第一三共が、がん領域への注力を鮮明に打ち出しました。
3月31日に発表した新たな中期経営計画では、2025年のビジョンに「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」を掲げ、「2025年度に中核事業として3000億円規模の売上高を目指す」と宣言しました。
年間2800億円余りを稼ぎ出すARBオルメサルタンは、2016年から順次、主要国で特許切れを迎えます。最主力品の特許切れを乗り越え、再び成長軌道を取り戻せるか。それは、がん事業の成否にかかっています。
パテントクリフ「完全には克服できない」
「本来ならもっと高い売り上げと利益を実現すべきだが、やはりパテントクリフを完全に克服するということにはならない。それが今回お示しした数字の姿だ」
中山譲治社長は3月31日の記者会見で、新たな中期経営計画についてこんな風に述べました。「パテントクリフを完全に克服できるのかというと、できていない」。新中計では、既存製品でオルメサルタンの減収を補おうとしていますが、それでは穴を埋め切れないと率直に認めたのです。
今回の中計は、品質問題で揺れたインド・ランバクシーの売却により、2013~2017年度の前回中計を見直す形で策定されました。ランバクシー買収で描いた“ハイブリッドビジネス”に見切りをつけ、ここ数年1兆円を目前に足踏み状態の業績を持続的に成長させる道筋を描きました。
17年度に業績落ち込み、再浮上へ「がん」に注力
新中計の最大の課題は、最主力品のARBオルメサルタンの特許切れです。2015年度に2840億円の売り上げを見込むオルメサルタンは、2016年の米国を皮切りに順次、主要国での特許が切れます。
新中計では、特許切れからの売り上げ回復策として
▽抗凝固薬エドキサバンの成長
▽国内主力製品の成長
▽鉄注射剤が好調な米子会社ルイトポルドの成長
の3つを打ち出しました。それでも2017年度には15年度予想と比べて売上高は400億円、営業利益は300億円のマイナスとなる見通しとなっています。
第一三共の新中計は、既存製品・既存事業の成長で特許切れの影響を抑えながら、新たな中核事業を育て、持続的な成長につなげようというシナリオです。2017年度には一旦は落ち込む業績も、最終年度の20年度には売上高1兆1000億円、営業利益1650億円まで伸ばす計画。そこで重要となるのが、新たな中核事業と位置付ける、がん事業です。
がん事業に最優先で投資
がん事業は、中計最終年度の2020年度には400億円以上の売り上げを立てて事業基盤を確立。25年度には3000億円規模の事業に育成したい考えです。
第一三共の後期開発パイプラインにあるがん領域の新薬候補は、
▽キザルチニブ(急性骨髄性白血病)
▽チバンチニブ(肝細胞がん)
▽ペキシダルチニブ(腱滑膜巨細胞腫)
▽パトリツマブ(非小細胞肺がん、頭頚部がん)
の4品目。キザルチニブとペキシダルチニブは1000億円、パトリツマブは500億円、チバンチニブは300億円規模の売り上げが期待できるといいます。まずは2020年度までにこれら4品目を確実に発売することで、がん事業の立ち上げを目指します。
中計期間中に計画する5000億円の事業開発投資は、がん事業に優先的に配分します。現在、開発初期段階にある自社パイプラインの開発を進めるとともに、外部資源の獲得によって製品・開発品のラインナップを充実させたい考えです。
中山社長は「パイプラインと製品を獲得したい。できるだけ早く市場に出せるものを獲って、がんの分野での経験、感触を早くつかみたい」と話しています。
出遅れ感は否めないが…
今回、がん事業に注力する姿勢を示した第一三共ですが、出遅れ感は否めません。
日本企業に限って見ても、武田薬品工業のがん領域はすでに3000億円を超えていますし、アステラス製薬の前立腺がん治療薬「イクスタンジ」はグローバルで2500億円を突破する勢い。欧米企業と比べるとその差はさらに大きく、追いつくのは容易ではありません。
「確かに多くの企業が参画して激しい競争がなされているが、患者はまだ満足していない」。それでも中山社長は会見で、がん領域にはまだ十分勝機があると強調しました。
「そういう(患者が満足していない)スペースが非常に大きく、かつ、自信を持っている先端技術の応用ができる分野としては魅力的。遅れていっても活躍できる分野はある」と自信を見せています。
開発のスピードアップが課題に
第一三共は2005年の合併以来、重要テーマの一つとしてがん領域に取り組んできました。しかし、まだその成果を手にすることはできていません。
中山社長は「がん事業の立ち上げは道半ば」と語り、「統合当初から大事なテーマとしてやってきたが、その割にはなかなか結果に至らなかった」と反省を口にしました。
「開発スピードをもっと上げる必要があった。P3にある品目をもっと多くできたのではないかという気がある」。中山社長はこれまでのがんへの取り組みをこう振り返り、がん事業立ち上げにあたっての課題について「開発にあがってからのスピードやアライアンスの獲り方は改善していかなければならない」と語りました。
研究開発組織を再編
研究開発のスピードアップに向けては、すでに手を打ちました。この4月に、がん領域の研究組織と開発組織を一体化させ、「オンコロジーRDユニット」をグローバル研究開発部門に新設。そのトップには、英アストラゼネカの元抗がん剤開発責任者を招聘しました。組織体制を一新し、開発を加速化させます。
C型肝炎治療薬「ソバルディ」「ハーボニー」の例を挙げるまでもなく、最近の医薬品市場では、従来の標準治療を大きく変える医薬品が大型化。一方、限られた創薬標的をめぐる競争は激しさを増しており、開発やパイプライン・製品の獲得にはこれまで以上にスピード感が求められています。
第一三共が今回の中計で掲げたテーマは“Transformation”。「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」へと、スピーディーに変貌を遂げることができるのでしょうか。成長軌道への回帰のカギを握るだけに、いよいよ成果を出さなければなりません。