
薬価引き下げに向けた大統領令に署名したトランプ氏。右はケネディ厚生長官(ロイター)
[ロイター]ドナルド・トランプ米大統領は5月12日、処方薬の価格を他国と同水準に引き下げるよう指示する大統領令に署名した。
ホワイトハウス当局者によると、政府は来月中に製薬会社に価格目標を示し、目標達成に向けて「顕著な進展」を示さない場合は、6カ月以内にさらなる措置を講じるという。
トランプ氏による薬価引き下げについて、押さえておきたいポイントをまとめた。
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処方薬の価格に対するトランプ氏の立場は?
トランプ氏は長年にわたり、米国内の医薬品価格をめぐって製薬業界を厳しく批判してきた。また、他の先進国が米国のイノベーションに「ただ乗り」していると非難してきた。
最初の大統領任期中の2017年、トランプ氏は製薬業界が政府に請求する処方薬の価格設定について「罰せられずに済んでいる」と非難。国際基準価格制度を提案したが、これは20年に裁判所に阻止された。
2024年の大統領選でトランプ氏は、米国人は医薬品に対して他国と比べて高すぎる金額を払っていると指摘し、対策を講じると約束した。12日には、関税を課すことで他国との価格を「平等化」したいと述べた。
米国の医薬品価格は高いのか?
アメリカは世界で最も処方薬に高い費用を支払っており、他の先進国の3倍近くになることもある。
たとえば、ブリストル・マイヤーズスクイブとファイザーの抗凝血薬「エリキュース」の米国での定価は1カ月分で606ドル。民主党のバイデン前大統領は、メディケアが給付する同薬の価格を295ドルまで引き下げたが、スウェーデンの114ドル、日本の20ドルと比べると依然として高い。
トランプ氏はこの問題にどう対処するつもりなのか?
1月の就任以来、トランプ氏はこの不平等を終わらせたいと繰り返し表明。今月11日には、自身が所有するSNS「Truth Social」に最恵国待遇価格設定を推進するための大統領令に署名すると投稿した。
国際基準価格設定とも呼ばれるこの政策は、米国と外国の医薬品価格の差を縮小することを目指している。
12日にトランプ氏が署名した大統領令は、製薬業界が想定していたものとは異なっていた。ロビイスト筋は12日の大統領令署名に先立ち、ロイター通信に対して「最恵国待遇価格設定はメディケア加入者向けの医薬品に適用されると予想していた」と語っていた。しかし、大統領令はすべての医薬品に適用されるようだ。
これとは別に、トランプ氏は製薬企業に米国での製造業の拡大を強く求めてきた。トランプ政権は、医薬品製造の海外への依存が国家安全保障を脅かすという理由で、医薬品輸入に関する調査を実施し、関税を課すことを目指している。
これまでの価格引き下げの取り組みとどう違うのか?
バイデン前大統領のインフレ抑制法は、メディケアで使われる最も高額な医薬品の価格について、政府に企業と交渉することを認めている。
実際に交渉が行われた最初の10の処方薬の価格は、他の4つの高所得国で製薬会社が合意した価格と比べて平均2倍以上高く、場合によっては5倍にも上る。
製薬業界の反応は?
製薬業界は、世界最大の医薬品市場である米国での薬価引き下げに強く反発している。
業界関係者2人は先月、ロイター通信に対し、薬価の引き下げは輸入医薬品への関税をはじめとする他の政策より業界にとって懸念材料だと語った。
米国研究製薬工業協会(PhRMA)は「米国人の負担を軽減するためには、米国の価格が高い真の理由、すなわち、諸外国が正当な負担を負っていないこと、そして仲介業者が価格をつり上げていることに対処する必要がある」と述べた。
米国のバイオテクノロジー企業を代表する業界団体BIOのジョン・クローリーCEOは声明で、「最恵国待遇価格は、米国の中小バイオテクノロジー企業に壊滅的な打撃を与える重大な欠陥のある提案だ」と述べた。
大統領令を実行する上での課題は?
専門家は、▽米国で販売されている多くの医薬品が海外では入手できない▽一部の国では医薬品の価格が公表されていない▽海外では価格交渉に何年もかかる――ことなどから、他国の価格を参照することは複雑だと指摘している。
米国は、政府と民間の医療保険制度の両方で、医薬品の価格交渉を民間部門に依存している。
アナリストらは、今回の広範な大統領令の実行は困難だと指摘している。法律専門家によると、この大統領令は米国法が認める範囲を超えており、法的課題に直面する可能性が高いという。
(取材:Maggie Fick、編集:Josephine, Mason/Caroline Humer/Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)