
昨今、社会的にも関心を集めるドラッグ・ラグ/ロス問題。欧州と比較すると、日本の深刻度が浮き彫りになります。米IQVIAインスティテュートが昨年末にまとめた、日米欧の新薬の承認・保険償還の傾向を分析したレポートをもとに、日本と欧州を比べてみます。
日本の未承認薬、欧州の2倍以上
2014~22年に米国で承認された新薬(新規有効成分)380品目のうち、日本で未承認だった新薬は49%にあたる185品目。欧州は83品目で22%が未承認でした。米国承認新薬に対する未承認薬の数は、日本が2.2倍多くなっています。
米国と比較した場合の未承認薬数は、日欧ともに拡大傾向にあります。米国承認から2年以内に日本で承認されなかった新薬の割合は、14~18年が年平均59%だったのに対し、19~22年は65%に上昇。欧州も24%から33%へと上昇しています。
米国とのラグ、日本は欧州より10カ月長い
14~22年に日米双方または日欧双方で承認された新薬について、米国承認との期間の差を見てみると、欧州は中央値で0.5年遅れだったのに対し、日本は1.3年と欧州よりさらに0.8年遅れていました。
欧州では半数の品目が米国承認から1年以内に承認されていたのに対し、日本は29%しか1年以内に承認されていませんでした。3年以上の遅れは欧州は7%にとどまりますが、日本では34%に上りました。
大企業も日本回避か
19~22年に米国で承認され日本と欧州で未承認だった新薬を開発企業の規模別に見てみると、いずれも新興バイオ医薬品企業が最多。日本は売上高100億ドル以上の大企業の新薬が未承認薬全体の2割を占めていますが、欧州は4%にとどまっており、大企業が日本での承認取得に消極的である可能性が示唆されました。
未承認薬は日欧ともに「がん」と「神経」の領域に集中していますが、日本ではがんの3割、神経の2割が大企業の開発品となっています。
エコシステム改善「効果には時間」
政府はドラッグ・ラグ/ロスの解消に向けて開発環境の整備や薬事規制の緩和などを次々と打ち出していますが、一方で、一時廃止の機運が高まった2025年度の薬価中間年改定は対象範囲を狭めつつ行うことを決め、製薬業界の失望を買いました。
IQVIAインスティテュートのレポートでは、日本について「承認プロセス、治験実施の必要性、承認後の価格設定は、開発会社の規模を問わず日本で新薬を申請する意欲を減退させる可能性がある」と指摘。「官民連携でイノベーションエコシステムの改善を図ろうとする政府の意図は、必要な変化の規模と複雑さを考慮すると、患者アウトカムへの直接的な効果が現れるまでに時間がかかる可能性がある」としています。