急速な成長を遂げてきたCSO業界が転換点に立たされています。
背景にあるのは、クライアントである製薬企業を取り巻く環境の変化。MR数が全体として減少に向かっていく中、CSOの本丸であるMR派遣・MR業務受託のビジネスも成長に翳りが見え始めています。
CSOビジネスはこれからどう変わっていくのでしょうか。業界最大手であるクインタイルズ・トランスナショナル・ジャパンIES(Integrated Engagement Services)事業本部の松本大輔副本部長に聞きました。
(聞き手・前田雄樹)
「領域と機能に広がり」
CSOを活用する製薬企業は年々増え続けています。日本CSO協会の調査によると、2009年に1769人だったコントラクトMRは、16年には3882人まで増加。活用企業数も52社から103社に拡大しました。
欠員の補充や新薬発売時の一時的な増員など“頭数”の側面が強かったCSOのビジネスも多様化。専門MRやMSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)など専門性の高い人材へのニーズが高まり、営業所単位での一括請負やマーケティング支援などサービスの幅も広がりました。「人のヘッドカウントが中心だったビジネスから、『領域』と『機能』がぐっと広がってきている」。松本さんはこう話します。
「まず領域が変わってきた。ちょっと前までは、オンコロジーや中枢神経系はCSOでは無理でしょうと言われてきたと思うんですが、最近ではそういったスペシフィックなところもやらせてもらえるようになりました。
もう1つは機能です。MSLやエデュケーショナルナース※など、新たな担い手が出てきた。さらに、営業所長から全部チームをウチでやりますとか、事業部1つを丸ごと任せられるプロジェクトとかですね。やれることが増えてきて、製薬企業から我々に任せられる量も増えてきています。ニーズも多様になってきていると思いますね」
「内資企業で人員削減が加速する」
製薬企業を取り巻く環境は大きな変革の時期にあります。プライマリー領域の大型製品が減り、がんなど開発が難しく専門性も高い領域の製品が増加。研究開発費が膨らむ一方で、薬価に対する圧力は高まり、収益性も低下しています。
「製薬企業は今、利益率をものすごく考え出しています。もうブロックバスターはない、大きな売り上げが望めないとなると、利益率を上げるためには人手が不要になるという格好にどんどんなってくると思いますね。薬価改定や特許切れで、これから3年ほどの間に特に内資系企業の人員削減が加速すると踏んでいます。
そうなってくると、CSOにアウトソーシングして必要なくなった時に契約で切るという形にしておかないと、リスクを抱え込むことになる。いきなり人員を減らすことはできないので、新卒採用分を先にアウトソースしてしまう。こういったことを提案するのが時代にマッチしているのではないかと思います」
「MRは4万人くらいに。コントラクトも頭打ち」
環境の変化は、MRの数にも表れ始めています。MR認定センターの「MR白書」によれば、国内のMR数は2013年度の6万5752人をピークに、2年連続で減少。15年度は6万4135人と13年度に比べて1500人以上減りました。本格的な減少時代に入った――。そんな声も聞かれます。
「トータルのMR数を医師数で割り算した時に、やはり日本は多すぎる。プライマリーケアの新薬が減り、セカンダリーケアと呼ばれるようなオンコロジーや中枢神経系といった専門性の高い薬が増えていますので、数としてはいらなくなるんだろうなと思います。だから、ある程度のところまでは下がると思いますね。
今の延長線上なら、5、6年くらい、もうちょっとかかるかもしれないですけど、4万人くらいまで減るのなかって思ったりもします」
MR数減少の波は当然、CSO業界にも影響します。事実、コントラクトMRの数は14年に4148人と過去最高に達したものの、15年には3835人に減少。16年も前年比でわずか1.2%の伸びにとどまりました。
「これからは僕ら(コントラクトMR)の数もそんなにドラスティックに増えることはないと思います。分母が下がるので、占める割合は増えていくと。多分、こういう構図です。CSOはこれからもある程度は定着すると思いますが、コンサバな状態が続くと思いますね。
ただ、ドラスティックなことが起こる可能性もある。やはりメーカーの使命はいいモノを出すこと。『全てアウトソーシングのほうが理屈がかなうんじゃないですか』と言う(製薬企業の)シニアマネジメントの方もおられるんですよ。そうなれば、激しい方向に動く可能性もなくなはいと思いますよ」
「地域包括ケアに無限大の市場。新たな“担い手”提供」
CSOの急速な成長を支えてきたコントラクトMRの増加にブレーキがかかるとすれば、これから先CSOはどうやって成長していくのでしょうか。松本さんは、国が整備を進める地域包括ケアにそのカギがあると話します。
「まずマーケットの捉え方ですが、今の僕らの顧客の97%はメーカーなので(抱える人材は)MRが大多数。ところが、ホームケアとか介護の世界になってくると分母は途方もなく大きくなっちゃって、6万人なんて話じゃないと思うんですよね。新たな医療の担い手が必要になるわけです。ここのリソースは山ほど必要になる。オポチュニティーは腐るほどある。
その時に、誰がどんな役割で価値を出しますかということ。MRとは違う新たな医療の担い手をたくさんつくって、こういうことが社会に必要なんだから、こういう人を提供しますというプロバイダーになれればいいと思ってるんです。だから、パイは無限大かなと、逆に思いますね」
「地域の課題を見つけ、解決する」
クインタイルズではすでに、在宅医療や地域連携の仕組みづくりを通じて調剤薬局の経営を支援する「ファーマシービジネス」を立ち上げました。クインタイルズが考える「新たな医療の担い手」とは、こうしたコーディネーターのような活動を行う人材で、MRを経験した人に担って欲しい役割だといいます。「地域医療連携のサポート」は、従来からMRに求められる役割だと指摘されてきました。確かに、特定製品を持たないCSOには馴染みやすいと言えます。
「(地域包括ケアの)中に入って、どこに課題があり何をやればどう変わるかというのを設定すること。これがサービスになると思います。
例えばですよ。医師が在宅の患者のところを回ってるんだけど、1人にかける診療は1分とか3分で『じゃあまた元気でね』とやっているだけですと。それをあらかじめナースがやることで『この人は緊急度が高いです』とか『この人は検査した方がいいです』とか設定すれば、時間のアロケーションが変わるじゃないですか。多分、こういったことをグルっと変えてしまうことがすごく重要で。
残薬問題もそう。社会の要請からすると変えなければいけないところだと思うんですが、メーカーでは難しい部分もある。
その時に、それをトータルでプロジェクトマネジメントするのは誰ですかという話なんですね。MRは分析もある程度していますし、医療のことを幅広く薄く知っています。こういう人たちっていうのはものすごく価値が出やすいと思うんですよ。そういう人たちに、新しい役割を担って欲しいですよね。新しい担い手がいると、すごくドラスティックに変わっちゃうんで。だから、MRだけじゃないんですよね」
「MSLのアウトソーシングは増える」
松本さんがCSOが成長するためのもう1つのカギとして期待するのがMSLです。一方でMRは変化を迫られると指摘します。
「MSLのアウトソーシングは増やしていきたいですよね。製薬企業からはCSOではオンコロジーはできないだろう、MSLは無理だろうと言われてきましたが、ちょっと広くマーケットを見ると、例えば財務にしろ何にしろ、専門性が高いものほどアウトソーシングされているんですね。医療の世界も専門性が高いものがどんどんアウトソーシングされるようになるべきだと思います。
CSOのMSLは多くのプロジェクトを経験することで幅が広がり、経験値が増えます。当然そこは価値が上がってもいいはずです。データをきちんと扱える、それをもとにKOL(キー・オピニオン・リーダー)ときちんと話せる、ステークホルダーときちんと話ができる。各社でMSLの定義は違いますが、これらがビジネスマンとして成り立つ人だと思います。
一方で、MRは質の時代になると思いますね。ある企業が優秀なMRを『スーパーMR』と呼んでいるのと、オンコロジー専門MRやMSLが必要と言っているのと、これ全部同じことを言っているんですよね。要するに今のMRではダメだっていうことです。MRが全てダメとは言いません。価値としては絶対あります。ただ、MRも変わっていかないといけない」
「人出しにとどまっているCSOは厳しい」
製薬企業を取り巻く環境の変化を受けてCSOのビジネスは転換点に差し掛かっています。MR白書によれば、国内でCSO事業を展開している企業は16社。メーカー同様「多すぎる」との指摘もあり、CSO業界にも淘汰の波が押し寄せるかもしれません。
「いろんなソリューションを提供するのがCSOの価値だと思うんですよ。なので、人出しに終わっているCSOでは厳しいと思います。
ただ、僕らも偉そうなことを言えるわけではありません。どうでしょう、ここ3年くらいで各CSOも色を出されてきました。薬局チェーンとくっついて調剤の方に強くなったところもありますし、ヨーロッパのフットプリントを使ってマーケティングをうまく展開されているところもありますし、研修をレバレッジにしている会社もあります。色が出てきていると思うんですよね。そういう競争をするべきだと思います。
人出しという話だとこれからは価値が出ません。でも、その周辺に挑戦していくことでいろんな価値が出てくると思います。どんどん違うものを提案し続けるという姿勢を失うようなら、もうサービス業から降りた方がいいというのが直感ですね」
※エデュケーショナルナース…医療従事者に対して副作用マネジメントの情報提供などを行う、臨床経験を持つ看護師。