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肥満症治療薬、市場競争火ぶた…ゼップバウンド19日薬価収載、処方は広がるか

更新日

穴迫励二

肥満症治療薬が日本でも販売競争の時代に突入します。日本イーライリリーの「ゼップバウンド」が3月19日に薬価収載され、先行する「ウゴービ」を追いかけます。普及のネックとなっている厳格な最適使用推進ガイドライン(GL)は緩和される可能性も指摘されており、医療保険財政とのバランスもにらみながら市場形成は新たな段階に入ります。

 

 

「最大の懸念はガイドライン」

GIP/GLP-1受容体作動薬のゼップバウンドは昨年12月27日に承認。薬価収載を経てリリーと田辺三菱製薬が共同販促します。肥満症はこれまで治療の選択肢が極めて限られていましたが、昨年2月にノボ ノルディスクファーマの「ウゴービ」が約30年振りの新薬として登場。海外での使用実績も背景に、専門医の処方意欲は高まってきました。

 

ただ、実際にはウゴービの普及ペースは極めて遅いようです。要因となっているのが、投与の要件を厳しく定めた厚生労働省の最適使用推進GL。GLでは、6カ月間の食事・栄養指導を行った上で投与することを規定しているほか、関連学会の専門医であるといった医師要件や施設要件が定められています。

 

そのため、医師は処方したくてもできない状態が続いているようです。琉球大大学院医学研究科の益崎裕章教授は、ノボが開いたウゴービの発売1周年記念会で講演し、「医師の最大の懸念はGLだった」と指摘。ゼップバウンドにも同様のGLが策定され、極めて低調な立ち上がりが想定されます。だた、益崎氏は「GLは広く使用できるよう書き替えが行われるのは間違いない」と見ており、今より処方しやすくなる可能性があります。

 

マンジャロと同一規格

ゼップバウンドをめぐっては、同一成分(チルゼパチド)である2型糖尿病治療薬「マンジャロ」の存在も考慮しなければなりません。両剤の規格は「2.5㎎」「5㎎」「7.5㎎」「10㎎」「12.5㎎」「15㎎」で同一。用法・用量もほぼ同じで、週1回2.5㎎から開始して漸増し、最大で15㎎まで増量できます。

 

ゼップバウンドの投与対象は、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかがあり、食事・運動療法を行っても十分な効果が得られない患者で、▽BMI27以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害がある▽BMI35以上――のいずれかに該当する患者。こうした基準を満たさない患者がゼップバウンドの処方を希望した場合、2型尿病の診断があればマンジャロの処方を受けられ、体重を減らすために使用することも考えられます。

 

肥満症の治療では、処方医が整形外科的疾患も含め、肥満症としての健康障害がどう改善しているかを評価することが必要です。益崎氏は、そうした視点を欠いて「HbA1cだけを追いかけるのは、(肥満症の薬物治療の)本筋とは違う」と指摘します。臨床現場での倫理的な対応も求められそうです。

 

治療介入のタイミングが課題に

処方しやすくなれば投与も広がりそうですが、そうなると医療保険財政との関係が無視できなくなります。保険診療での使い方については、東京大大学院薬学系研究科の五十嵐中特任准教授が「肥満症の疾病負担を介入によってどこまで減らせるのかは次のステップ」と指摘。その上で、認知症治療薬と同様に早く投与を始めるほどメリットが大きくなる半面、無秩序な使用は財政を圧迫するとし、「(処方の対象範囲が)大きいからこそ慎重に考えないといけない」と話しています。

 

益崎氏も中長期的な医療保険財政と患者の健康維持・QOLのバランスを考え、どの時点での介入が適正かという議論が避けられないと言います。「シミュレーションには人工知能によるビッグデータの解析が必要になるなど、さまざまなファクターが絡む。厚労省も学会もまったくの未体験ゾーン」(益崎氏)だけに、慎重な判断が必要になります。

 

ノボが今月6日に開催したインターナショナル・プレスブリーフィングで、カミラ・シルベスト上級副社長はGLP-1製剤を長期的に使用することで合併症や入院日数を減らすことが可能だとし、医療財政への負担が軽減できることを指摘。直接的な医療費と間接的に発生する生産性の低下や早期死亡などを含めた経済的コストは「何もしなければ(2060年には)世界のGDPに対して3%程度の影響が出る」と話しました。

 

セマグルチド、25年に世界売上高トップか

GLP-1製剤は世界の医薬品市場で急速に存在感を高めています。24年の売上高を見るとマンジャロが前年比124%増の115億ドル、ウゴービと同成分の糖尿病治療薬「オゼンピック」は26%増の1203億デンマーククローネ(DDK、現レートで176億ドル)でした。ウゴービは86%増の582DDK(85億ドル)で、同成分の経口の糖尿病治療薬「リベルサス」が24%増の233DDK(34億ドル)でした。

 

世界市場では抗がん剤「キイトルーダ」の295億ドルがトップですが、英調査会社エバリュエートによると25年はセマグルチド(ウゴービとオゼンピックの合計)が384億ドルに成長し、キイトルーダを抜くと予想。さらに、27年にはチルゼパチド(マンジャロとゼップバウンドの合計)が首位に立つと見ています。

 

【2025年の世界市場_売上高上位5製品の予想】セマグルチド/キイトルーダ/チルゼパチド/デュピクセント/スキリージ

 

米リリーは昨年12月、ゼップバウンドがウゴービとの直接比較試験で優位性を示したとの臨床試験結果を発表。それによると、ゼップバウンドは投与72週の体重減少率が20.2%で、ウゴービの13.7%と明確な差がつきました。副次的評価項目である25%以上の体重減少を達成した患者の割合でも、ゼップバウンドは31.6%でウゴービの16.1%を上回っています。

 

一方、ノボは今年、GLP-1とアミリンをターゲットとするカグリセマ(一般名)の米国承認が予想されます。臨床第3相試験のトップラインデータでは、22%の減量効果が示されました。対するリリーも経口剤オルフォルグリプロン(一般名)などの上市を控えています。エバリュエートは肥満症治療薬の世界市場を30年に820億ドルと見込んでいて、伸びしろは相当にありそうです。

 

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