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ニュース解説

途上国の感染症を制圧―5年目を迎えたGHITファンドの「これまで」と「これから」

開発途上国で蔓延する感染症の治療薬開発を支援する、日本生まれの官民ファンド「グローバルヘルス技術振興基金(GHITファンド)」。活動は5年目に入り、資金提供したプロジェクトの中には開発の後期段階に進む品目も出てきました。

 

6月1日には、2018年度からの5年間で治療薬開発に投じる資金として新たに200億円以上を確保したと発表。関係者が記者会見し、GHITファンドの「これまで」と「これから」を語りました。

 

「次の5年 必ず製品を出す」

日本政府と民間財団、製薬企業でつくる官民ファンド「グローバルヘルス技術振興基金(GHITファンド)」は6月1日、2018~22年度の5年間で治療薬開発に投じる資金として新たに200億円以上を確保したと発表しました。

 

「次の5年間は、これまで投資してきた案件をいかに進行させて製品化を実現するか、そしてそれらをいかに患者に届けるかということが最も重要になる。必ず製品を出すという方針で進めていく」

 

この日記者会見したGHITファンドのBT スリングスビーCEOはこう強調。22年度までに複数の製品の供給を始めたい考えを明らかにしました。

 

GHITファンドのスリングスビーCEO(6月1日の記者会見で)

GHITファンドのスリングスビーCEO(6月1日の記者会見で)

 

GHITファンドは、マラリアや結核、顧みられない熱帯病(NTDs)といった開発途上国で蔓延する感染症の治療薬やワクチンの開発を支援する目的で、2013年に設立されました。当初の資金規模は100億円で、日本政府が半分、民間財団と製薬企業が25%ずつ拠出。いわゆる「グローバルヘルス」の研究開発に特化した官民パートナーシップとしては世界初でした。

 

活動は5年目に入り、これまで計約100億円を投じて61の研究開発プロジェクトを支援。このうち6件がアフリカや南米での臨床試験に入っています。最も進んでいるのは、アステラス製薬などによる住血吸虫症治療薬の小児製剤の開発。今年末にも臨床第3相試験が始まる見通しです。

GHITファンドが投資する臨床試験中の6プロジェクト

 

「極めて稀な成功例」

「普段は競合だが、ことグローバルヘルスに関しては手に手を取って課題解決に取り組んでいる。非常に大きな連帯感、団結感が醸成されている。官民連携モデルの中でも大きな成功例の1つだ」

 

塩野義製薬の手代木功社長は、5年目に入ったGHITファンドの取り組みをこう評価します。参画企業の社長も顔を揃えた6月1日の記者会見では「5年たっても製薬会社のトップが顔を合わせることは製薬業界の集まりでもなかなかない」と会場を笑わせ、「政府や財団も含めずっとコミットし続けている。これは官民ファンドではなかなかないこと。正しい目的に正しいコミットメントがあるという点で、極めて稀な成功例ではないかと思っている」と語りました。

 

連携の輪は確実に広がっています。設立当初6社に過ぎなかった参画企業は、今年6月現在で22社に拡大。これまでに製品開発に参加した企業や研究機関は国内39、海外49に上ります。「GHITファンドがハブになって日本の製薬企業、研究機関、大学、海外の機関と連携しながらグローバルヘルスに貢献できる仕組みを作りつつある」。手代木氏は話します。

GHITファンドに参画している機関・企業

 

「将来への長期投資」

そもそも、GHITファンドがフォーカスする途上国向けの感染症治療薬は、民間の製薬企業にとっては“うまみ”のない分野です。新薬開発には多大な費用がかかる上、製品化できたとしても高い価格で売ることはできません。GHITファンドも「無利益・無損失」が原則。途上国にはほぼ原価で供給することが求められます。

 

日本の製薬企業は過去、世界中で標準的に使用される感染症治療薬を数多く生み出してきました。しかし、「安価ということもあり、企業としては積極的に取り組みづらいのは事実。研究開発費は年々増加しており、企業単独で感染症治療薬の研究開発に取り組むことは極めて難しくなりつつある」(手代木氏)。市場原理に任せていては見逃されてしまう領域だからこそ、官民連携による開発支援の枠組みが出てきたのは自然なことだったと言います。

 

日本が途上国の感染症撲滅に取り組むのは、国際貢献だけが目的ではありません。これから開かれていく市場で存在感を高めることも、GHITファンドに参画する企業が狙っているものの1つです。エーザイの内藤晴夫社長はこう話します。

 

「目先の収益のためにやっているのではない。今は疾病によってほとんど仕事に就くことができない人が、生産的な仕事に就くことで中間所得層が出てくる。それによって我々のブランドドラッグを購入できる力を持っていただく。将来市場に対する長期投資だと考えている」

 

塩野義製薬の手代木社長(左)とエーザイの内藤社長(6月1日の記者会見で)
塩野義製薬の手代木社長(左)とエーザイの内藤社長(6月1日の記者会見で)

 

アジアやアフリカは今後、爆発的な人口増加が予想されており、製薬企業にとっては数少ない、大きな成長が期待できる市場です。「開発途上にあるアジア・アフリカの国の人々が健康になることによって、経済の支え手となり、社会の活性化にもつながる。ここに新たな市場が生まれるのであれば、我々のような成熟した国家が途上国の健康問題に取り組むことは非常に重要なことだ」。手代木氏も活動の意義をこう強調します。

 

「デリバリー戦略を構築」

2018年度からの5年間の活動で大きなテーマとなるのが、医薬品へのアクセスの問題です。世界では全人口の7人に2人以上が適切な医療を受けられていないと言われています。価格の問題はもちろん、教育や医療インフラ、医療制度、サプライチェーンなど、さまざまな要因が医薬品へのアクセスを阻んでいます。

 

スリングスビー氏は会見で「今後はこれまで投資してきた製品開発をさらに加速させることと、製品をいかに届けるか、つまりデリバリー戦略をきちんと構築していきたい」と話しました。世界保健機関(WHO)や国連開発計画(UNDP)、国際協力機構(JICA)、国連児童基金(UNICEF)といった国際機関との連携も視野に、アクセスと供給の問題解決のためのパートナーシップ構築を目指します。

 

「この数年間で日本国内における政府、企業、アカデミアの姿勢は劇的に変化してきた。このモメンタムを1回限りではなく、継続していくことが、日本のリーダーシップ、ひいては国際的なプレゼンスの向上につながっていく」と手代木氏は話します。日本発のイノベーションで途上国に蔓延する感染症を制圧する――。壮大な目標に向かって、GHITファンドの挑戦は続きます。

 

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