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オムニチャネル化を阻む営業とマーケの「分断」|数字は語る―製薬営業・マーケティング

更新日

山下篤志:Veeva Japan コマーシャルストラテジー バイス・プレジデント

MRの削減、医師の働き方改革、医療機関による訪問規制、デジタルの浸透、マルチチャネル・オムニチャネル化…。変化する製薬企業の営業・マーケティングの「今」を象徴する数字の背景を読み解き、「これから」を考えます。

 

共有されない医療従事者とのエンゲージメント

【営業とマーケティングの間で同期されていない医療従事者とのエンゲージメントの割合】2024年1月~6月:65%※米国のデータ。出所:Veevaフィールドトレンドレポート

 

▼Veeva フィールドトレンドレポート:
https://www.veeva.com/jp/pharma-biotech-field-trends/

 

製薬業界でも特にここ数年、オムニチャネルの必要性が叫ばれるようになってきました。コロナ禍で多くの医療機関がMRの訪問を制限したこともあって、それ以降、製薬各社はデジタルを中心に医療従事者への情報提供チャネルを多様化させてきました。

 

前回もお話した通り、医師は時間的な制約の中で面談する製薬企業を絞り、面談にかける時間も減らしています。一方で、治療が複雑化し、専門的な薬が増える中、医学情報の量は増大しています。こうした状況で医師のニーズに応えていくには、さまざまなチャネルを効果的に連動させて情報提供していくことが必要ですが、取り組みはまだ十分ではありません。

 

Veevaの米国のデータによると、医療従事者とのエンゲージメントの65%は、営業とマーケティングの間で同期されていません。感覚的には日本も同じような状況です。これは、それぞれの機能がサイロ化し、活動が分断してしまっていることの表れだと考えています。マルチチャネルにはなっていても、オムニチャネルに向けてはまだまだ改善の余地があるというのが現状です。

 

下の図の通り、チャネル間の効果的な連携は成果(=処方)の向上をもたらします。逆に連携が取れていないと、複数のチャネルで同じ情報を重複して提供してしまうことになり、医師の信頼を失ってしまうことになりかねません。働き方改革もあって医師が情報収集に時間をとりにくくなる中、提供する情報の重複は避けないといけませんし、求めている情報を適切に提供していくことが必要です。

 

【チャネル間の連携は成果の向上をもたらす】MRとの面談後10日以内にデジタル広告に接触/処方の可能性が30%アップ/講演会後デジタル広告に接触/処方の可能性が25% アップ/MR訪問後ブランドのウェブサイトを訪問/処方の可能性が60%アップ|※米国 のデータ|※出所:フィールドトレンドレポート

 

チャネルをコンテクスチュアルに連動させる

重要なのは、医師のニーズに合わせてチャネルをコンテクスチュアル(状況やその背景事情に応じて)に連動させることです。

 

製薬企業の営業・マーケティングにおけるカスタマーセントリシティとは、カスタマージャーニーに沿った情報提供活動を行い、その上で医師の「いいな」「助かったな」という体験をいかに作れるかということだと考えています。では、医師はどんなときに「いいな」「助かったな」と感じるのか。患者と向き合う中でそこにかける労力がかなり削減されたとか、さまざまな治療選択肢の中から適切なものを選べて患者に喜んでもらえたとか、そういったことを感じたときではないでしょうか。本当の意味でのカスタマーエクスペリエンスとはそういったことであり、これをいかに上げていけるかがすごく大切です。

 

マーケティングの分野ではパーソナライゼーションが重要だとよく言われますが、パーソナライゼーションされたものをプッシュしていくやり方は、もはや違ってきているのではないかと個人的には感じています。医師の動きをとらえ、その時々のエクスペリエンスに応じた情報をオンデマンドに提供していくことが必要だと考えています。これを実現していくには、営業とマーケティング、さらにはメディカルが組織をまたいで情報を共有することが不可欠です。

 

生活習慣病領域のブロックバスターが中心だった時代は、マーケティングがコンテンツを作り、営業がデリバリーするという役割分担が機能していました。そうしたやり方はある意味シンプルでわかりやすく、それゆえ長く続いてきたわけですが、環境は大きく変化し、今までのやり方では通用しなくなってきています。

 

とはいえ、部門間連携というのは言うは易く行うは難しで、実際にやろうとすると、チェンジマネジメントにものすごく大きなエネルギーがいります。トップあるいはそれに近いポジションの人のアクションは当然必要ですが、それだけでうまくいくわけはなく、適切な人材を実務的な旗振り役に据えられるかが1つのポイントになります。

 

そう考えると、AIが話題になっている昨今の状況はすごくいい機会になると思っています。AIを効果的に使っていくには、データの蓄積、分析、人材などあらゆる点で強制的に部門間の垣根を取り除いていくことが必要になります。この波をうまくとらえ、営業・マーケティングの変革にも取り組むのがよいのではないでしょうか。

 

山下篤志(Veeva Japan コマーシャルストラテジー バイス・プレジデント)大学卒業後、システムエンジニアやITコンサルタントとしてヘルスケアなど様々な分野のプロジェクトに携わる。前職の製薬企業ではCRM導入プロジェクトをリードし、オムニチャネル促進にも尽力。製薬業界全体のDXに貢献したいとの思いから2022年にVeevaに入社し、製薬企業のコマーシャル部門の支援に取り組む。製薬業界とITの両分野に精通し、セミナー登壇やメディア寄稿も多数。

 

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