英国のEU(欧州連合)離脱問題、いわゆる「Brexit(ブレグジット)」が、製薬業界にも影を落としています。欧州製薬団体連合会は、英国のEU離脱が製薬業界に与える影響を懸念し、残留を訴える声明を発表しました。
英国が離脱を選択すれば、その波紋は世界中の製薬企業のビジネスに幅広く及ぶと予想されます。拠点の配置を含め、ビジネスの見直しを迫られるかもしれません。
「残留が最善の利益」
「英国がEUに残留することが、英国と欧州の製薬産業の最善の利益であると信じている」
英国のキャメロン首相がEU離脱の是非を問う国民投票を6月に行うと表明したことを受け、欧州製薬団体連合会(EFPIA)は2月下旬、英国のEU残留を訴える声明を発表しました。
EFPIAは声明で「英国のEU離脱の可能性をめぐり、欧州の製薬企業は著しい不確実性に直面している」と指摘。欧州医薬品庁(EMA)の立場や規制、資金調達、雇用などに影響を及ぼすと懸念を示しています。
EMAが移転?規制枠組みに影響?
英国のEU離脱をめぐり、製薬業界が大きな関心を寄せているのがEMAの行方。承認審査をはじめ、EU圏の薬事規制を統括するEMAは、本部をロンドンに置いています。仮に離脱が現実のものとなれば、EMAは別のEU加盟国に移転せざるをえません。
EU圏の薬事規制は、EMAを中心に加盟各国の連携によって成り立っています。英国がEUから離脱した場合、欧州の薬事規制の枠組み自体も変化を迫られる可能性があります。
EUでは、EMAが販売承認の審査を一括して行い、承認を取得すればEUの全加盟国で販売が可能となるのが一般的。これとは別に、ある加盟国での承認をほかの加盟国に適用できる仕組みもあります。
EMAは承認審査以外にも、市販後の医薬品の安全性評価やオーファンドラッグの指定、各種ガイダンスの策定といった役割も担っています。副作用報告や臨床試験の監督、メーカーへの査察などは、加盟各国間で情報交換をしながら連携して行っています。
規制枠組みには留まる可能性も
英国がEUからの離脱を選択すれば、こうしたEUの薬事規制の枠組みからも離脱する可能性があります。日米欧の3極を中心に薬事規制の調和を図るICH(医薬品規制調和国際会議)にも影響が出るかもしれません。
離脱後に英国が独自の薬事規制を敷くことになれば、製薬企業はEMAとは別に、英国当局と個別に対応する必要が出てきます。申請に求められる臨床試験やデータなどにも違いが出てくる可能性があり、製薬企業の負担は増します。
ただ、EUからの離脱が即、薬事規制からの離脱につながるとも限りません。
現在のEUの薬事規制には、EU加盟国にアイスランドとリヒテンシュタイン、ノルウェーを加えた欧州経済領域(EEA)の31カ国が参加しています。英国も貿易協定の枠組みなどを通じて、EUの薬事規制に留まる可能性もあります。
欧州事業拠点の配置見直し?
日本の製薬企業の中には、武田薬品工業やアステラス製薬、エーザイなど、欧州ビジネスの統括拠点を英国に置いている企業が少なくありません。英国のEU離脱が現実味を帯びてくれば、事業拠点の見直しを迫られることになるかもしれません。
EMA移転で薄れる英国拠点の意義
製薬企業が英国に欧州事業の拠点を置く最大のメリットは、規制当局への対応にあります。規制当局との密なコミュニケーションは、スムーズな承認取得に欠かせません。このため、多くの企業がEMAの本部がある英国に欧州事業の拠点を置いています。
しかし、英国がEUから離脱すれば、英国を欧州ビジネスの拠点とする意義は薄れます。EMAがほかのEU加盟国に移転することになるからです。地理的特性や言語、政治的安定性などビジネスを行う上でプラス面も多い英国ですが、EMAの移転に合わせて各社が拠点の見直しに動く可能性があります。
国民投票は6月23日
「英国がEUに残留することが、英国や欧州の自然科学分野にとって最善の利益であると確信している」。EFPIAは2月に出した声明で、離脱の是非は英国民の判断としながらも、残留を強く呼びかけました。
英国が離脱を選択すれば、英国やEUだけでなく、グローバルで製薬産業に影響を与えるでしょう。注目の国民投票は、6月23日に行われます。