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第一三共、5ADC開発の現在地…エンハーツは「史上最大の乳がん治療薬に」2つ目のダトロウェイ承認

更新日

亀田真由

開発後期段階に5つのADCをそろえる第一三共。2024年度に5400億円の売り上げを見込む「エンハーツ」は、早期治療ラインへの適応拡大で「史上最大の乳がん治療薬」を目指します。2番目のADC「ダトロウェイ」も日本で今月発売。同社のADCの開発状況をまとめました。

 

 

エンハーツ 24年度は5400億円の販売予想

この5年で市場規模が4倍以上に拡大した抗体薬物複合体(ADC)。その成長を牽引する薬剤の1つが、第一三共の主力製品「エンハーツ」(一般名・トラスツズマブ デルクステカン)です。2019年の発売以降、米国やドイツ、イタリア、フランスといった欧州主要国を中心に売り上げを伸ばしており、2024年度の売上収益(提携先の英アストラゼネカからの共同販促費を含む)は約5400億円を見込んでいます。

 

【エンハーツ売上収益の推移】〈年度/米国/欧州/日本/ASCA〉19年度|32/0/0/0|20年度/257/0/44/0|21年度/454/90/96/14|22年度/1446/371/117/142|23年度/2255/1019/239/446|24年度/2938/1478/310/673|単位:億円

 

エンハーツの売り上げの8割以上は転移性乳がん。「HER2陽性乳がん2次治療」や「化学療法既治療のHER2低発現乳がん」の適応で順調に販売を拡大しており、プロモーションによるさらなる拡大も期待しています。

 

さらに今年1月には、米国で「内分泌療法後の化学療法未治療のHR陽性・HER2低発現またはHER2超低発現の転移性乳がん」に適応拡大しました。HER2超低発現乳がんに対する標的治療薬は初。日本と欧州でも今年9月までの承認取得が見込まれます。

 

第一三共グローバルオンコロジービジネスヘッドのケン・ケラー氏は、今年2月の説明会で「エンハーツを史上最大の乳がんの治療薬にする」と宣言。向こう2年でより早期の治療ラインに適応を広げていく方針で、HER2陽性乳がんの周術期から転移後の1次治療を対象に、それぞれ標準治療を対照群とする臨床第3相(P3)試験を進行中です。いずれも25年度中には試験結果が得られる見通しで、26年までの承認を見込みます。

 

【エンハーツ HER2陽性乳がん早期治療ラインの開発状況】周術期/ネオアジュバント/"P3試験【25年上半期TLR】対象:高リスク患者。エンハーツ±THP VS. ddAC+THP|アジュバント/P3試験【25年度TLR】対象:残存浸潤性乳がん患者。エンハーツ VS. T-DM1|転移性/1次治療P3試験【25年度TLR】エンハーツ±ペルツズマブ VS.THP|2次治療以降/承認|第一三共のIR資料をもとに作成。TLR=トップライン結果。THP=パクリタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ。ddAC=ドキソルビシン+シクロホスファミド。T-DM1=トラスツズマブ エムタンシン

 

乳がんではHER2低発現での浸透や早期ラインへの適応拡大、胃がんでは2次治療への適応拡大などで、エンハーツの対象患者数は26年までに米国で約5万人、欧州で約3万7000人に達する見通し。24年比で倍増となります。

 

ダトロウェイ 本丸の肺がんの承認は7月に

第一三共は現在、エンハーツを含む5つのADCの後期開発を進めています。いずれもトポイソメラーゼI阻害薬のデルクステカンをペイロードとし、エンハーツと抗TROP2 ADCダトポタマブ デルクステカンはアストラゼネカと共同開発。それ以外の3つ(抗HER3 ADCパトリツマブ デルクステカン、抗B7-H3 ADCイフィナタマブ デルクステカン、抗CDH6 ADCのraludotatug deruxtecan)は米メルクとの提携で開発を進めています。

 

ダトポタマブ デルクステカンは今年、「ダトロウェイ」の製品名で米国と日本で発売。適応は「化学療法歴のあるHR陽性・HER2陰性の転移性乳がん」で、エンハーツでカバーできていないHER2陰性(IHC0)の患者を中心に使用が広がることを期待しています。

 

 

一方、ダトロウェイが本丸とするのは非小細胞肺がん(NSCLC)。米国で「EGFR遺伝子変異を有する前治療歴のある局所進行・転移性NSCLC」の適応で申請しており、今年7月12日までに承認の可否が判断される予定です。迅速承認の取得を目指すこの申請は、EGFR変異陽性NSCLCを対象に行ったP2試験「TROPION-Lung05」の結果をベースに実施。NSCLCの2~3次治療を対象としたP3試験「TROPION-Lung01」と、進行性固形がん対象のP1試験のデータも含んでいます。

 

第一三共は当初、主要評価項目の1つである無増悪生存期間(PFS)の有意な延長を示したTROPION-Lung01の結果をもとに、非扁平上皮NSCLCの適応で申請。しかし、もう1つの主要評価項目である全生存期間(OS)では有意差を示せず、結果の解釈をめぐってFDA(食品医薬品局)と合意することができませんでした。そこで同社は申請を取り下げ、新たな適応での申請に切り替えました。

 

これにより、当初の想定より対象患者は少なくなる見込みですが、標準治療のオシメルチニブ(製品名・タグリッソ)による治療後でも効果が見込まれており、アンメットニーズを満たす製品として自信を見せています。エンハーツと同様に、早期ラインの開拓に向けた臨床試験も活発です。

 

設備投資6000億円 5000万本の需要に対応

抗HER3 ADCパトリツマブ デルクステカンは、NSCLCを対象に24年の米国市場投入を予定していましたが、製造委託先の課題で承認が先送りとなりました。FDAとの協議のもとでCMCの課題は解決に向かっているといい、再申請も視野に入ってきています。

 

このほか、抗B7-H3 ADCイフィナタマブ デルクステカンは小細胞肺がん、抗CDH6 ADCのraludotatug deruxtecanはプラチナ抵抗性卵巣がんでそれぞれ開発が進展。イフィナタマブ デルクステカンの小細胞肺がんのP3試験結果は来年9月までに得られる見通しで、食道がんでも近くピボタル試験が開始される見込みです。

 

早期のパイプラインには、さらに2つのADCが控えています。P1/2試験の段階にあるのは、デルクステカンをペイロードとする6つ目のADC、抗TA-MUC1 ADC。今年1月に抗体部分に使うgatipotuzumabの知的財産を開発元の独Glycotopeから約200億円で取得しました。P1試験を行っている抗CLDN6 ADCは、改変ピロロベンゾジアミンをペイロードに使っています。昨年11月には韓国企業とエンハーツの皮下注化に乗り出すことも明らかにしており、基盤固めにも余念はありません。

 

エンハーツの成長や海外大手との提携による開発の加速化に伴い、同社ADCへの需要は当初の想定を大きく上回る見通しとなっています。現時点でのピーク時の需要予測は年間5000万バイアルを超え、21年時点の予測と比べると約1.5倍に膨れ上がりました。

 

需要に対応するため、第一三共では日本の4工場(小名浜、館林、平塚、小田原)と米国(ニューオールバニー)、ドイツ、中国の各拠点でADCへの設備投資を実行または検討中。対CMOも含め、21~25年度の中計期間全体で約6000億円規模を投じて供給能力を確保する考えです。

 

あわせて、「原価改善はメディカルアクセス拡大の基盤」(柏瀬裕人テクノロジーユニット長)とし、スケールアップや抗体製造プロセスの最適化による生産性の向上にも注力。技術改善やバリューチェーン全体を担える専門人材の育成も含めて、開発の進展に見合うだけの供給能力を整備していく方針です。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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