患者数は推定1万8000人(厚生労働省「患者調査」)、死亡数は4185人(国立がん研究センターがん情報サービス「人口動態統計によるがん死亡データ」)と希少ながんですが、患者数、死亡数ともに増加傾向にあります。国立がん研究センターによると、2016年は新たに8700人が多発性骨髄腫と診断され、4200人が亡くなると予測されています。

 

多発性骨髄腫の患者数と死亡数の推移

 

多発性骨髄腫の発症原因は明らかになっていませんが、放射線被曝、殺虫剤やダイオキシンなど化学物質との関連が指摘されています。

 

「ベルケイド」「レブラミド」の登場で一気に予後改善

多発性骨髄腫では長らく、「MP療法」と呼ばれる治療が薬物療法の主流でした。抗がん剤メルファランとステロイドのプレドニゾロンを併用する治療ですが、予後の改善は難しく、5年生存率は30%前後で推移してきました。

 

しかし、2006年に「ベルケイド」(ボルテゾミブ、ヤンセンファーマ)、08年に「サレド」(サリドマイド、藤本製薬)、10年に「レブラミド」(レナリドミド、セルジーン)の相次ぐ登場で、治療は様変わりしました。従来に比べて予後は大きく改善し、06~08年に診断された多発性骨髄腫患者の5年生存率は一気に36.4%まで向上しました。

 

多発性骨髄腫の5年生存率の推移

 

06年発売の「ベルケイド」はプロテアソーム阻害剤と呼ばれ、細胞の増殖を抑える分子を分解する酵素プロテアソームの働きを阻害することで、骨髄腫細胞の増殖を抑え込む薬剤です。

 

サリドマイドは50年以上前に胎児奇形という重大な薬害を起こし、販売中止となりましたが、その後の研究で骨髄腫細胞が栄養を取り込むために新たな血管を作るのを阻むなどの作用が明らかになり、多発性骨髄腫治療薬「サレド」として復活。サリドマイドの構造を変え、副作用を少なくして効果を高めたのが「レブラミド」です。

 

これら3つの薬剤はいずれも再発・難治性の多発性骨髄腫に対する治療薬として承認されましたが、「ベルケイド」は11年に、「レブラミド」は15年に、それぞれ未治療の多発性骨髄腫への適応を追加。現在では、これら2剤をベースとした併用療法が治療の主流となっています。

 

15年以降は新薬ラッシュに

15年にはさらに、「ポマリスト」(ポマリドミド、セルジーン)と「ファリーダック」(パノピノスタット、ノバルティスファーマ)が発売されました。

 

「ポマリスト」は「サレド」や「レブラミド」と同じ免疫調整薬と呼ばれるクラスの薬剤。海外の臨床試験では、レナリドミドやボルテゾミブによる治療歴がある再発・難治性の多発性骨髄腫患者で無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を延長しました。

 

「ファリーダック」は、骨髄腫細胞で異常に活性するヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を阻害する薬剤です。再発・難治性の患者を対象に行った国際共同P3試験では、「ファリーダック」とボルテゾミブ、デキサメタゾンの3剤併用療法でPFSを有意に延長。完全奏効および完全奏効に近い奏効の割合も有意に高いことも確認されました。

 

「ベルケイド」や「レブラミド」を中心とする治療を行っても再発するケースは少なくなく、「ポマリスト」や「ファリーダック」はこうした患者に対する新たな選択肢となります。

 

新薬ラッシュが続く多発性骨髄腫治療薬

 

プロテアソーム阻害剤「カイプロリス」が発売 経口剤も申請中

プロテアソーム阻害剤も選択肢が広がっています。

 

今年8月には、小野薬品工業が米オニキス・ファーマシューティカルズ(現アムジェン)から導入した新規プロテアソーム阻害剤「カイプロリス」(カルフィルゾミブ)を発売。再発患者を対象に行われた「ENDEAVOR試験」では、「ベルケイド」に比べてPFSを2倍に延長しており、「ベルケイド」を上回る効果が期待されています。

 

「カイプロリス」の承認取得(16年7月4日)と同じ日、武田薬品工業は新規プロテアソーム阻害剤イキサゾミブを申請しました。「ベルケイド」と「カイプロリス」はいずれも注射剤ですが、イキサゾミブはプロテアソーム阻害剤としては初の経口剤。承認されれば、併用薬のレナリドミド、デキサメタゾンを含め経口剤だけのレジメンが初めて可能になり、利便性の向上が期待できそうです。

 

抗体医薬も登場 免疫チェックポイント阻害薬も適応拡大へ

抗体医薬も開発が進みます。

 

多発性骨髄腫治療薬として国内初の抗体医薬となる「エムプリシティ」(エロツズマブ、ブリストル・マイヤーズスクイブ)は、今年9月に再発・難治性の適応で承認を取得しました。順調にいけば、11月に薬価収載される見通しです。

 

「エムプリシティ」は骨髄腫細胞やナチュラルキラー細胞(NK細胞)の表面にあるSLAMF7に結合する抗体で、NK細胞に結合することでその免疫作用を活性化するとともに、骨髄腫細胞に結合することでNK細胞が攻撃対象として認識されやすくするという二重の作用機序を持ちます。国際共同P3試験では、レナリドミドとデキサメタゾンの併用療法に上乗せすることでPFSを有意に延長し、奏効率も有意に改善しました。

 

ヤンセンファーマのダラツズマブや、MSDの抗PD-1抗体「キイトルーダ」(ペムブロリズマブ)は国内でP3試験を実施中。小野薬品工業の「オプジーボ」(ニボルマブ)は、多発性骨髄腫を対象とする開発は日本では行っていないものの、欧米ではP3試験が進行しています。

 

多発性骨髄腫は予後の厳しいがんですが、相次ぐ新薬の登場によって治療の幅も広がり、長期の生存も可能となってきています。今後も抗体医薬を含む新たな治療薬が続々と登場する見通しで、多くの選択肢の中から最適な治療を選べる時代が、すぐそこまで迫っています。

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