協和発酵キリンが、2019年に特許切れを迎える主力の腎性貧血治療薬「ネスプ」のオーソライズド・ジェネリックを開発することを正式に決定しました。発売されれば、バイオ医薬品のオーソライズド・ジェネリックとしては国内初となります。
“オーソライズド・バイオシミラー”とも言うべきバイオ版のオーソライズド・ジェネリック。バイオシミラーは先行品との同等性・同質性が普及の大きなネックとなっているだけに、バイオ版オーソライズド・ジェネリックが発売されれば競合品を駆逐してしまうとの見方も。協和発酵キリンの今回の決断は、バイオシミラー市場全体に大きなインパクトを与えそうです。
「ネスプ」AG展開へ新会社を設立
協和発酵キリンは1月31日、子会社「協和キリンフロンティア」を設立し、主力の腎性貧血治療薬「ネスプ」のオーソライズド・ジェネリック(AG)の承認取得に向けた取り組みを進めると発表しました。
ちょうど1年前に開かれた中期経営計画の説明会で、「ネスプ」のAG開発を検討する考えを表明していた同社の花井陳雄社長。2月1日の2016年12月期決算説明会では「医療を取り巻く環境変化、あるいはニーズの多様化ということで、社会の要請にきちんと応えていくということでプロジェクトを進めている」とし、「協和発酵キリングループの中で別会社を作ったということで、一歩、取り組みが進んだと考えていただいていい」と述べました。
「ネスプ」は協和発酵キリンにとって最大の主力品。16年は563億円(前年比2%減)を売り上げ、17年は572億円(同2%増)を見込みます。しかし、その「ネスプ」も19年には特許切れを迎え、複数のバイオシミラーが参入してくる見通しです。
明らかになっているだけでも、現在、JCRファーマとキッセイ薬品工業、ジーンテクノサイエンスと三和化学研究所がそれぞれ共同開発するバイオシミラーが臨床第3相(P3)試験を実施中。日医工や富士製薬工業も開発に名乗りを上げています。
同等性・同質性に懸念なし 圧倒的な競争優位性
AGとは、先発医薬品の特許権を持つ会社から許諾を受けた別の会社が製造販売する後発医薬品のこと。▽原料や添加物、製造方法が先発品と同じ▽特許権の許諾を受けているため、先発品の特許切れ前に発売できる――などが特徴です。先発品メーカーの特許切れ対策として、日本でもここ数年、急速に広がりを見せています。
協和発酵キリンが今回開発を決めた「ネスプ」は、そのバイオ医薬品版。“オーソライズド・バイオシミラー”とも呼ぶべきバイオAGは、承認されれば国内初となります。
国内では現在、5成分10品目のバイオシミラーが販売されていますが、低分子の後発品ほど普及が進んでいないのが現状。その大きな要因が、先行品との同等性・同質性に対する根強い懸念です。
バイオ医薬品は構造が不均一で複雑なため、低分子の後発品のように「同一性」を示すことができません。そこでバイオシミラーは「同等性・同質性」(先行品との品質特性の類似性が高く、品質特性に違いがあっても有効性・安全性に影響を及ぼさないこと)で評価されますが、品質特性や有効性・安全性が必ずしも先行品と同一でないため、使用に慎重な医師も少なくありません。
「ネスプ」のバイオAGの場合、先行品を製造販売する協和発酵キリングループの会社が、添加物も含めて先行品と同じ原料、同じ方法で製造するため、一般的なバイオシミラーに対して医師が抱くこうした懸念は払拭されるでしょう。
低分子の世界では、多くのAGがシェアの半分以上を握っており、特許切れ前に発売できるメリットも含め、その競争優位性はすでに実証済みです。同等性・同質性への懸念が普及の足かせとなっているバイオシミラーならなおさら。「同じグループの企業が同じ原料、同じ方法で製造」というAGのメリットは、大きな強みとなります。バイオAGの圧倒的な優位性は明白で、競合品は太刀打ちできずに駆逐されてしまうのではないか、といった見方もあります。
「駆逐するつもりでやっているのではない」
当の協和発酵キリンは「バイオシミラーにはそれぞれ特徴がある。それぞれの会社がそれぞれの特徴を生かせば、それぞれのシェアをとれる。何もバイオシミラーを駆逐するというような考えでやっているわけではない」(花井社長)と言いますが、競合他社にとって脅威であることは間違いありません。
バイオシミラーは臨床試験など多額の投資が必要で、事業のリスクは低分子の後発品に比べると格段に高くなります。バイオAGが出てくるとなれば、ただでさえ不確実な投資回収の見通しがさらに低下するのは明らか。業界関係者からは「AGが出ればそれ以外のバイオシミラーは壊滅する」といった声まで聞かれます。各社の開発戦略、ひいては事業戦略にまで影響を及ぼしかねません。
もちろん、バイオAGの登場でバイオシミラーへの関心や認知度が高まり、普及の弾みとなれば、市場全体にプラスの影響を与える可能性もあります。いずれにしても“バイオ版オーソライズド・ジェネリック”には、低分子のそれとは比較にならないほどの破壊力がありそうです。